現代病は食源病

体に合わない欧米食で淘汰される日本人

日本綜合医学会会長・大仁医院院長 沼田勇先生

玄米菜食60年、85歳にして現役

 日本における玄米食、自然食の運動は、幕末から明治にかけて食べ物の指導だけで多くの病気を治した医師、石塚左玄にさかのぼります。
 沼田勇先生は、左玄の創始した食養法の研究、実践に取り組んで60年。その間、軍医として赴いた中国大陸では捕虜となった部隊を左玄の食養法で栄養失調やコレラから救い、復員後は伊豆大仁に医院を開業して玄米菜食を指導、昭和29年からは『日本綜合医学会』の創立メンバーとして、「医は医なきを期す」の理念の下に現代医学に反旗をかかげ、食生活を中心にした病にならない未病医学を提唱されています。
 その論の正しさはこの60年間、自らは医薬を全く用いず、85歳の現在もなお現役で活躍され、インタビューではおびただしい固有名詞、年号がよどみなく出ることからもうかがえます。
 沼田先生に、本誌300号を記念して現代病への警告と対策を伺いました。

飽食と食源病のルーツ宣教師が絶賛した 粗食時代の日本人の健康

――戦後、食生活も欧米に追いつけ追いこせで50年、今や日本人の3人に1人はがんで亡くなり、糖尿病は予備軍を含めて1千万人以上、さらに成人病は子供達にまで及んでいます。
 先生はこの現状を早くから予見され、警告されてこられましたね。
沼田 人間はもともと鳥や獣と同じように、何を、いかに食べるべきかを自然に知って、何億年も自然健康法をやってきたわけです。それが、医学や栄養学が出現して、かえって病気や病人が増えてきた。
 実際、日本人も昔は非常に健康で、ザビエル、ヴァリニヤーノなど戦国時代に日本にやって来たイエズス会の宣教師達も日本人の健康を高く賞賛しています。
 ヴァリニヤーノの手記には、「日本は資源が乏しく、東南アジアの国々の中では一番貧しく、食べ物もはなはだ粗末だが、住民は健康で明るく、しかも清潔で、バッキンガム宮殿の宮仕人にもまさる礼儀とプライドを持っている」と記されています。つまり、非常に貧乏で粗衣粗食だけれども、皆清潔で健康で、態度も宮廷に仕える人のように礼儀正しいと褒めているんですね。
 ところが、今の日本はあらゆる国の食材、料理が集まり、テレビは毎日のように食べ歩きやグルメ嗜好の番組を流している。こうした現状を見ると、日本人ほど食い意地の張った、卑しい民族はないように思えます。
 では、昔の宣教師たちが絶賛した素晴らしい人種が、いつ、どのように、不健康で、卑しい民族に変ったのか。私はそれを大きく3期に分けられると考えています。

第1期「白米の普及」
――脚気の大流行

沼田 日本人の体が弱くなったのは江戸時代、八代将軍吉宗の時です。
 元禄時代、五代将軍綱吉の堕落政治で幕府は貧窮し、その後、経済の建て直しをいろいろ画ったものの成功しない。そこに、吉宗が景気回復策として米の増産を画り、田を耕すことを奨励した。これが世に知られる「墾田法」(1722年発令)です。
 この時から、米の大量増産が可能になり、江戸町民はこぞって白米を食べるようになり、その結果が今の脚気、いわゆる「江戸わずらい」を生んだのです。
 町民だけでなく、墾田法では、田を作った者は米を食べても良いことになりましたから、それまで「百姓は米を食うべからず」と、もっぱら雑穀を食べていた百姓も白米を食べるようになり、脚気はたちまち全国に広がり、50万人くらいがバタバタ死んでいったのです。
 栄養学的に計算すると、1日2合の白米を主食とする場合、不足するミネラルやビタミンの微量栄養素を野菜からとると、大雑把に見積もって大皿に山盛4杯の野菜が必要です。しかし、庶民の食卓が貧しいことには変わらず、"雑穀飯”が"白米飯”になったことで、ビタミンB欠乏症の脚気を生んだわけです。
 また、微量栄養素不足は何かものたらない、口寂しさをもたらし、砂糖も少しづつ出回るようになって、甘いものを食べる習慣もこの頃より生まれてきました。

