アルツハイマー病、アルミニウム原因説
アルツハイマー病とアルミニウム」に関する研究会より
「アルツハイマー病とアルミニウム」に関する研究会
アルツハイマー型痴呆症患者の脳に高濃度のアルミニウムが蓄積しているのが明らかになって以来、脳神経細胞破壊の一因にアルミニウムが指摘されています。
アルツハイマー病――アルミニウム――アシドレイン(酸性雨)の関連性については今、「スリーA」の問題として各国の研究者から提起されています。
日本では1992年に東京大学医学部の湯本昌先生が"脳には取り込まれないと思われたアルミニウムが脳に取り込まれ、蓄積し、神経細胞を傷害する”ことを明らかにしました。
さる3月5日、東大構内本郷学士会館で開かれた研究会では、湯本昌先生の「アルツハイマー病のアルミニウム原因説」をメインに、都立北療育医療センターの別府宏圀先生が薬害問題の研究者と臨床医の立場から「薬の中のアルミニウム、Guilty or not guilty」を、農水省で長らく水と食べ物の安全性について研究され今は代議士として環境問題にかかわっている鮫島宗明衆議院議員が「水質行政の実態」を講演、その後活発な質疑応答が行われました。研究会は予定の人数をはるかに超える盛況ぶりで一般の参加者も多く、環
境汚染物質としてのアルミニウムにつのらせる市民の危機感がうかがえました。
本誌もかねてよりアルミニウム問題には高い関心を抱き、89年2月(185)号、92年10月、11月(226、227)号、93年1月(229)号とこの問題をとり上げてきました。今月は新たなデータも報告された今回の研究会をあらためて取材し、その要旨を皆さんにお届けします。
アルツハイマー病のアルミニウム原因説
東京大学医学部
湯本昌先生
酸性雨にみられる
溶け出したアルミニウムの
環境破壊
アルミニウムは酸素、珪素に次ぐ地球上で3番目に多い元素(金属元素中1位)で、地面はだいたい8%くらいがアルミニウムでできています。まさに大地そのものであるアルミニウムは人体には無用であるとともに無害な元素と思われていました。
しかし、酸性雨によって溶け出したアルミニウムが森林破壊などの環境汚染を引き起こすことが問題になってきました。一般に金属は中性では殆ど水に溶けませんが、例えばアルミニウムではpHの値が1酸性に傾くに従って約10倍、例えばpHが2下がれば約100倍溶出されるようになり、溶け出したアルミニウムは毒性を発揮します。
8%のわずか1万分の1、5〜10ppm溶けただけで木の根の細胞に傷害を与え、南ドイツのシュヴァルツヴァルトに見られるような森林破壊が、また、ノルウェーやスウェーデンでは、水にアルミニウムがわずか0・2ppm溶けただけで湖や沼の魚が全滅するといった被害が起きています。
アルミニウムが関係する 3つの病気
それでは人間に対してはどのような影響があるでしょうか。
アルミニウムが原因として考えられる疾患として、透析痴呆症、筋委縮性側索硬化症(ALS)、そしてアルツハイマー病の3つの疾患が予想されています。
透析痴呆症は1970年代に透析患者さんに多発した病気で、患者さんの脳に大量のアルミニウムが蓄積し、脳の神経細胞が変性していたことから、透析液中に入っていたアルミニウムが原因であると考えられました。この悲惨な経験から、アルミニウムが神経細胞に対して強い毒性があり、痴呆症を起こし得る物質だということが分かったのです。
透析痴呆症に水に溶け出したアルミニウムが関与していることから次に、筋萎縮性側索硬化症へのアルミニウムの関与が指摘されました。この病気は日本では紀伊半島を流れる古座川流域に多発し、特定の場所にだけ存在するところから始めは遺伝または遅延性の感染症が疑われていました。その後の調査で古座川の水に大量のアルミニウムが含まれていること、患者さんの脳や脊髄から多量のアルミニウムが検出されたことからアルミニウム原因説が有力になってきました。さらに水道水が普及した1980年以降、発症例が全く見られなくなったこと
からもアルミニウムがまさに原因だったということが分かります。
次にアルツハイマー病ですが、アルツハイマー病には「家族性アルツハイマー病」と「アルツハイマー型老年期痴呆症」という2つのタイプがあります。前者は遺伝子の異常によっておこる病気で、特定の家系で40〜50歳くらいに発病します。後者はいわゆる老年期痴呆症で、65歳以上で発病し、加齢につれて急増します。患者さんの数は後者が圧倒的に多く、高齢化社会で問題になるのも後者ですが、後者に関する研究は殆ど進行してないのが現状です。
