高脂血症・動脈硬化とコレステロール

ゴマは悪玉コレステロールを減らし善玉コレステロールを増やす

自衛艦隊司令部医務長 平田文彦先生

ゴマの 顕著なコレステロール改善効果、 人で初

 動脈硬化に食生活が密接に関連していることは既に19世紀から指摘されていましたが、疫学的には第2次世界大戦中、ヨーロッパにおいて虚血性心疾患が減ったことが研究に大きな進展をもたらしました。大戦中の食料不足、特に脂肪摂取の減少が動脈硬化性疾患の予防に多大に寄与したことは、その後の多くの疫学的研究で裏付けされています。
 さらに近年、測定法の著しい進歩も手伝って高脂血症や動脈硬化の研究は飛躍的に進み、食生活においても高脂肪食などの危険因子だけではなく、個々の食品におけるコレステロール改善効果も明らかになってきています。
 その中で、自衛艦隊司令部の平田文彦医務長は、ゴマの成分セサミンに高脂血症薬並のコレステロール改善効果があることを突き止めました。ゴマのコレステロール改善効果は動物実験では以前から分かっていましたが、人に顕著な効果があることは今回平田先生の研究で初めて明らかになったことです。
 ライフスタイル全般を通して脂質代謝の異常を是正し、それによる動脈硬化ひいては循環器疾患の予防をライフテーマとしている平田先生に、ゴマのコレステロール改善効果を中心に、日常生活における高脂血症や動脈硬化の予防についてお話を伺いました。

高脂血症と コレステロール
コレステロールの働きと、 悪玉コレステロール・ 善玉コレステロール

――ゴマは悪玉コレステロールを減らして善玉コレステロールを増やすということですが、ゴマのお話に入る前にまず、高脂血症や動脈硬化との関連で、悪玉コレステロール、善玉コレステロールの働きなどについてお話を伺いたいと思います。
平田 血液の中で脂質は、血液に溶け込むために、アポ蛋白という蛋白質と結合して「リポ蛋白粒子」という水溶性の粒子になって存在しています。
 このリポ蛋白粒子にはいくつか種類があって、代表的なものには、悪玉コレステロールと呼ばれているコレステロールが多くて蛋白質の少ない「LDL(低比重リポ蛋白)」、反対に善玉コレステロールと呼ばれているコレステロールが少なく蛋白質の多い「HDL(高比重リポ蛋白)」、蛋白質が少なくて中性脂肪の量が圧倒的に多い「カイロミクロン」などの粒子があります。
 一般に、コレステロールには悪玉と善玉があるといわれていますが、コレステロールそのものは全く同じものです。善玉と悪玉の違いは、コレステロールを乗せている車が違うと考えていただければ分かりやすいかと思います。
――コレステロールを乗せている車が違うといいますと?
平田 コレステロールは主に肝臓で作られている脂質ですが、悪玉といわれるLDLはコレステロールを肝臓から全身の末梢の血管壁に運んでそこでコレステロールを降ろしています。一方、善玉といわれるHDLは空のトラックを血管のところに持って行って、そこで余っているコレステロールを積んで肝臓に戻って降ろすという役割をしています。
 コレステロールを肝臓から血管の動脈壁に運ぶのがLDL、動脈壁で「余ったからもういらないよ」といわれた余分のコレステロールを肝臓に戻すのがHDLというわけですね。
――そうすると、乗せている車の違いは比重の違いによるのですか。
平田 そうです。比重で分けています。脂肪は血液に溶けにくいので、肝臓で作られたコレステロールが動脈の血管を通って全身に運ばれる時には、血液に溶けやすいように比重の軽いリポ蛋白であるLDLに包まれて運ばれます。一方、善玉のHDLは体積は小さいのですが、荷物となるコレステロールや中性脂肪の量に比べて、運び屋になる蛋白の重量が大きくなっているわけです。
 もう一つ、リポ蛋白粒子は脂質とアポ蛋白という蛋白質が結合したものなのですが、それぞれ結合しているアポ蛋白の種類も違います。
――そうすると、コレステロールが悪玉になるのは、血液中にLDLコレステロールが過剰にあってHDLが運びきれずに血管にたまって沈着するからだと考えてよろしいですか。
平田 そうですね。もともとコレステロール自体は細胞の構成成分として重要なものですし、ステロイドホルモンの材料としても欠かせません。体をつくる大事な成分で、ゼロでは困るわけです。ですから、LDLはもともとは必要なコレステロールを体の各部の細胞に運ぶ働きをしているのです。
 一定の範囲内であれば、細胞はLDL受容体という入口を通してLDLを細胞内に取り込み、必要に応じて適切にコレステロールを利用しています。その時に、範囲を超えて細胞に入ってきたりすると、細胞は調節機構(フィードバック機構)を働かせて「もういりませんよ」という信号を出して取り込みを止めます。ところが、血液(動脈血)の中にLDLが沢山ありすぎたり、入口の受容体に異常があったりすると、フィードバック機構が働かなくなって、血管壁にはコレステロールが沈着して動脈硬化を引きおこすわけです。(図1、2)
――コレステロールには善玉も悪玉もなくて総コレステロール値が問題だということも聞きますけれども、今のお話を伺うと、動脈硬化はやはりLDLが問題は問題なんですね。
平田 何故総コレステロールかといいますと、一般的には総コレステロールとLDLコレステロールの値は正の相関にあって、総コレステロールが多ければ相対的にLDLコレステロールが多いとみなすことができるからです。
 一方、HDLの値は運動で若干増える、女性は男性より値が高い、タバコを吸うと減る――ということはありますが、基本的には個人間でそんなに大きな差はないんです。
 正確な診断には総コレステロールよりLDLコレステロールの値を出した方が勿論いいわけですが、多くの場合相関しているので、総コレステロール値でみてもあまり影響はないのです。
――とにかく、血中にLDLが過剰にあるのは問題なのですね。
平田 LDLが多いのはとにかくよろしくない。
 その多い少ないという量の問題の次に、コレステロールの質が問われます。酸化などによって変性したLDLは非常に悪性度が強いことが分かっています。

