遺伝子組み換え食品がかかえる危険性
遺伝子組み換え"大豆”が食卓にのぼる
生命と地球を守る『自然法則フォーラム』吉岡博さん
安全性未確認のまま出されたゴーサイン
消費者の選択の自由もない"表示なし”
自然界では存在し得ない、種の壁を破った新生物、遺伝子組み換え作物のもつ危険性は今、世界中に論議を呼び起こしています。
日本でも昨年8月26日、厚生省(食品衛生調査会)が、多国籍農薬メーカーで知られるモンサント社など開発企業3社から申請されていた「遺伝子組み換え作物」について、「安全」の評価をくだしました。
この答申により昨年11月から、人工的に遺伝子を組み込んで農薬や害虫に対する抵抗性を高めた「遺伝子組み換え作物」7品種(表1)が、米国、カナダから輸入され、今年に入って食用油や豆腐などに加工されて市場に出まわるようになりました。これら7品種に次いでさらに今、13品種の追加が検討されています(表2)。
しかし、国の安全審査は開発企業のデータだけに拠っており、しかも、国が安全評価したものには表示の義務づけがありません。そのため消費者には見分けがつかず、商品選択の自由さえ奪われているのが現状です。
こうした事態に対し、各市民団体、消費者団体は、遺伝子組み換え作物の輸入と生産の全面見直し及び停止・表示の義務づけなどを行政に求めています。市民団体の一つ、『生命と地球を守る――自然法則フォーラム』はその一環として、昨年10月、遺伝子研究では米国トップクラスのジョン・フェイガン博士(写真)を招聘、『生命の危機!! 遺伝子操作への警鐘』と題した特別講演会を開催するなどキャンペーン効果をあげ、大きな反響を呼びました。
今回輸入を許された遺伝子組み換え作物の中でも、自給率わずか2%と、100%近くを輸入に頼っている大豆は、かねてより本誌が推奨している、味噌、醤油、納豆、豆腐などの食品に紛れこんで、読者の食卓にものぼりつつあります。
そこで今月は遺伝子組み換え作物の危険性について、『自然法則フォーラム』を舞台に消費者から行政まで広く遺伝子組み換えの危険性を訴えている吉岡博さんに急遽、お話を伺いました。
分子生物学者J・フェイガ
ン博士(米マハリシ経営大学
教授)は、遺伝子工学の最
先端研究に携わる中、安全
性未確認のまま産業に応用
されていくことに疑問をも
ち、研究補助金約2億円を
返還。現在は、遺伝子組み
換えによる食物の危険性を
訴え、禁止キャンペーンを
世界各国で行っている。
安全と評価された
遺伝子組み換え作物に
表示はいらない?
味噌、醤油、豆腐、油
大豆製品が危ない
――蛋白源として納豆や豆腐などの大豆製品を高く評価している本誌としては、遺伝子組み換え大豆の輸入を心底憂えています。
今までもポストハーベスト農薬など問題の多かった輸入作物ですが、こうなったら殆ど輸入に頼っている大豆の加工食品はどんなに高くても国産のものを選ぶべきですね。
吉岡 今回、輸入された遺伝子組み換えの農作物は、大豆、トウモロコシ、ジャガイモです(表1)。それが今年あたりから大豆油、コーン油、醤油、豆腐、味噌、コーンスターチ、成形フライドポテトなど多くの食品に加工されて市場に出回ってきています。
遺伝子組み換え作物は表示しなくても良いことになっていますから、油や豆腐はメーカー側が"100%国産大豆使用”、または"遺伝子組み換え大豆不使用”などとうたっていない限り、見分けがつきませんね。
"安全”の根拠は、企業データのみ
――表示が義務づけられていないというのは大問題ですね。消費者は選びようがない。
吉岡 厚生省は安全を確認したものに表示は義務づけられないとしています。しかし、安全性について国は開発企業側の資料を検討しただけで、それに対して我々は安心できないと言っているわけです。
しかも、メーカー側の安全試験というのがわずか4〜10週間の動物実験にすぎず、長期に摂取し続けた場合の慢性毒性については全く検討されていません(表3)。まして人への臨床試験は皆無ですから、現段階における遺伝子組み換え作物の導入は、我々人類に対する壮大な人体実験が行なわれるようなものだと私達は考えています。
――表示しないのは日本だけですか。
吉岡 1994年に、遺伝子組み換え作物の商品化第一号として、アメリカで日もちする遺伝子を組み込んだトマトが売り出されました。
これに対し、当然のことながらアメリカの消費者団体は表示の義務を政府に求めましたが、結局、FDA(食品医薬品局)は安全であるというのを理由に表示を義務づけませんでした。この場合も、安全の判断基準は独立研究機関によるものでなく、企業データに拠っています。
一方で、ヨーロッパ(EU、欧州連合)では反対運動の高まりで、このほど表示の義務づけを欧州議会が圧倒的多数で議決し、4月から実施されることになりました。抜け穴もあって万全なものではないようですが、一応の成果とみられています。
自然界には存在しない
遺伝子組み換え作物とは
遺伝子組み換えと、
