究極の"歯周病”治療は、全身を治癒する栄養療法

平沼歯科クリニック院長 平沼一良先生

歯周病もがんも根っこは同じ

 口の中の病気には、虫歯、顎関節症、あるいは舌の病気などいろいろありますが、中でも歯周病は、日本人(成人)の9割もがかかり、急速に増加、若年化しています(図1)。
 歯肉炎から歯槽膿漏まで、歯を支えている歯周組織の炎症である歯周病は、骨粗鬆症や、ガン、糖尿病など多くの成人病の前ぶれともいわれ、実際、若年化、急増化の背景には、こうした成人病と同様、高脂肪・高動物性蛋白・低繊維質の現代型食生活、そしてストレスが指摘されています。
 しかし、現実にはこうした原因を歯周病治療の根幹にすえているところはほとんどありません。
 その中で、平沼歯科クリニックの平沼一良院長は、歯周病の治療・予防に「ニュートリション・セラピー(栄養療法)」をとりいれ、大きな成果をあげています。しかも、"歯周病もガンも根っこは同じ”ととらえる平沼式セラピーでは、単に歯周病が治るだけでなく、ガンから痴呆症に至るまで多くの成人病や慢性病の改善・予防にも効果を発揮しています。
 ストレス対策には脳波測定もとりいれ、究極の歯周病治療──「ファイナル・レストレーション(高度歯科治療)」+「ファイナル・ヒーリング(全身治癒)」||を目指されている平沼先生に、歯周病を中心に現代社会におけるニュートリション・セラピーの必要性、重要性を伺いました。

ガンも歯周病も根っこは同じ
究極の歯科治療は全身を治癒する

――先生が「ニュートリション・セラピー(栄養療法)」を治療にとりいれられるようになったきっかけというのは?
平沼 歯科治療、あるいはガンの手術に立ち合う中で、歯周病もガンも全ての病気は全身の影響を受けており、そのため、治療には全身のバックアップがないと完治しないことを確信しました。
 二元論的な西洋思想の中で生まれた西洋医学では、例えばガンイコール侵入者(エイリアン)とみなし、悪い侵入者は排除すれば良いという考えが基本にあります。一方、東洋医学の一元論的な考えでは、病気は原因となる環境を整えてやれば元に戻るという感覚でとらえますから、治療はまず全身状態を整えることが先決になります。
 そうした全身状態を整えるベースになるのがニュートリション・セラピーであり、それが歯周病の治療のポイントにもなり、ガンにも同様のことがいえるわけです。
――ニュートリション・セラピーをとりいれた先生の歯科治療が、全身の疾患の治癒につながっていくのはそこなんですね。
平沼 そうですね。逆にいえば、成人病、文明病(現代病)といわれるものの多くは、間違った食生活からくる「食源病」といえます。ですから、先端技術を駆使した高度の歯科治療も全身のバックアップがあってこそ生きてくるわけで、究極の歯科治療は、「ファイナル・レストレーション(高度歯科治療)」+「ファイナル・ヒーリング(全身治癒療法)」ということになります。

口腔をみれば全身が分かる

――口腔は"病気ののぞき窓”、"歯周病は成人病の始まり”ともいわれていますね。
平沼 東洋医学的一元論に立つと、個は全体をあらわし、全体は個をあらわしていることが分かります。特に、目で見えるところの口腔が"病気ののぞき窓”といわれるのは、口腔を見れば全身状態が分かるからです。
 そして、歯科医としては、"病気は、まず口からやってくる”これが実感です。
 口の中は粘膜でおおわれていますが、粘膜は普通の皮膚より敏感で、反応が早く出ます。ですから、一見、きれいな皮膚をしていても、口の粘膜を見ると立派なアトピーであることが分かる場合もあります。
 骨粗鬆症でも、最初にあらわれるのは顎の骨です。歯周病は歯の骨粗鬆症ともいわれていますが、骨(骨密度)はピークを迎えた後、だんだん減少してもろくなっていきます。そのピークはかつて30代と言われていましたが、歯周病の若年化に歩調を合わせてどんどん低年齢化し、今は17〜20歳がピークといわれています。
 また、例えば舌の裏側をみると正常な舌では血管は木の幹のようにスーッと枝が伸びていますが、非常に状態が悪いと、怒張して数珠状にぼこぼこになった舌動脈が先端まで伸びてきます。これは動脈硬化の一歩手前で、脳血管系なども厳しい状況にあることが分かります。
 また、60歳を過ぎて急に虫歯が増えてきた場合、これは唾液のPHが落ちて酸性化したのと同時に、唾液中の活性酸素消去物質が少なくなって、唾液の自浄作用が落ちてきたからなのです。こういう方は、間違いなくガン化の傾向をたどっています。