超悪玉の変性(酸化)LDL

――LDLは量と質が問題になる。質ということではより悪玉なのが「変性(酸化)LDL」というわけですね。
平田 そうです。LDLそのものも悪玉ですが、LDLが酸化されるとより一層悪性度の強い、超悪玉になると考えていただいてよろしいですね。
――HDLなども酸化の害を受けると思いますが、LDLの酸化が問題なのは脂肪(コレステロール、中性脂肪、リン脂質)の割合が多いので相対的に酸化コレステロールが多くなるからですか。それともやはり、LDLの酸化はHDLなど他のリポ蛋白の酸化より恐いのですか?
平田 やはりLDLの変性がより問題になります。というのは、先ほどLDLが細胞に一定以上入ると調整機構が働くといいましたが、酸化LDLになってしまうとフィードバック機構がきかなくなって、一方的に入るだけ入ってくるからです。
 フィードバック機構については、図(図1、2)を見ていただくと分かりやすいのですが、図1は正常のLDLで、鍵と鍵穴の関係のようにLDLがLDLのレセプター(LDL受容体)を介して細胞に取り込まれているのが分かります。細胞の中にコレステロールがたまってくると、(細胞は細胞自身でもコレステロールを作っていますので)細胞自身がコレステロールを作る働きも止めますし、動脈血を介して運ばれてくるLDLに対してもレセプターに指令を出して、もういらないというシグナルを送り、注文窓口を閉めてしまうわけですね。
 ところが、図2にあるように、コレステロールが酸化を受けたり糖がくっついたり(糖化)して変性すると、変性LDLは違うレセプター(スカベンジャー受容体)を介してコレステロールがどんどん細胞に入ってしまうのです。つまり、コレステロールの細胞への入り口が変わってくるんですね。そのため、フィードバック機構が働かずに、コレステロールがあればあるだけ細胞に入り、一方、(善玉のHDLがかろうじて多少引き抜いてはくれますが)細胞の外に出す方法は殆どないので、容易に動脈硬化を引きおこしてしまうのです。
――細胞としては「もういらないよ」と言いたいけれど、どんどん入ってきてしまう…。
平田 そうです。それが「泡沫化」といわれる現象で、泡沫化というのは細胞の中に風船が膨らむようなイメージで脂肪がたまることをいいます。
 細胞が、そうした泡沫化細胞になってしまうと、細胞自体死んでしまいますし、そこには脂肪が残ってそれが血管壁に積もり積もって動脈硬化になるのです。
――LDLが酸化をおこすきっかけには何がありますか。
平田 喫煙、糖尿病、このへんは大きいですね。
 それと、LDLでもHDLでも基本的には成分としてビタミンEなどの抗酸化物質を持っているのですが、それが少なくなると当然酸化されやすくなります。