アルミニウム原因説への 医学界の根強い反論
老人性痴呆症(アルツハイマー型)は遺伝と環境の両方の因子が働き、環境因子により多くの影響を受けると報告されています。環境因子には、加齢や頭部外傷などがありますが、さらにアルミニウムがあります。
アルミニウムが危険因子であるという根拠は1980年代に多く報告された、・アルツハイマー病の患者さんの脳中アルミニウムは健常者に比べて非常に多い、・イギリスを始めとするフランス、ノルウェーの広範な疫学調査で水道水中のアルミニウム濃度が高い地域にアルツハイマー病が多発する――などのデータによっています。
こうした状況にもかかわらず当時の医学界でアルミニウム原因説に対する関心が非常に低かったわけには、・脳血液関門という毒性のある物質や不要な物質が脳に入るのを防ぐ関所のようなところで阻まれるので、アルミニウムが脳の中に入り込むことはない、・アルツハイマー病の患者の脳にアルミニウムが高濃度に蓄積しているのは、神経細胞が広範囲に死んでいくアルツハイマー病はちょうど火事場の跡のようなもので、そうしたところでは脳血液関門が働く必要はない。つまり、アルミニウムの蓄積は病気の結果である――といった根強い反論が
あったからです。
さらに、当時の医学界ではアルミニウムには神経毒性はないというのが常識で、アルミニウムがアルツハイマー病に相当する病変を起こすことも否定されました。
ですから、アルツハイマー病のアルミニウム原因説を証明するには、・健康な動物の脳にもアルミニウムが脳血液関門を通して入ること、・アルミニウムがアルツハイマー病に相当する病変を起こすこと、・アルツハイマー病患者の脳にアルミニウムが蓄積し、しかも脳神経細胞中で最も重要な場所に蓄積している――というこれらの全部を証明しなくてはいけないわけです。
アルミニウムは 健康な脳にも入り込む
私達は放射性同位元素を使ったトレーサー(指標追跡)実験で、アルミニウムの脳への取り込みを調べてみました。
まず、健康なラットのお腹にアルミニウム26を10ppm注射したところ、数万分の1から5万分の1くらいの量のアルミニウム26が脳の中に入っていき、いつまでたっても減りませんでした。この実験で、健康な動物でも脳血液関門を通してアルミニウムが入り込み、一度入ってしまったアルミニウムは蓄積される一方で減る事はない――ということが分かったわけです。
こうした実験の試みは私達が初めてだったのですが、半年後にイギリスの研究グループがボランティアによる人体実験で、アルミニウム26を口から摂取すると消化管から約1%くらいが血液中に吸収され、血液中では「トランスフェリン」という鉄(3価鉄)を運ぶ蛋白に、アルミニウム26(3価アルミ)が鉄の代わりに結合していることが分かったのです。
脳は酸素呼吸が非常に盛んな臓器で、細胞の呼吸機能を維持するために大量の鉄を必要としています。そのため、脳の毛細血管中にはトランスフェリンを取り込むための受容体が多数存在し、しかもこの受容体はアルツハイマー病の病変が多発する大脳の側頭葉や海馬に多いのです。アルミニウムはちょうど税関を通るときに偽造パスポートで通過するような感じで鉄の変りに脳の中に入ってしまい、トランスフェリン受容体が多く存在する場所に蓄積されてしまうわけです。
これらの実験によってアルミニウムが脳血液関門を簡単に通過し、脳の中に入っていくことが証明されたわけです。
脳に入り込んだ アルミニウムは 脳神経細胞を傷害する
それでは、アルミニウムはアルツハイマー病の患者さんの脳の病変に相当するような変化を起こすかが次の課題になります。
アルミニウムを投与して75日くらい経つと、神経細胞の樹状突起(表面に多数のシナプスがあり、それによって運動、判断、記憶など高度な機能ができるようになっている)の数が激減するのが確認されました。こういう変化が起きると、他の神経細胞からくる情報が少なくなりますから、判断とか記憶とか運動とかの高度な機能が顕著に減退します。アルツハイマー病の患者さんの樹状突起も同じようにシナプスの数が非常に少なくなり、こうした変化はアルツハイマー病の神経細胞の一番特有の変化になります。
ですからアルミニウムの投与で、アルツハイマー病と全く同じ神経細胞の病理形態学的変化が再現できたわけです。
アルミニウムは アルツハイマー病の病変部に特に多い
次に、アルツハイマー病の患者さんの脳の中にはアルミニウムがあるのか、しかも細胞の一番大事な場所に蓄積しているのかが課題になります。