歯周病の原因と治療
―根本原因は食生活とストレス―

――歯周病は歯の骨粗鬆症ということですが、歯周病の直接の原因は歯垢(プラーク)。歯垢の中で繁殖した嫌気性の常在菌が、歯と歯茎を侵して隙間(歯周ポケット)を作り、そこを常宿として歯を支えている歯槽骨を溶かす。だから歯周病ではプラークコントロールが重要だと聞かされていますが?
平沼 歯周病とは何か。それについてはクリニックでの治療に基づいてお話していきましょう。
 治療の前にまず審査・診断するわけですが、私のところでは・最初に食(食生活のパターンや嗜好傾向などを問診)、・次に血液検査(生化学的、東洋医学的、栄養学的見地から)、・さらに全身の観察(皮膚の色艶、爪、リンパの腫れなどを望診)、・最後に口腔内審査――と行ない、そこから一人一人個別に対応した治療計画をたてます。
 治療は口腔内治療と栄養指導を並行して行ない、患者さんが治癒に向かうポイントには次の4つがあります。
1.プラークコントロール(歯垢除去)
 毎日丁寧なブラッシングを徹底することで、歯垢、細菌を含めて口の中の起炎物質(炎症をおこす物質)を除去します。
2.力学的コントロール(歯牙の咬合圧力分散)
 歯がグラつくまでに進んでいる場合、ほとんどの患者さんが睡眠中、ストレスによる歯ぎしりや噛みしめをしています。歯槽骨に強烈な力が加わる歯ぎしりや噛みしめは歯槽骨を破壊する原因となりますが、この場合、歯をストレスに対抗できるだけの安全な状態にもっていくことが大切になり、歯を固定するなどの力学的コントロールが行われます。
3.栄養学的コントロール
 全身のバックアップを図り、治療の促進、骨増生の促進に最も重要なポイントになります。
4.精神的コントロール
 精神的ストレスは、歯ぎしりなどによる歯牙の動揺(グラつき)だけでなく、不規則な食生活や治療意欲の減退を招き、悪循環的に歯周病を悪化させます。
 精神的コントロールは究極の治療ポイントで、これなくしては完治はないと私は考えています。
――歯周病は、口腔内の起炎物質、歯の支持組織の異常、食事・栄養のアンバランス、精神的ストレス――が互いに影響し合っておきる。中でも、精神的ストレスが大きく影響しているということですね。
平沼 歯周病の根本原因は精神的ストレスといっても過言ではなく、ストレスコントロールが自在にできるようになれば、歯周病の治癒はもとより病気自体にもかかりにくくなります。
 歯周病の多くは精神的ストレス↓噛みしめに耐えられなくなった支持組織が破壊される↓歯の動揺――という過程をたどって最後は歯が抜け落ちるわけです。そうすると治療は、今あげた4つのポイントを逆にたどれば良いということになりますが、実際には初めに西洋医学的な手法で局所療法を行ない、次に食事・栄養療法、最後にストレスコントロールということになります。
 何故なら、精神的ストレスのコントロールは非常に難しく、例えば『脳内革命』でも特筆されているように、プラス発想が病気の改善に大きな影響を及ぼすのは事実ですが、問題はマイナス発想に陥っている時には簡単にプラス発想に転換できないところにあります。
 例えば、患者さんの脳波を測定すると、本当に具合の悪い患者さんは生活波あるいはストレス波と呼ばれるβ(ベータ)波だけがボーンと立ち上がって、プラス発想を促すβ波以下のα(アルファ)波、θ(シータ)波、δ(デルタ)波はほとんど立ち上がっていません。こうした脳波の状態はストレスが異常にかかっていることを示し、こういう状態にある患者さんには半ば強制的にニュートリションをとり入れて全身的にバックアップし、活力、気力を養うことが大切になってきます。
――栄養療法は精神的ストレスの改善にも欠かせないというわけですね。

咀嚼の重要性
──歯の構造は神の刻印──
長寿国は20対8対4!