ゴマのコレステロール改善効果
ゴマの成分セサミンは 悪玉コレステロールを減らし 善玉コレステロールを増やす

――変性コレステロールという問題以前に、先生は"ゴマが悪玉コレステロールを低下させる”ということを人で初めて証明されたんですね。
平田 はい。ゴマの中のセサミンという成分にコレステロールを下げる効果があるのは、動物実験では既に1980年代後半に立証されていました。私は動脈硬化を食品などから予防できる方法を探っていましたので、セサミンがゴマという自然食品から取り出した成分であることに大変興味をひかれ、実際に高脂血症の患者さんに試していただいたところ、かなり顕著な効果があったわけです。
――セサミンのカプセルを患者さんに飲んでもらったわけですね。
平田 セサミンの効果はビタミンEによって増強されますので患者さんにはセサミンだけではなくビタミンEも飲んでもらいました。
 効果をみるために患者さんを
・セサミン+ビタミンE群、
・ビタミンE単独群――の2つのグループに分けて比較したのですが、8週間の後、ビタミンEだけを飲んだ患者さんたちのグループはコレステロール値に何の変化もなかったのに対し、セサミンとビタミンEを併用して飲んだ患者さんのグループは総コレステロール値が平均約9%下がり(図3)、反対に、善玉のHDLコレステロールの値は約6%上がったのです(図4)。
――それはすごい効果ですね。
 このセサミンのコレステロール改善効果は何によるものなのですか。
平田 LDLを下げるメカニズムの一つに、セサミンが持っているコレステロールの吸収抑制作用があります。セサミンのLDL低下作用はこの他にもいくつか実証されていますが、HDLがなぜ増えるかについてはまだ明らかではありません。

抗酸化物質セサミンは変性LDLも抑えるか

――セサミンは抗酸化物質ですね。
平田 おっしゃる通りですね。
 セサミンはゴマに含まれているリグナン(リグナン配糖体)という食物繊維に含まれている成分で、ゴマ油の中に約1%含まれています。そのゴマのリグナンには非常に強い抗酸化作用があって、ゴマ油が腐りにくい、酸化しにくいというのは含まれているビタミンEの作用もありますが、実はこのリグナンの抗酸化作用によるところが非常に大きいのです。
 このリグナンの中の抗酸化物質にはセサミンの他にも主なもので4、5種類あり、その中でも抗酸化作用が非常に強いものにセサミノール、セサモリンがあります。
 セサミンの抗酸化作用はそれに比べると若干弱いのですが、ゴマの中に入っている量が圧倒的に違い、ゴマリグナンの中の5割以上がセサミンで占められています。
――リグナンの抗酸化物質のうち、セサミノールやセサモールなどは油を抽出する過程でリグナンが変化してできると聞いていますが。
平田 セサミンもそのままの状態より、体の中に入って分解を受けた状態の方が抗酸化活性は強くなります。
 セサミンは水には溶けず油に溶けやすい物質で、脂溶性の物質が腸から吸収されるときにはまずリンパ液を通って動脈血に入り、肝臓に運ばれるという経路をたどり、肝臓で代謝を受けて、より抗酸化活性の強い状態になります。
――動脈硬化の引き金にはLDLより、酸化や糖化を受けた変性LDLがより一層悪玉になるということでしたが、セサミンは変性LDLに対しても効果が期待できそうですね。
平田 今回高脂血症の患者さんにセサミンのコレステロール改善効果を試していただいたことについては、セサミンの抗酸化性も着目点の一つでした。しかし、これに関してはなかなか具体的な証明が難しく、はっきりしたことは分かりませんでした。
 ただ、セサミンが生体内でビタミンEと同様に、過酸化現象の防止、コレステロールに対しては酸化コレステロールの生成予防という働きをしている可能性は十分考えられます。