第2期「砂糖の普及」
 ――結核の黄金時代

沼田 そうして徳川300年が終わり、その生き残りが明治を迎えました。
 明治になると自由貿易で砂糖は安価に出回るようになり、白米でぎりぎり耐えて生き残った連中が今度は"白米に砂糖”ですから、たちまちビタミン欠乏症になった。
 白砂糖はブドウ糖と果糖の結合したものですが、果糖はブドウ糖の50倍もビタミンを余計に消費します。ビタミンだけでなく、白砂糖はカルシウムなどのミネラルも奪いますから、極端な微量栄養素不足に陥り、その結果、免疫力がすっかり低下し、そうして出てきたのが結核です。江戸時代に擡頭し始めた結核は砂糖の自由化で黄金時代を迎えました。
 実際、昭和16年に砂糖の配給が無くなって、その年の外科学会では盲腸炎は激減と報告されました。当時、私は北里研究所の付属病院の当直をしていたのですが、昭和15年までは夏になると疫痢による子供のひきつけが多い日には10人くらい来ていたのが、昭和16年以降は全く見られなくなり、近眼も激減しました(図1)。
――現代では、糖尿病の急増にも大きな影響を与えていますね。
沼田 砂糖は澱粉などの複合糖質と違って急激に吸収されるので、血糖の濃度の上昇を防ぐために、突然インスリンが動員され、砂糖をくり返し食べていると内分泌腺が疲れて糖尿病を引き起こします。
 甘いものを欲しければ、果糖・ブドウ糖の吸収に抑制的に働く、黒砂糖を使った昔ながらの素朴な菓子を少量ですね。

第3期「加工食と欧米食」
──アレルギー・成人病の急増

沼田 第3期はまさに第二次世界大戦後から現在に至る時期です。
 大戦後、栄養学者は声を大に、"良質蛋白源としての肉と、カルシウム源としての牛乳”をすすめ、そこに昭和30年(1955年)の米の大豊作と朝鮮戦争特需でもたらされた経済復興が重なり、以後、高度経済成長とともに食生活は欧米化の一途を辿り、その結果が"病気の欧米化”、すなわちがん、糖尿病などの成人病(生活習慣病)、また、アレルギーなど、戦前の日本ではほとんど見られなかった病気が急増するようになりました。
 昭和45年(1970年)頃からは、老人の病気が子供たちや若者たちにも見られるようになり、最近はそうした実情に合せ、成人病は生活習慣病と呼ばれるようにもなりました。
 それに、戦時中の代用食から発展した加工食品が加わり、インスタントラーメンなどを代表とするインスタント食品、コカコーラなどのジャンクフード(がらくた食品)がもてはやされ、精白技術の向上、食品添加物、化学肥料、農薬の使用と、食物はすっかり工業製品化して、今やダイオキシンなどによる精子減少、不妊症の増加など、種の滅亡の危機さえ生まれています。