――栄養摂取はなんといってもまず食事からですが…。
平沼 理想的な食事ということでは、歯の構造が答えを出しています。
 歯の構成は上下左右親知らずを合わせて20対8対4となっていますが(図2)、20本ある臼歯は穀類(種子)、8本の切歯は野菜の繊維質、4本の犬歯は肉を咀嚼するのに適しています。
 この割合は神(自然)が人類に示した食性の啓示であり、歯は神の刻印、その割合は黄金分割といえるものです。
 実際、世界3大長寿国のフンザ、ビルカバンバ、グルジア、あるいは中国のパーマ、ウイグル地区などではこの割合、あるいは肉類(毒性蛋白)がもう少し少ない割合で食べ物がとられています。
 一方、現代の食生活はこの割合を無視して、脂肪分や糖分が多く、軟らかいものを好む傾向にあり、こういう食事ではミネラルやビタミン、繊維質などの微量栄養素が必然的に少なくなります(図3)。そうなると、万病の元といわれる活性酸素の消去能力や免疫力が低下し、老化が早まり成人病になりやすくなってきます。
 これを端的に物語っているのが、人体の中で最も丈夫で一生もつといわれる歯牙が歯周病で30代や40代の若さで失われている現状です。
 こうした食性からも、風土からつちかわれた体質からも、日本人には日本の伝統食が一番合っているということになります。
 中でも玄米と無添加志向の野菜は理想的な食事といえます。

咀嚼を無視した栄養学はナンセンス

平沼 しかし、栄養の吸収は、体の台所といわれる口の中のまな板(支持組織)と包丁(歯牙)がどの程度きちんとそろっているかで大きく違ってきます。例えば、臼歯部のない人が玄米を食べても、潰すことができないので消化不良をおこしてしまう。食事、栄養の指導はそういうことも考慮しないと充分とはいえません。
 例えば、総入歯と健康な歯の人とでは、同じものを食べても同じように吸収するはずがありません。よく噛む人、噛まない人でも同じことがいえます。口腔は最初の消化器官であり、咀嚼は栄養の入り口ですから、咀嚼を無視した栄養学などナンセンスなのです。
 また、栄養の吸収は精神状態によっても違ってきますが、ストレスへの対処も咀嚼を一段階、間に入れるべきなのです。よく噛まなかったり、ストレスがかかると、唾液が出にくくなります。それによって唾液中の消化酵素、抗酸化物質、解毒物質も少なくなり、そうすると栄養の吸収は勿論、発ガン物質を弱毒化する能力も弱り、それにリンクしてNK細胞の活性も落ち、体に幾重にも仕掛けてある免疫機構は網をかけたように衰えてきます。
 こうなると、ガンにも歯周病に対しても抵抗力が落ち、いろいろな病気にかかりやすい、また治りにくい(慢性化しやすい)体質になっていくわけです。

カメ、カメ、カメよ よく噛めよ

――咀嚼ということでは最近、噛み合わせ(咬合不正、それによる顎関節症)も問題になっていますね。歯ぎしりは精神的ストレスでおきるとおっしゃいましたが、噛み合わせも原因になると聞いていますが。
平沼 顎関節症が問題になってきた最近は、噛まない世代が成人になってきた時期とちょうど一致しています。また、私は小学校の校医をしていますが、小学校4年生くらいまでは顎関節症はあまり見られない、ところが受験期を迎えた5、6年生になると目立ってくる。OLでも就職時期に出やすい。結局、顎関節症も、咀嚼不足とストレスが大きな要因となっているわけです。
 顎関節症では顎が弱っているわけですが、噛むことは顎の骨を強くし、関節を鍛えます。結局、歯周病も顎関節症も、予防はよく噛むことが一番で、そのために噛める状態の歯を作ってやるのが歯科医の腕前ということになります。
 歯周病では噛む力の強弱、例えば歯がゆれてきたら固いものには気をつけるようになどといわれますが、実際には噛まさないのではなく、適当な噛む力を骨に与えてやることが一番早く治るのです。
――そうすると歯ぎしりや噛みしめで歯の根元がやられるのは、運動のしすぎがかえって体を傷めてしまうのと同じと理解していいですか。
平沼 その通りです。骨粗鬆症にとって運動は改善に働く因子となりますが、例えばお年寄りがマラソンやジョギングをしすぎると、軟骨の形成よりも減る方がはやく、結果的に痛くて歩けなくなっています。それと同じように、歯周病で強い歯ぎしりは歯槽骨を壊す要因に働いてしまうのです。これは湖に氷が張ろうとしている時に棒でゆすってしまうようなものです。この場合、棒とは歯牙のことです。
 日中に歯が噛み合っている時間は15分くらいで、問題は睡眠中にストレスがかかっていると、睡眠時間を8時間とすると、ひどい人で5時間くらいも噛みしめていることになり、歯を支えている歯槽骨の破壊をおこす時間としては、日中歯を噛みしめている時間よりはるかに多いのです。
 ですから、歯周病は、疫学的なコントロール、適度な咬合圧、噛む力、適度な運動をしてやることによって治ってきます。それには全身のバックアップが不可欠の要素となります。

