食糧問題から性蛋白質を! とり過ぎていませんか?

前女子栄養大学教授・東京都立立川短期大学名誉教授
吉田勉先生

第一の栄養素"蛋白質”も、 現代は過剰摂取の時代に

 蛋白質は英語でプロテイン(Protein)と言い、ギリシャ語の"第一(Proteios)”が語源です。蛋白質はそれほど体にとって重要な栄養素です。
 摂取された蛋白質は、筋肉や骨を形作る材料になるだけでなく、酵素、ホルモン、免疫細胞の原料となり、また、組織の新生・補修、血漿蛋白の形成、さらにエネルギー源にもなります。
 このように、体にとって非常に重要な栄養素である蛋白質も、欧米型の食生活に移行しつつある現代の日本では過剰摂取の傾向にあり、アレルギーやがんなどの急増の背景には高脂肪食と並んで高蛋白食の弊害が言われています。
 そこで今月は、健康面からも食糧問題からも蛋白質の過剰摂取を警告し、植物性蛋白質の摂取を重視されている吉田先生に、植物性蛋白質の上手なとり方を含めて蛋白質のお話を伺いました。

植物性食品で蛋白質をとる 蛋白質の栄養評価と必須アミノ酸

――本誌は植物性食品を中心にした食生活を提唱していますが、栄養素の充足ということで皆さんが心配されるのが蛋白質です。
 そこで、本日は蛋白質の上手なとり方、中でも植物性蛋白質の上手なとり方というテーマでアドバイスしていただけたらと思います。
吉田 まず蛋白質の栄養評価ということですが、蛋白質はご存知のようにその構造の中に窒素を含み、アミノ酸の組み合わせで出来ています(アミノ酸重合体)。
 蛋白質は種属特異性が高い栄養素で、アミノ酸の組成はそれぞれの生物によって異ります。食物からとった蛋白質もそのままでは栄養素として吸収されず、腸の中でアミノ酸に分解されて初めて吸収され、それが肝臓などでその生物固有の蛋白質につくりかえられます。
 ですから、例えば人間の蛋白質と牛の蛋白質とではそのアミノ酸組成が全く異なり、牛肉を摂取しても腸の中でアミノ酸までに消化・分解されなければ、人間の蛋白質の材料とはなりません。異種の蛋白質が未消化のまま体内に吸収されれば、体はそれを異物として攻撃してしまいます(抗原抗体反応)。
 人間の体をつくるアミノ酸は現在約20種類が分かっています。植物や微生物はアミノ酸の大部分を、体の中で基本的な糖代謝系の中間物質から合成していますが、人間の場合は、そのうちの9種は体の中ではつくれず、食物からとらなければなりません。この食物からとらなければならないアミノ酸を「必須アミノ酸」と呼んでいます(図1)。
 アミノ酸もビタミンやミネラルなどの微量栄養素同様、互いに相補って働くので、全てそろわないと体の中で良質の蛋白質をつくることができません。ですから、栄養素としての蛋白質は、この必須アミノ酸を上手に必要量を確保することが重要になります。
 蛋白質の栄養評価は必須アミノ酸の量と種類で決まり、機械的に計算で出す方法(化学的評価法)で現在最も一般的に使われているのが、1950年代に提唱された「プロテインスコア」の基準値を改訂して算出した「アミノ酸スコア」です(表)。この他に「ケミカルスコア」もありますが(表)、それぞれ基準になるアミノ酸パターン(人間の体の要求に見合った理想的な必須アミノ酸量の組み合わせ。図1)が違います。
 いづれにしても、こうした化学的評価法は理想値を機械的に簡単に出す点では意味がありますが、実際に動物や人間が食べた時の値(生物価/BV)とは必ずしも一致しないので、補助的なものとして考えるべきです。

質の良い蛋白質と 質の悪い蛋白質

――現代栄養学で卵が良質な蛋白源とされるのは生物価が高く、アミノ酸スコアが100点で、そのバランスも人間の体にとって良いということだからですね。
吉田 おっしゃる通り、卵を代表とする動物性蛋白質は良質な蛋白質源だと言われるのは、必須アミノ酸が十分含まれ、その組成も良いからです(図2)。
 逆に、1種類以上の必須アミノ酸がかなり不足する食品は質の悪い蛋白質となります。必須アミノ酸が基準値の100に満たないアミノ酸を「制限アミノ酸(表注)」と呼びますが、例えば小麦粉は必須アミノ酸の一つリジンが44と極端に低くなっています(図2)。
 この中間が大豆、米、蕎麦などの蛋白質です(図2)。