体質に合わない欧米食で 淘汰される現代の日本人 牛乳は頭を悪くし、 アレルギーの元凶となる

――戦後、食生活が急速に欧米化した大きなきっかけは、やはりパンとミルクの学校給食でしょうか。
沼田 そうですね。
 戦後早々、戦勝国のアメリカが日本の子供に1億ドルの粉ミルク(粉ミルクといっても生乳からバターをとったカス、脱脂粉乳ですが)、をプレゼントしてくれたのを機に、政府は牛乳を飲め飲めとさかんにPRし始めました。
 昭和27年、完全給食が始まってからは、"牛乳はカルシウムや蛋白質が豊富で、栄養がある”と、脱脂粉乳に油と生乳を3分の1程度混ぜた給食用ミルクを全国の児童に支給するようになりました。
 ところが、牛乳は牛のおっぱいですから、人間の体に換算すると牛の脳は人間の50分の1程度です。そうすると、脳の形成に必要なタウリンとかレシチンなどの成分も50分の1程度しか含まれていないことになり、それもあって当時教育委員長をしていた私は、"牛乳を与えると馬鹿になる”と牛乳には反対したんです。
 そして、アトピーや花粉症など昔はなかったアレルギーが始まりました。
 昭和10年以前、我々が習った小児科の教科書には"離乳期後に牛乳を与えると滲出性体質になるので、離乳期以降はなるべく牛乳を与えるな”とありました。滲出性体質とは、ブヨブヨして虫に刺されるとやたらに腫れて皮膚がグジュグジュしてくる体質、つまり、アレルギー体質です。
 牛乳がアレルギーを起こすのは東洋人は離乳期以降、腸内で乳糖を消化する酵素「ラクターゼ」が分泌されなくなる(図2)からで、これは「乳糖不耐性」と言って、哺乳類が離乳のために体が本来持っている機構です。
 ところが、ヨーロッパ人は死ぬまで離乳期がない、つまり赤ちゃんの食べ物であるおっぱいを死ぬまで飲むことが出来る。一方、離乳期を持つ日本人が離乳期以降も乳を飲むと、それを消化する酵素がないので、牛乳を飲むと牛の蛋白質がアミノ酸の段階まで分解されないまま体内に吸収されてしまい、そうすると体は人間のではない異種の蛋白質を排除しようとします。それが、アレルギー反応(抗原抗体反応)です。
 今、アレルギー時代と言われていますが、日本人は欧米人よりも20倍近くもアレルギーが多い。それは、新しい条件に適応できない者は淘汰されるということです。ヨーロッパ人が牛乳を飲めるといっても、始めからそうだったわけではない。牧草には適しても、穀類は米と違って蛋白価の低いトウモロコシや麦類(小麦、ライ麦、燕麦)しかとれず、やむを得ず肉や牛乳をとるようになり、何万年もの間の淘汰の歴史を経て生き残ったのが今のヨーロッパ人種です。
 ですから、今、日本人は淘汰されるか、されないかに立って、淘汰されなかった者が今後の日本人になっていくわけですね。

肉食とがん・ボケ・糖尿病

――淘汰される側に、がんや糖尿病もあるわけですね。
沼田 そうです。要するに、新しい条件に耐えられない者が発病する。その条件の一つが肉食です。
 まず、肉を摂取すると、腸内では肉を分解したアミノ酸からアンモニアや、インドールなどの発がん物質(変異原)ともなる各種有害なアミン類が作られます。
 肉を食べると、3日くらい変異原になる物質が大便や小便に大量に出てくることが証明されています。それをくり返していれば、変異原によって傷ついた遺伝子は修復できなくなり、がんになるのではないでしょうか。一方、完全菜食では腸内細菌がB、Bを合成するということもあるんです。
 それと、肉を食べるとこの写真のように赤血球が固まって、毛細管を通過しなくなる。赤血球が末梢血管を通過できなければ、体の隅々にまで血液が酸素を供給できなくなり、そうすると、場合によっては組織の腫瘍化ということ
も考えられます。
 この現象が脳に起きれば、脳の血管がつまり、脳に酸素が運ばれなくなって、いわゆるボケが始まります。
 糖尿病もその影響を受けています。インスリンを出す膵臓のランゲルハンス島は毛細血管によって栄養が運ばれてインスリンが作られますが、血管が塞がれて毛細血管を通過しなくなると、インスリンが十分できにくくなり、糖尿病になっていくということがあります。
――今、インスリンの出方がまともな人は10人のうち2人くらいだと…。
沼田 江戸末期に迎えられたオランダ軍医ボードウィンも明治に招聘されたベルツ博士も、日本人は糖尿病にならない人種だと言っていたのが、今はもう軒並み糖尿病でしょ。それは何が原因か、この写真からもよくわかると思います。
――牛乳と同じ伝で、肉食の害も欧米人に比べて日本人にはより強く出るのでしょうね。
沼田 それと、動物の脂肪は植物油と違って固まりやすいですね。肉に含まれている飽和脂肪酸は人間の体温の36〜37度では固まってきますから、平均体温が欧米人より低い日本人は、そういう面でも肉食は合わないです。
 その点、魚の脂肪は日本人に適しています。ことに魚に含まれている不飽和脂肪酸「EPA(イコサペンタエン酸)」は、肉の脂肪とは逆に、血液の粘度を下げるとともに赤血球を柔くする働きがあるので、狭い末梢血管の中でも赤血球が通過ができます。
 この他、肉や白米を食べていると、中に含まれるリン酸や硫酸による血液の酸性化を防ぐために、体は歯や骨のカルシウムを溶かして中和します。これに、白砂糖が加われば、体内のカルシウムは致命的に奪われ、虫歯、骨粗鬆症、近眼、心筋梗塞などいろいろな病気の引き金になるわけです。
──動物性食品は全くとらないと蛋白質が心配だと言われますが、先生は?
沼田 魚は1ヶ月に2〜3回食べる程度で、基本的には玄米・菜食です。米の蛋白価はすぐれていますから、玄米を主食に豆腐、納豆で蛋白質は十分とれます。