これはクロプローブPIXE(ピクシー、イオン照射X線分析法)という方法で確かめることができました。この方法でアルツハイマー病の患者さんの脳の核を見ますと、リンがある場所にアルミニウムが存在する、つまり核の中にアルミニウムがあることをはっきり確認できたのです。
次にSIMSという質量で分ける方法でも、核と一致するところにアルミニウムがあることが証明できました。
母体を通して 胎児や乳幼児の成長阻害も
このように核の中にアルミニウムが侵入すると、一番影響を受けるのは胎児や乳幼児であることが当然のこととして考えられます。
そこで、アルミニウムを全く飲んでない母親から生まれたラットと、1000ppmのアルミニウムを飲んだ母親から生まれたラット、1500ppm飲んだ母親から生まれたラットとを比べたところ、濃度に応じて発育に大きな差が見られました。子供自身はアルミニウムを自ら摂取していないのですから、母親の胎内で受け取ったアルミニウム、あるいはお乳を通して受けたアルミニウムの影響だけで発育に大きな差が出たわけです。
今までアルミニウムといいますと腎疾患などに一番強い変化があると思われていたのですが、実はそれ以上の変化が妊娠から授乳期の動物にあることがこの実験から分かりました。
アルミニウムの摂り込みに 特に若い女性は注意を
アルミニウムがアルツハイマー病を発病させる危険因子の一つだという証拠がかたまってきたということで、仮にアルツハイマー病の原因の1割だけがアルミニウムによって起こるとしてもその人達はアルミニウムをとり込まない工夫によって発病が予防出来るといえます。
特にこれから結婚される若い女性は、アルミニウムが胎児や乳児に成長障害や発育障害を起こしてしまうということからもアルミニウムの摂取には注意して欲しいと思います。
アルミニウムは食品、食品添加物(みょうばん)、飲料水、調理食器(鍋、やかん、アルミ缶、アルミホイル等)、薬品(制酸剤等)などを通じて主に口から入り込みます。この中で日常最も問題になるのは、調理器を含め、アルミニウム食器でしょう。アルミニウムは溶け出すことで毒性を発揮するといいましたが、アルミニウムは主に酸によって溶け出す他に、アルカリ(塩分)でも溶け、また加熱の条件が加わるとさらに溶出率が高まります。食品には野菜を始め肉や魚など酸を含むものが多くある上に、調味に食塩や食酢が使われ、さらに加熱と
いう溶出しやすい条件が揃うわけですから、アルミ食器の使用には注意する必要があります。
食器以外、薬品にもアルミニウムは多く使われています。また、酸性雨の影響で飲料水にもアルミニウムが多く溶け出して健康被害が心配されています。薬品中のアルミニウムについては都立北療育医療センターの別府広圀先生に、また、飲料水中のアルミニウムについては鮫島宗明衆議院議員にそれぞれ専門の立場から語っていただきます。
Guilty or not guilty?
都立北療育医療センター別府弘圀先生
アルミの毒性は湯本先生のお話にあった神経毒性が最も知られていますが、その他にも骨軟化症、骨髄に対して貧血を起こすなどの毒性があります。それらの毒性に対し、薬の中のアルミニウムがはっきりギルティと断罪する証拠はまだ揃っていないと思います。だから大丈夫だということではなく、だからこそ気をつけて見張っていなければいけないと考えています。
アルミニウムを多量に含んでいる薬は沢山あり、厚生省はアルミ脳症や透析脳症に関するデータを無視するわけにはいかないので、薬によっては添付書などで添加の事実や注意、あるいは禁忌を記載しています。添付書に記載があるものは胃の薬の制酸剤に多くあります。因みに制酸剤で禁忌とされているのは透析患者で、長期投与ではアルミニウム脳症やアルミニウム奇骨症などが現れることがあります。添付書に記載されていないものでは例えばバファリンなどの鎮痛剤、外用薬では制汗剤、みょうばん、歯科用の薬など、とにかく非常に多くの薬に
アルミニウムが入っています。私が5〜6年前に日本の医薬品の添加剤のデータベースを作った時には、全部で約7500製剤のうち386種類もの薬にアルミニウム化合物が添加剤として入っていました。
アルミニウムの腸管からの吸収はラットの場合極めて低く、また化合物によっても吸収率は違うのですが、とにかく湯本先生のデータでも1%は入るように、多少なりとも血中に吸収されます。それで、かなりの量の薬を飲んだ場合の1%は相当な量になると思います。さらに、アルミニウムは酸と一緒に入ると非常に吸収が高まりますし、また一緒に摂取する飲食物の状況でも随分違ってくるので、そのあたりの相互作用にも気をつけなければなりません。クエン酸製剤はアルミの吸収を促進することがあるので同時服用を慎重にする、その他、幾つか