肉食禁止の日本人を救った 米と大豆の組み合わせ

――私達はエネルギーの約7割を炭水化物で、お米と大豆を重量比にして2対1くらいの割合でとりましょうとすすめています。
 具体的には消化の面も考えて、"二分づき米に麦(大麦)2割を混ぜた麦ご飯+大豆発酵食品の納豆”を基本に、雑穀、味噌汁、豆腐、芋、野菜の組み合わせで蛋白質も脂質もまかなうわけです。
吉田 今、日本人は糖質(澱粉質)・脂質・蛋白質の三大エネルギー源のうち、澱粉質の割合は60%弱になっています。それを昔の日本人並に70%くらいに上げ、穀類を支持するというのは間違っていないと思います。
 それに、お米に納豆や豆腐などの大豆製品を加えるという考えも悪くはない。必ずしも動物性の蛋白質に頼らずとも、植物性の蛋白質でもうまく組み合わせればそれぞれの制限アミノ酸を互いに補完できますから。
 特に、お米の蛋白質と大豆の蛋白質の組み合わせは相性が良く、相互に不足する必須アミノ酸を補い合って質が高くなります。天武天皇が肉食禁止令を出して以来、日本人が明治期まで肉食禁止で生き残れた、つまり日本人の栄養状態が大丈夫だったのは、米や粟などの雑穀と大豆との間のアミノ酸補足効果に負うところが大だったのです。
 小麦と大豆の組み合わせではこうはいきません。パンやうどん、スパゲッティなど、小麦はオーバーに言えば食べない方が良いくらいで、栄養学的に米の方が或いは雑穀の方が、断然勝っています。その一番の根拠はアミノ酸組成です。小麦では全く落ちます。
――畑の肉と言われるくらいですから、植物性食品中心の食事ではやはり大豆は欠かせないですね。
吉田 ただし、生大豆の欠点は消化が悪いことです。その点、大豆を加熱したり、発酵食品の納豆でとるというのは悪くない考えですね。

植物性蛋白質は吸収は悪いが…

――消化が悪いというのは植物性蛋白全般に言えますか。
吉田 植物性蛋白質の弱点の一つは、どうしても植物性蛋白の方が消化が悪い点です。同じ量では動物性蛋白に比べて吸収のされ方が少なくなります。別な言い方をすると、消化が遅いということですね。植物ですから細胞が硬いセルロースなどにおおわれて、それを壊すために時間がかかるわけですね。
 一方で、場合によっては繊維的な働きもすることになりますから、肉でしたらストレートに入るところが、食物繊維としての良い働きもある程度期待できます。高蛋白食ですと、どうしても腸内細菌の悪玉菌が増えて腐敗の方に働きますから、それこそ、オナラや大便の悪臭の元になるインドールやスカトールなどの蛋白質腐敗物質が異常に増え、それががんや老化の原因になるということも考えられます。

植物性食品で 蛋白質のとり過ぎを防ぐ

――蛋白質の摂取量は1日どれくらいが適当でしょうか。
吉田 成人の1日の所要量は65g程度となっています。ところが、栄養調査の結果では、今、日本人の平均蛋白質摂取量は80g以上と25%も余計に摂取しています(図3)。
 糖質、脂質、蛋白質の三大エネルギー源のうち、とり過ぎると問題が生ずる蛋白質や脂質を減らし、その分のエネルギーをご飯やお芋など澱粉質(糖質)の食物から得るのは賢明だと思います。
 蛋白質としては15g以上を減らしても良いので、それを糖質に置き換えるのです。例えば、肉100gでは蛋白質15g以上で、エネルギーは160キロカロリー以上となります。これを、ご飯一杯に替えれば、蛋白質は3g以下で、エネルギーは同じ160キロカロリーということになります。