翻訳栄養学を 盲信するなかれ 人間は穀食動物

――私共も、今先生がおっしゃったような理由から、牛乳、卵、肉は日本人には合わない。主食は消化の点も考えて、二分搗米に2〜3割の麦(大麦)を混ぜた麦飯、それに、味噌汁、納豆、芋・野菜の副食をすすめ、糖尿病をはじめ成人病の改善に成果をあげています。
沼田 日常食は、主食に玄米、二分搗米に麦を混ぜた麦飯でも良いですが、副食に味噌汁、豆類(豆腐・納豆)、野菜、海藻を基準にしておれば、栄養不足にはならず、健康に適切です。
 幕末から明治にかけて、食べ物の指導だけで人々の病気を治した偉大な医師石塚左玄は人間は本来、「穀食動物」と主張しています。
 これは、人間の唾液には澱粉の分解酵素「プチアリン」が含まれているのに、肉食動物や草食動物の唾液にはない。一方で、人間の唾液には蛋白質の分解酵素はない。こうした消化酵素や、また胆汁などの考察からも、人間は左玄の言う如く、"人は穀物を主食に、野菜、海藻、ごく少量の動物性蛋白質”が適しており、特に、長い間、こうした食事で培われた日本人の体質には合っているのです。

一物全体食――玄米のすすめ

沼田 なぜ、玄米が良いか。
 私たちが米を食べるのは、米に含まれている澱粉をエネルギー源として使うためで、澱粉がエネルギーになる時には、ビタミンやミネラルなどが必要です。玄米一粒の中にはそれらが過不足なく含まれているからです。
 米のすべてを丸ごと食べる玄米食は、石塚左玄の「一物全体食」の実践であり、左玄は、"よく噛んで粉砕し、唾液をまじえて飲み下せる穀類が最良”と、穀類と噛むことの大切さを唱えています。
 栄養学者は、玄米は消化が悪いと目の敵にします。しかし、消化吸収試験は三大栄養素のうち、特に脂肪の吸収を根拠にしているだけで(表1)、玄米に優位なビタミンB群や食物繊維については無視しています。問題の脂肪にしても、玄米100g中に脂肪は22・3gなのに対して白米は0・8gで、白米の脂質が100%吸収されても実際には玄米には追いつかない。
 また、フィチン酸がカルシウムの吸収を阻害するという指摘も、私は50年以上、血中カルシウムに注目してきましたが、玄米食者にカルシウムの値が有意に低いというデータは得られていません。
 玄米には農薬が多いという指摘も、実際には有害物質の排出力にすぐれ、農薬は肉や牛乳の方がよっぽど多いのです(図3)。

身土不二――風土食のすすめ

――今の日本の自然食運動、玄米食運動の多くはこの石塚左玄の流れをくんでいますね。
沼田 すでにヨーロッパ文明の幕開けとなった明治期、栄養学者は"肉は肉を造る”というドイツの学説、あるいは「カロリー論」をもち上げ、カロリーの高いバターや肉が推賞されるようになったのですが、これに反論したのが石塚左玄です。
 彼の代表的な主張の一つに「風土食」、つまり、順化適応した先祖伝来の食生活が大切だということがあります。
 風土に合わない、先祖代々のものではない食生活が、新しい病気を、その国、その民族に持ち込むのです。結局、他の人種を真似ても健康は得られないのです。
 肉がいけないといっても、アラスカのエスキモーなどは、マルターゼという澱粉の分解酵素を、あるいはサッカロースという砂糖を果糖とブドウ糖に分解する酵素をもっていないので、彼らはニシンやアザラシなどの肉を主食としています。しかし、もとをただせば我々と同じ蒙古人で、そうした厳寒の特殊な環境に適応する体質ができるのには2万年くらいかかっています。
 しかも、本来、人間は穀食動物ですから、エスキモーや欧米人といえどもその害をこうむらないわけにはいかない。実際、欧米人も一般大衆は昔から黒パンに豆といった食事が主流だったわけです。