バックアップの基本は食事栄養療法
栄養状態を整えると 必要なものを必要量 欲するようになる

――そのバックアップのベースが、ビタミン、ミネラル、繊維質等の微量栄養素をサプリメントで補う「ニュートリション・セラピー」ということになるのですね。よく、玄米菜食、自然食をしていればサプリメント(栄養補助食品)は不要という意見も聞きますが。
平沼 たしかに玄米菜食は優れていますが、それだけでは充分とは思えません。
 動物は歯の構成によって、適正なものを食べるように神から教えられています。ところが、動物は本能でそれが守れるわけですが、人間は前頭葉が発達しているために一旦おいしいものを味わってしまうと、前頭葉が本能の前にはだかって動物のように本能で適正な食生活をすることができなくなるのです。味をしめてしまった人には玄米菜食は馴染めなくなってしまう。だからといって好きなものを無秩序にとっていいということではありません。
 そこで強制的にニュートリションをとることによって、体を作ってしまうのが一番の早道ということになります。そうすると、必然的にストレスに抵抗できる体が作られますし、肉が大好きな患者さん、あるいは甘いものが好きな患者さんにニュートリションを3カ月、半年ととってもらうと、自然に動物性蛋白質や甘いものを欲しがらない体になってきます。ニュートリションの摂取で、人間の本来持ってる摂食機能が正常化してくるわけですね。
 過度の食欲もそうです。肥満の人はカロリーの高い油っこいものばかりを食べる傾向にありますが、例えば机とイスで1セットとします。それが机が50個あって椅子が50個必要なところに、まちがって机ばかり注文してしまうようなものなのです。体は椅子を欲して要求しているのに、本人はそれを単なる食欲と勘違いして机を食べてしまう。ところが、椅子をきちっと送ってバランスがとれてくると、自然に机を欲しがらなくなってきます。

環境破壊による 活性酸素対策にも

平沼 ニュートリションの必要性は、フロンガスによるオゾン層の破壊に代表される環境破壊にもあります。
 オゾン層の破壊で過剰にふりそそぐ紫外線は、体内で大量の活性酸素を発生させます。その時に、体の中に備えられているSODなど活性酸素の消去酵素の活性が落ちていると、人は容易に白内障やガンになりやすくなります。それを防ぐには、活性酸素消去酵素を活性させるビタミンA、C、Eなどを普段から十分量とることが大切になってきます。
 活性酸素の発生源は紫外線だけではありません。車の排ガス、暖房の排気、重金属などの廃棄物質、化学肥料、農薬、化学合成添加物、化学薬品──など、現代社会は多くの活性酸素の発生源にとりかこまれています。抗酸化物質となるビタミン、ミネラル等の微量栄養素はニュートリションで補わなければ、食事だけでは賄えない状況にもなってきています。

ニュートリションで 全ての悪循環を断とう

――現代人は、ストレス、食生活、環境汚染――と、いろいろな意味でニュートリションが必要とされるわけですね。
平沼 たとえ、玄米菜食で栄養の問題が全て解決したとしても、実際の食生活では百人のうち3人位しか実行しない。ところがニュートリションなら、百人中70〜80人は実行してくれる。基本的には食事の時に飲むだけ食べるだけですから、多忙な現代人には是非、とりいれて欲しいと思います。
 すべてが悪い方向に傾き出すと、精神的にも気力がない、歯も弱ってくる、通院もかったるい、食事も思うように喉に通らない、栄養の吸収も悪い――という悪循環が始まりますが、この悪循環を断つ一番手っ取り早い方法がニュートリションで、ニュートリションは歯周病だけでなく、多くの現代病を改善する最適な方法といえます。
 だからといって、ニュートリションの基本はあくまでも食事にあります。歯、そして歯肉の衰えは全身の衰えの始まりです。命のもととなる食べものを選び、良く噛んで食べ、その上でブラッシングを徹底させて、サプリメントを上手に活用すれば、歯周病で歯科のお世話になるということはなくなります。
(インタビュー構成 本誌・功刀)