蛋白質の働きと病気の予防

――蛋白質が体にとって非常に重要な栄養素だということは誰でも知っていることですが、具体的に病気の予防ということではどんな関連がありますか。
〈体を構成する――骨粗鬆症〉
吉田 蛋白質は成長中の子どもの身体を作るのに欠かせませんが、骨を作るのにも重要です。
 骨がカルシウムを主成分としていることは誰でも知っていますが、まず蛋白質の枠組みができ、そこにカルシウムが貯まって初めて骨となるのです。鉄筋コンクリートに喩えると、鉄筋が蛋白質で、コンクリートがカルシウムです。
 ですから、若い時に無理なダイエットをすると、蛋白質が不足するため骨が弱くなり、骨粗鬆症予備軍となってしまいます。
〈貧血〉
吉田 赤血球中の赤い色素であるヘモグロビン(血色素)は、鉄を含むヘムという部分とグロビンという蛋白質とが結合しています。 ですから鉄剤を飲むと、確かにヘムはできますが、蛋白質がないと肝心のヘモグロビンにはならないので、鉄を補給するだけでは貧血は簡単には解消しません。鉄と一緒に蛋白質をとる必要があります。
 鉄剤だけ口に放り込んで家を飛び出すのではなく、まず食事をきちんととってから鉄剤を補給しておくべきです。
〈含硫アミノ酸と脂肪肝〉
吉田 酒の肴に蛋白質は忘れずに補給することです。
 硫黄を含んだアミノ酸を含硫アミノ酸(図1注・図2参照)と言い、含硫アミノ酸の一種であるメチオニンは、体内で酒飲みが起こしやすい脂肪肝を防ぐ成分に変化します。
〈大豆蛋白/タウリンと脳卒中〉
吉田 イカやタコに多いタウリンというアミノ酸や大豆蛋白質には血中コレステロールを下げる力があります。
 昔に比べて、日本で脳卒中の死亡が著しく低下したのは、蛋白質などの摂取量が増加した結果蛋白質で構成される血管が丈夫になったことと、減塩で高血圧が減ったことが、脳出血の減少につながり、ひいては脳卒中死の減少につながりました。
〈免疫力の保持〉
吉田 免疫を担う本体は蛋白質です。ですから、蛋白質が不足すると病気への抵抗力が弱まることになるので、蛋白質は特にお年寄りにとっても重要な栄養素です。
〈有害金属の吸収を防ぐ〉
吉田 含硫アミノ酸の中には水銀などと結合して、その吸収を妨げるものもあります。これなどは食品公害対策として覚えておきたいことの一つです。

蛋白質はとり過ぎている 時代は「蛋白質がとり過ぎだ」

――大切な蛋白質ではありますが、ここ20年来、高脂肪食と並んで、高蛋白食の害が取り沙汰されるようになりました。先生はその点を強く警告されていますね。
吉田 大昔から蛋白質が足りないと随分啓蒙され、一時期「蛋白質が足りないよ」というコマーシャルも流行りました。しかし、そんな時代はとっくに終って、今では沢山食べるより、抑えることを考えた方が良い時代に入っています。
 蛋白質のとり過ぎによる害は、がんを始め、多くの成人病の引き金になりますから、必要以上にとるのは避けなければなりません。

高蛋白食とがん

吉田 アミノ酸が代謝されると有害なアンモニアができますが、アンモニアは肝臓で解毒されて無毒な尿素となって排泄されます。ところが、蛋白質を大量に摂取すると、消化管や体内で発生したアンモニアなどを十分に処理しきれなくなり、その結果、組織を傷害してがんなどが起こりやすくなります。
 またアミノ酸が高温で加熱されると、突然変異を起こす物質ができますが、これは同時に発がん物質でもあり、そのため、おこげや焼き魚の焦げた皮などが敬遠されているのです。
 また、大腸がんの危険因子の一つに赤身の肉があります。赤身の肉にはヘム鉄が多く含まれ、そのヘム鉄のヘムが脂肪の酸化物(過酸化脂質)に反応すると非常に活性の強い活性酸素(過酸化脂質ラジカル)ができて、これががんの引き金になります。
 ですから、高蛋白・高熱処理・赤身肉という条件を全て満たしたステーキなどを日常的に食べるのは避けるべきです。