注意書きがあります。実際、私の病院の入院患者さんでくる病のような症状を起こしたケースがあって、調べたらアルミニウム製剤が沢山処方されていたことが分かり、それを止めたら元に戻ったという症例がありました。
しかし、制酸剤や制汗剤を使っている人はアルツハイマー病にな
アルミニウムを多量に含んでいる薬は沢山あり、厚生省はアルミ脳症や透析脳症に関するデータを無視するわけにはいかないので、薬によっては添付書などで添加の事実や注意、あるいは禁忌を記載しています。添付書に記載があるものは胃の薬の制酸剤に多くあります。因みに制酸剤で禁忌とされているのは透析患者で、長期投与ではアルミニウム脳症やアルミニウム奇骨症などが現れることがあります。添付書に記載されていないものでは例えばバファリンなどの鎮痛剤、外用薬では制汗剤、みょうばん、歯科用の薬など、とにかく非常に多くの薬に
アルミニウムが入っています。私が5〜6年前に日本の医薬品の添加剤のデータベースを作った時には、全部で約7500製剤のうち386種類もの薬にアルミニウム化合物が添加剤として入っていました。
アルミニウムの腸管からの吸収はラットの場合極めて低く、また化合物によっても吸収率は違うのですが、とにかく湯本先生のデータでも1%は入るように、多少なりとも血中に吸収されます。それで、かなりの量の薬を飲んだ場合の1%は相当な量になると思います。さらに、アルミニウムは酸と一緒に入ると非常に吸収が高まりますし、また一緒に摂取する飲食物の状況でも随分違ってくるので、そのあたりの相互作用にも気をつけなければなりません。クエン酸製剤はアルミの吸収を促進することがあるので同時服用を慎重にする、その他、幾つか
注意書きがあります。実際、私の病院の入院患者さんでくる病のような症状を起こしたケースがあって、調べたらアルミニウム製剤が沢山処方されていたことが分かり、それを止めたら元に戻ったという症例がありました。
しかし、制酸剤や制汗剤を使っている人はアルツハイマー病になる確率が有意に高いというデータは得られてません。だからといって、アルミニウム製剤が白だという論拠にはなりません。はっきりアルツハイマー病とはいえなくても疑わしいデータはいろいろ出ているからです。
それに関して思い出す事に、スモンがキノホルム中毒だということがあります。スモンが騒がれた当時私の同僚が「キノホルムを止めたら患者の症状が良くなる。キノホルムが犯人だと思う」とぼそっと話したことがありました。
しかし、それに対する同僚医師の反応は冷淡で、そこで彼は同僚の若いドクターと一緒に兎にむりやりキノホルムを飲ませたところ兎がコロコロ死んだのです。しかし、スモンそのものの症状は現れない、それで実験を中断してしまったのです。
スモン特有の症状が起こらなくても毒性が出た、兎が死んだという事実が大事なことだったのに、それがみえなかった。
今まで紹介したいろいろのデータ(本誌略)はそれと似ているような感じがします。つまり全く同じ症状でない場合、これとこれとは違うじゃないかと言っている限り、黒いものも黒くは見えてこない気がします。
一方で、1949年から1979年の間、鉱山でけい肺予防にアルミニウム製剤を飲ませていたところ、アルミニウム製剤ずっと飲んでいた人の方が認知機能が悪かったという興味深いデータも報告されています。
また骨への毒性では、アルミニウムにさらされている期間や程度によって大腿骨骨折の発症頻度が違うというデータがオーストラリアの調査で出ており、この調査結果では、長年制酸剤を飲んでいる人は骨折しやすいという可能性を示唆しています。いろいろデータを並べましたが、少なくとも今いろいろな文献を見る限り、疫学的調査ではどれもこれは黒だというはっきりしたデータは調査の限界もあってなかなか揃わないのです。
アルミニウムそのものは薬に非常によく使われております。胃潰瘍、胃炎などで比較的限定されている器官で短期間用いる程度の量ならば比較的問題は少ないかもしれませんが、長期に渡った場合は、その安全性についてもう1回見直す必要があるだろうと思います。その時に疫学的手法が必ずしめたら患者の症状が良くなる。キノホルムが犯人だと思う」とぼそっと話したことがありました。
しかし、それに対する同僚医師の反応は冷淡で、そこで彼は同僚の若いドクターと一緒に兎にむりやりキノホルムを飲ませたところ兎がコロコロ死んだのです。しかし、スモンそのものの症状は現れない、それで実験を中断してしまったのです。