分析学はあてにならない

沼田 それを、食品分析表を唯一のよりどころに、それもヨーロッパの翻訳栄養学を金科玉条に、ヨ
ーロッパの教科書に書いてある食事を日本に持ち込み、パンをご飯に代えただけで、しかも黒パンではなく白パンで、あとは牛乳を飲ませて卵をやれば良いという方式で健康になるわけがない。
 しかも、アメリカでは60種類くらいの栄養素を分析しているのに、日本の分析表は微量栄養素などはたかだか8種類というお粗末なものを基準にしています(表2)。
 その上、分析そのものがあまりあてにならない。ホウレン草一つとっても栄養価は、朝とったのと夜とったのでは違うし、葉っぱの先か真ん中でも違ってくる、畑によっても違ってきます。
 豚肉にビタミンBが多いのを最初に発表したのは私ですが、日本では豚に糠を食べさせて飼ってるからBが多いのであって、中国のように人間の大便で飼ってるような豚は全くゼロなんです。

粗食・咀嚼で腹8〜6分
湯茶は慎んで

沼田 厚生省は今、1日30種類の食品をすすめていますが、それでみんな病弱になっている。玄米なら一汁一菜で良かったわけです。
 アメリカでは腹6分にすると、がんが一桁減ると言って少食をすすめ、それを実行しています。しかし、日本人はそれをしない。
 胃腸の調子が悪かったり喘息の発作が出そうな時とか、とにかく体の調子が悪い時は、玄米とゴマ塩位でおかずは食べない。そして、ゆっくりよく噛んで、食後はうがいだけ。これを1食か2食とれば簡単に治ります。
 私は戦時中、中国で赤痢に2度かかりましたが、白米と梅干だけで湯茶を飲まずに様子をみたところ、3日目ですっかり治りました。
 また、敗戦時に上海から軍隊が引き上げる時にコレラが発生したのですが、これもその方法で、一人の患者も出さず全員復員できました。はなはだ不潔で消毒薬は一切ないという環境の中、"食事中はもちろん食後1時間は湯茶を飲むな”という命令を徹底させて、コレラの蔓延を防いだのです。
――結局、胃酸の殺菌力に頼る?
沼田 胃のペーハーは1ですから当然、菌は死にます。湯茶を飲みますと、湯茶は消化の邪魔になるので液体だけ胃袋をトンネルのように通過してしまう。その時、コレラ菌が腸に入るチャンスなんです。
 普段の食生活も、食後の湯茶は飲まないのが望ましく、空腹時に湯茶を飲む時なども、唾液とまぜて飲めば、胃潰瘍の傷面も唾液の粘液におおわれて刺激物が直接ふれずにすむので、胃潰瘍なども案外治りやすいのです。
 この方法はまた、O|157の防止にも用いられると思いますが、採用されていません。風土に根差した栄養学、

先祖代々の食を大切に

――先生はもともとは分析学から出発され、ビタミンCの分解酵素や、ビタミンB1の分解酵素の発見者でもおられるんですよね。
沼田 私は、栄養学を無視して良いとは言っていません。石塚左玄の食養論も元はと言えば、ナトリウムとカリウムの分析から始まっています。
 私が言いたいのは、欧米の栄養学をそのまま翻訳して日本人に適用すべきではない、また、食品の栄養分析を鵜呑みにして、世界中に適用するのは間違いであるということです。
 体質は人種によっても個人によっても違います。その点を鑑みた栄養学が求められ、食生活も先祖代々伝わる食生活を無視しては、健康は得られないということです。
 欧米食の本家のアメリカでは1970年、マクガバンが「全粒穀物を主食に、豆類を蛋白源とし、野菜、海藻食にして、適宜に運動、労働をする」という白書を出しています。
 日本が欧米に真似すべきは、こうした食生活なのです。下手な栄養学に頼らず、我々日本人はまずは先祖代々の日本食を、自然にまかせて食したら良いというのが結論です。
(取材構成・本誌功刀)