未消化の蛋白質と アレルギー

吉田 食品中の蛋白質には、アレルゲン(アレルギーを起こす物質)として有名なものがあり、中でも、卵、牛乳、大豆は子供の三大アレルゲンと言われています。
 食品中の蛋白質は消化の段階で腸内でアミノ酸まで分解されれば問題ないのですが、完全に分解されないまま体の中に吸収されると、体はそれを異物(異種蛋白質)とみなして抗原抗体反応(アレルギー反応)を起こします。
 ですから蛋白質をとりすぎたり、消化能力が弱いとアレルギーになりやすくなります。
卵に多い含硫アミノ酸は
カルシウムを尿に排泄する吉田 卵などに多く含まれている含硫アミノ酸(図1注・図2参照)が体内で酸化されると硫酸ができます。それを中和するのにカルシウムが使われます。
 ですから、蛋白質を大量にとると、尿中へのカルシウム排泄が増加し、そのカルシウムは腎臓や尿管、膀胱などを経由して排泄されるので、こうした尿の通り路(尿路)にカルシウムが沈着しやすくなります。
 日本人の尿路結石の80%はカルシウムによる結石ですから、尿路結石を起こしやすい人は肉や卵などの高蛋白食を避けたほうが良いでしょう。
 またシュウ酸カルシウム結石を起こしがちな人は、ホウレン草のようなシュウ酸の多い食品と、肉や卵などの高蛋白食品を一緒に食べるのは控えます。

牛乳蛋白のとりすぎとコレステロールの上昇

吉田 牛乳中の主要蛋白質であるカゼインは、チーズの主たる蛋白質でもあります。このカゼインは血中コレステロールを上昇させます。
 コレステロールの多い食事をとってなおかつ牛乳をガブ飲みするのは止めることです。

悪玉菌の増殖と老化

吉田 さらに蛋白質をとり過ぎると、腸内細菌のうちでも悪玉菌と呼ばれるクロストリジウムなどの腐敗菌が腸内に増えてしまいます。この菌は臭いおならの成分も作ります。
 クロストリジウムなどは老人になると増えるので、これが老化に関係すると考えている人もいます。

何より食糧問題から 肉を止めれば飢餓を救える
――1kgの飼料蛋白質で肉の蛋白質は100g――

吉田 私が植物性食品をとった方が良いと言う一番大きな理由は食糧問題です。
 肉が美味しい、肉を食べたい、そんなことは飢餓に苦しんでいる人達に目を向ければ言っていられないんです。彼らに食物を回す立場から言えば、肉というのは贅沢極まるというのが根拠です。
 世界中が今アメリカ人並の食生活をしたら、まず半分は死ななければならない。逆に、世界中がインド人並の食生活をしたら、倍養えるわけです。ですから、肉を食べるのを止めたら食糧問題は途端に解決する。それをしないのは先進国の責任です。
 家畜に1kgの飼料蛋白質を与えて、やっと100〜200gの肉蛋白質が得られます。肉の代わりに直接、穀物を食用にすれば、たちまち5〜10倍の蛋白質を供給でき、その分も食糧不足の発展途上国に回せるのです。

もっとお米を!

吉田 小麦より質が高くて、大豆と相性の良い米を日本人がもっと食べれば、小麦などの輸入を減らすことができ、その分を世界中の飢えている人々に回せます。
 日本人並の食生活をするとちょうど現在の世界人口をちゃんと養えます。そういう意味でも日本人の食生活は評価できるのですが、ただ大きな欠点は相当部分(カロリーベースで約6割)を輸入に頼っていることです(図4)。
 本来ならばアフリカなどに回してあげるべき食べ物を横取りして家畜に、例えば豚や牛、鶏などに食べさせている。それには相当罪深いものがあります。ですから、日本人は日本でできる作物を食べるようにまずすることが、日本の食糧問題にとっても世界の食糧問題にとっても重要だと思います。
 水田稲作というのは素晴らしい技術です。弥生時代に始って2000年続いていますが、同じ田んぼを2000年使っていても連作障害は起こりません。これは凄い技術なのです。この日本の輝くべき技術をもって、日本人が皆お米を食べれば、小麦も輸入しなくて良いし、減反もしなくても良い。環境保全にもなります。
 何億という飢えた人がいるという現実の前には、栄養価がどうのというのは副次的な問題とも言えます。もちろん、蛋白質が不足していては健康は保てませんし、子どもや貧血の人のように動物性の蛋白質が必要な人もいます。
 しかし、われわれ成人で健康な人間にとっては、成人病(生活習慣病)や老化防止の一対策としても、世界や日本の食糧・農村問題の対策からも、植物性蛋白質の摂取を、中でもお米・雑穀と大豆の組み合わせを基本にした食生活の良さを考えるべきだと思います。