日常生活における 高脂血症・動脈硬化の予防
多くの成人病の引き金になる動脈硬化

――結局コレステロールが動脈硬化を引きおこすのは、血中に悪玉となるLDLコレステロールが過剰にあったり、LDLが超悪玉に変性したりすると、それらが血管壁に沈着して血管をせばめ、動脈硬化症を引きおこすと理解してよろしいですか。
平田 非常に単純化していえばそうなりますね。
 コレステロールが高いことが動脈硬化の頻度を上げるのは、昔から疫学的な事実で証明されており、コレステロール値が上がると心筋梗塞などになるリスクが確実に増えます。
――次に動脈硬化が何故恐いかというと、動脈硬化が進むと血管壁がせばまるために血流が途絶えて、組織が変性したり、壊死してしまうからですね。
平田 そうです。動脈硬化という現象で死ぬ人は誰もいないわけです。結果的に血液が流れなくなるから諸々の症状がでてきますし、死に至るという状況もでてくるわけですね。
 それは全身の血管どこにおいても同じで、動脈硬化という現象があらわれた場所によって病名が変わってくるわけです。脳におこれば脳梗塞、心臓におこれば心筋梗塞、手足の血管におこれば末梢性の閉塞性疾患を引きおこして脈がふれなくなったり、腐ってくる(壊疽)などの症状を来します。
 ただし、一口に高脂血症、コレステロールが高いといっても、動脈硬化がおきる場所によって危険度に若干の違いがあります。例えば、脳の血管よりは心臓の血管により障害が出やすいことが分かっています(図5)。その理由には血管の太さ、血液の流れ具合、血圧のかかり具合などがあげられていますけれど、はっきりした理由は分かっていません。ただ、より心臓に対して危険因子としての意味合いが大きいことは確かです。
 脳の血管に対しては、コレステロールより高血圧の方がより危険因子として強くなります。

食生活からの予防

――日本ではここ20年来、塩分摂取量が減ってきたことで高血圧が減り、反対に高脂肪食で虚血性の心臓疾患が増えてきたといわれていますね。
平田 食生活という側面からは、日本人の塩分摂取が減ってきたことが高血圧の発症率や、高血圧の結果としてあらわれてくる脳卒中の低下に寄与したことは間違いない事実です。
 逆に、高脂血症に関しては食生活の欧米化と共に高脂肪食となり、それによって日本人のコレステロール値が過去10年、20年の間に段階的に上がり、さらに子供においては同じ年頃のアメリカ人の子供の平均値を上回るなどの弊害がでているのも事実です。だからといって、今の子供達が将来心臓病にかかる比率がアメリカ人以上になるかというと、体格の違い、肥満などの要素もあり、疑問です。
 ただし、今問題になっている高脂肪、低繊維質などの食生活が続けば、今より虚血性の心疾患の死亡率が確実に増加することは間違いないですね。
――反対に、食生活から高脂血症や動脈硬化を防ぐ一環に、ゴマの摂取が期待されるわけですね。
平田 それには殻のままですとセサミンが吸収されませんので、料理にはすって使用したり、油で利用されるのがよろしいですね。
 ただし、今回患者さんには、ゴマに換算すると1日当りご飯茶碗1杯分のセサミンを飲んでもらっています。そうしたことも含めてゴマを食べることで薬並の効果を期待するのは無理ですし、カプセルについても治療薬にとって代わるものではなく、あくまでも補助的なものとして考えていただきたいと思います。
 ゴマに限らず、総じて食生活は多種類の食品を満遍なくとって、偏らない、不足しない、過剰にとらないことがやはり重要だと思います。

運動療法

――運動なども高脂血症や動脈硬化の予防に効果があるといわれますね。
平田 適度にジョギングやウォーキング、スイミングを続けていると、LDLの値が下がると同時にHDLが増えてきます。
 これは運動そのものがもつ効果で、運動にはHDLを増加させる作用があるからです。マラソンランナーなどではHDLが普通の人の倍くらいある人が多いことが分かっています。
――マラソンのような消耗性の激しい運動ではなく、歩行などでも一定量励行していれば効果は確実にあるわけですね。
平田 それはもう大規模な疫学のデータで実証されています。例えば、大きな企業の社長さん、部長さん、課長さん、平社員と測定値を比べてみると、それに応じてきれいなカーブになっています。1日の歩数が違いますからね。
 最後に、高脂血症や動脈硬化には精神的ストレスも密接に関与しています。予防には、食生活、運動、心の持ち方などを含めてライフスタイル全般の見直しが要求されます。日本人は確実に病んでいるというのが医者としての実感です。既に久しく、日本は生活習慣そのものを考え直さなければいけない時期に入っていると思います。
(インタビュー構成・本誌功刀)