品種改良、突然変異の違い
――行政(厚生省、農水省)側は、遺伝子組み換え作物は品種改良の延長線にあると言っているようですね。
吉岡 近縁種同士の品種交配による品種改良と、遺伝子組み換えは根本的に異なるものです。
遺伝子組み換え作物では、微生物と農作物というように、種の限界を越えて遺伝子を組み換え、自然界では存在し得ない作物になっています。
実際、実験段階ではいろいろな植物に、例えばヒトの遺伝子とかサソリの遺伝子とかを入れ込んでいます。日本タバコ産業では、タバコにヒトの肺の遺伝子を入れる実験を行なっています。このように、生物に異種間の遺伝子が入るということは自然界の生態系の中では絶対起こり得ないことで、そうして作られたものは本質的に新しい生物なのです。
また、自然界では稀に突然変異も起こりますが、それにしても全く違う生命体の遺伝子が入ってしまうということはあり得ません。
一方、何千年も前の昔から行なわれてきた品種改良は、あくまで自然交配の範囲で行なわれているわけで、例えば大豆なら大豆同士あるいはそれに近い植物で行なうとか、そういった自然交配を人工的に起こして作られます(図1)。自然交配を人工的に行なうことについて、それはそれで問題があるにしても、少なくとも自然が制約している遺伝子の枠内で行なわれることですから、例えば今回の大腸菌の遺伝子を組み込んで作られた大豆などとは危険性のレベルは段違いに違うわけです。
まだまだ未熟な 遺伝子組み換え技術
――実際には、どんな方法で遺伝子組み換えを行なっているのですか。
吉岡 遺伝子組み換えは、ある生物のDNAの一部を切り離して、他の生物に組み込むわけですが、方法としては、・自分の遺伝子の一部を植物に送り込む性質を持つバクテリア(アグロバクテリウム)を利用する方法(図2)と、・直接、組織や細胞に遺伝子を入れる方法に大別されます。・の直接遺伝子を入れ込む技術として一つには、遺伝子を金属粉にまぶして遺伝子銃で打ち込むというやり方があります(図3)。
いづれにしても今の技術では、試験管の中で遺伝子を切断するのは正確にできるものの、一度とり出した遺伝子を他の生きている細胞に正確に組み込む技術はまだ確立されてなく、100回に1回、日本で最近開発された技術でやっと2割という確率で、80〜99%は入らないという実にあらっぽい行き当たりばったりの技術の下で行なわれているのです。
推進派は、現在の遺伝子工学は非常に高度で正確な技術をもっているといっていますが、実は遺伝子そのものの全容もまだ捉らえられていない段階です。そのため、遺伝子組み換えの技術自体、それほど高いレベルになく、ごく一部の変化になるわけですが、ごく一部でも非常に大きい影響があるわけです。
例えば、組み込む遺伝子が組み込まれるべき遺伝子の間に正確に入ればいいのですが、一旦間違えると、隣の適正な遺伝子を傷つけて割って入る可能性もあります。そうすると、生物体として十分な栄養素ができない、あるいは生物自体が弱体化する、あるいは全然違う機能、例えば毒性を発揮する、さらにいえば全く意図していない生物体が作られてしまうなどの危険性をも孕んでいるのが、今の遺伝子組み換え技術のレベルなのです。
遺伝子組み換え作物の危険性健康への被害
――健康面では、具体的にどんな危険が予測されますか。
吉岡 まず、アレルギーの問題ですね。例えば、アメリカで数年前に開発された、必須アミノ酸が全て含まれるのを目的にブラジル豆の遺伝子を組み込んで作られた大豆は、予期しないアレルゲンに変質してしまいました。この大豆は未然にアレルゲンが分かって結局商品化されずにすみましたが、現在、アレルギー検査(表3)を通った作物も、安心できないとフェイガン博士は指摘しています。
催奇性・発がん性も心配されています。
慢性毒性については、長期にわたる検査で調べないと出てこないわけですが、それには膨大な費用と時間がかかるために、全くなされていないのが現状です。例えば、害虫に強い(害虫抵抗性)作物では、すべての細胞で殺虫成分がつくられるため、作物のどの部分を食べても虫は死ぬようになっています。これについては人が食品として摂取した場合も同じで、その摂取量は大量になるわけです。そうした食物を食べ続けた場合の複合的、長期的影響は全く不明です。
急性毒性については、昭和電工が1988〜9年にかけて起こしたトリプトファン事件が象徴的です。同社では長年、自然のバクテリアによって必須アミノ酸の一つトリプトファンを製造していましたが、生産性を上げるために、遺伝子操作したバクテリアを用いて効率的に大量にトリプトファンを製造し始めました。その結果、2〜3カ月の間に5千人もの人が中毒症状を訴え、うち37人が死亡、1500人が生涯不具の身となりました。この事件は、公には製造過程で毒物が混入して起きたとされていますが、実際には遺伝子操作されたバクテリア
が、毒素を大量に生み出し、食品に混入した結果だと言われています。
栄養成分は?