スモン特有の症状が起こらなくても毒性が出た、兎が死んだという事実が大事なことだったのに、それがみえなかった。
今まで紹介したいろいろのデータ(本誌略)はそれと似ているような感じがします。つまり全く同じ症状でない場合、これとこれとは違うじゃないかと言っている限り、黒いものも黒くは見えてこない気がします。
一方で、1949年から1979年の間、鉱山でけい肺予防にアルミニウム製剤を飲ませていたところ、アルミニウム製剤ずっと飲んでいた人の方が認知機能が悪かったという興味深いデータも報告されています。
また骨への毒性では、アルミニウムにさらされている期間や程度によって大腿骨骨折の発症頻度が違うというデータがオーストラリアの調査で出ており、この調査結果では、長年制酸剤を飲んでいる人は骨折しやすいという可能性を示唆しています。いろいろデータを並べましたが、少なくとも今いろいろな文献を見る限り、疫学的調査ではどれもこれは黒だというはっきりしたデータは調査の限界もあってなかなか揃わないのです。
アルミニウムそのものは薬に非常によく使われております。胃潰瘍、胃炎などで比較的限定されている器官で短期間用いる程度の量ならば比較的問題は少ないかもしれませんが、長期に渡った場合は、その安全性についてもう1回見直す必要があるだろうと思います。その時に疫学的手法が必ずしも明快なデータを出さないということであれば、実験的方法へもう1度戻ってチェックしてみることが必要になるのではないかということを私自身に向けても言っておきたいと思います。
水質行政の実体
鮫島宗明
衆議院議員
政治の場でもそろそろアルミニウムとアルツハイマー病の関係について問題提起をする時期に来ているのではないかということで、去る2月23日の衆議院の厚生委員会で、アルミニウムについての問題を始めて取り上げました。厚生省の役人とは様々なやりとりがありましたが、菅厚生大臣には、日本ではあまり疫学的調査が行われていないし、老人性のアルツハイマーについての体系的な研究も行われていないという事もご認識いただけたようです。
日本は雨量は豊富ですが人口が多いので一人あたりの降雨量は少なく、さらに河川が短いということもあって、水の反復利用が定着してきました。これが日本の水質行政で一番特徴的な点です。
しかし、昔と違って川の上流の方でも有機物の排出が非常に多くなってきていることから、水道原水の質が悪くなっています。トリハロメタンのような問題が浮上してきたのにも、浄水場の処理だけでは限界に来たという背景があります。もともと日本の原水の基準というのは大変緩く、蛇口から先の水には突然厳しくなるというのが水質規制の特徴だったのですが、原水の基準が緩いと水道水の水質はなかなか基準に達しません。
それらを受けて、平成5年12月に原水に関して初めて基準を設けた新しい法律が生まれました。評価すべき法律ですが、残念ながらまだアルミニウムについてはトリハロメタンほど認識が高まっておらず、水行政の関係者の視野にはほとんど入っていないというのが現状です。
水道の水質基準についても2年前、それまでの26項目が46項目に増えたのですが、アルミニウムは健康に関する項目とは全く別の快適水質項目(見た目が濁っていないか、変な匂いがしないかなど)に位置づけられており、基準値についても目標値で、別にこれが守られていなくても法律違反にはなりません。その目標値についても、欧米のガイドラインである0・05ppmよりひと桁高い0・2ppmに制定されています。
アルミニウムの微量慢性毒性についてもこれから研究を開始しようという段階で、アルミ容器からのアルミニウムの溶出についても、厚生省は別にチェックはしていないし、目標値を欧米並みの0・05ppmにすぐに変えるつもりもないというのが現状です。
厚生省は平成6年に1200サンプルくらいの水道水を調査しているのですが、全体の5〜6パーセントは現在の基準である0・2ppmを上回っていたという報告でした。
これを欧米並みの0・05ppmに押さえようとすると、おそらく今の浄水場に新たな付加施設が必要になり、それだけで予算が何百億とかかります。場合によっては水道料金の値上げなども考えられるわけで、国民の税金を使う側としてはやはり、誰が見ても規制が必要だという状況が揃わないと動けないという立場なのかもしれません。
しかし、化学的に明らかになった時はもう手後れというのが今まで我々が学んできた経験です。少なくともこの問題については、アルミニウムがアルツハイマー病の犯人らしい…というくらいの所で、おもいきった規制に踏み切るべきではないでしょうか。