――栄養成分などはどうなのでしょうか。
吉岡 栄養に関しては主要な栄養成分の分析および、栄養の代謝を阻害する成分の分析が行なわれています。しかし、ビタミン、ミネラルなどの微量栄養素がどれだけ減ったか増えたかは全く検討されていないので、定量分析をする必要があります(表3)。
フェイガン博士は、例えばトマトのビタミンCの生成機能に重要な遺伝子が、組み込まれた遺伝子によって破壊された場合、元のトマトより減ってしまうと言っています。
環境への危険性―― 生態系の破壊
――環境への影響も心配ですね。
吉岡 農薬については、推進側は使用が減るといっていますが、増える可能性のほうが強く、今までの使用量の3倍になるといわれています。例えば、除草剤耐性を作物に持たせると、農薬をいくらまいても作物は大丈夫、種が芽生えてから大変強い毒性のある除草剤をかけても問題ないということになり、除草剤は今以上に無造作に大量にまかれる可能性が高くなるわけです。
さらに、デンマークの国立リソ研究所のデータによると、除草剤耐性をもつ遺伝子を組み込まれた作物の遺伝子が、種が似通った雑草に3代目には約40%も転移してしまうそうです。そうなると、除草剤耐性の雑草が今度はたくさんできてしまって、意味がなくなるわけです。
また、花粉はだいたい一回に2キロ飛ぶのですが、遺伝子組み換え植物の花粉が、全く関係のない植物にどんどん広範囲に広がっていく可能性もあります。それによって、数年あるいは数十年という歳月を経過していくうちに、日本の他の正常な多くの大豆が除草剤耐性をもった大豆になってしまう可能性もなくはないのです。アジアでは遺伝子組み換え植物が広がると300種以上の原種が絶滅するという予測もあります。
こうして、遺伝子組み換え技術は、農薬の大量使用による土壌や水質汚染、既存の化学薬品に耐性を持つ新種の病害虫や雑草の発生、種の弱体化など、地域規模、地球規模での生態系の崩壊が引き起こされる可能性を孕んでいるわけです。
企業論理優先の
遺伝子組み換え食品
推進側が主張するメリットとは
――推進側は、遺伝子組み換えは食糧問題の解決になるとも言っていますね。
吉岡 とんでもない話です。
今お話ししたように、農薬耐性が雑草に移ると、今度はまた新たに別の遺伝子組み換えの種を使うという具合に、数年サイクルで、新しい除草剤と種がセットで売れるわけです。企業としてはそういう状況をむしろ狙っているわけですね。
推進側は、「遺伝子組み換え技術の応用は食糧問題を解決する」といっていますが、こうなったら食糧問題の解決どころではない、発展途上国で遺伝子組み換えされた種を購入した場合、彼らは自給自足でやっていた農業から、今度は逆に買わなくては成り立たない農業に変わってしまうわけです。それは決して食糧生産側にとって利益にならない。自分のところで作れない、自給自足の種ではないですから、消費者にとっても、買った種ということで値段が上がってくる。さらに言えば、遺伝子組み換え作物の持つ性質、例えば「農薬耐性」が他の植物
にまで及べば、また新しい種と農薬をセットで買わざるを得ないという蟻地獄が待ち受けているのです。
このように、大量に、楽に、早く収穫でき、農薬などもあまり使わなくすむ、という推進側があげるメリット(図4)は、フェイガン博士の主張するように、「議論のすり替え」でしかないのです。食糧問題は天候、政治問題、社会的構造、経済問題、技術的問題といった、いろいろな問題がからんで起こっているわけで、それをたった一つの方法で解決するというのは、全く非現実的な論理です。
また、今の段階で商品化されるのには、やはり技術的に大変なコストがかかっていますから、投資した企業としてはそのコストをなるべく速やかに回収したいということで、まだ十分に発達してない段階で製品化を急いでいる側面もあります。
そうしたことを抜きにしても実際、企業にとって遺伝子組み換えによる儲けは莫大なものになるわけです。まず、種子を販売する会社は儲かりますし、耐性をもたせた農薬メーカーも儲かるというシステムで、近い将来には、遺伝子工学ベンチャー企業を買収した農薬メーカーが、世界の食糧生産を支配するようになるとまで言われています。
これほど危険な問題をかかえている食品を、今ストップすることが、未来の世界に禍恨を残さないためにとても重要なことなのです。
(インタビュー構成・本誌功刀)