野菜は白血球の働きを高める"万病に効く薬”
野菜・果物・海藻などの植物性食品に、インターフェロンと同等の免疫力向上効果
帝京大学薬学部教授 山崎正利先生
免疫機構は、あらゆる疾病を予防する
「薬」は本来、草を食べて体を楽にするもの
「薬」という字は草冠に楽から成るように、草木が主たる原料の漢方薬は近代の合成製剤と違い、病気を直接たたくのではなく、体の免疫力(防衛力)を高めて病気を治すものが多くあります。
帝京大学薬学部の山崎正利教授はご専門の腫瘍免疫学から、漢方薬の免疫力を高める働きに着目。薬草の免疫力を高める成分の研究から、さらに薬草だけではなく、毎日摂る野菜などにも免疫力を高める働きがあるのではないかと研究を進め、野菜や果物、海藻などの植物性食品の中に、白血球を強める働きがあることを見出されました。
しかもその成分は、ガンやC型ウイルス肝炎の治療に使われているインターフェロンと同等、またはそれ以上の効果があることを明らかにされました。
「野菜などの植物性食品を多食する人にガンや成人病などが少ない」ことは多くの疫学的調査で報告されています。同時に生体の持つ免疫機構(生体防御機構)は感染症やガンだけでなく、多くの疾病と相互作用を持つことが最近の研究で明らかになりつつあります。
そういう意味で、免疫力をパワーアップさせる野菜類は「万病の予防薬」となり得ると山崎先生は仰っています。山崎先生に「免疫機構と疾病の関係」、「植物性食品の免疫増強作用」などについてお話を伺いました。
万病から
体を守っている白血球
白血球は
悪漢をやっつける警察官
・・野菜類などには白血球の働きを高める作用があるとのことですが、そのお話の前に、白血球の働きを簡単に分りやすく説明して下さい。
山崎 体を病気から守り、健康を維持する基礎となるのが「生体防御機構(免疫システム)」です。
この生体の免疫機構は社会を守る警察機構に良く似ており、免疫機構は警察の組織にたとえると分かりやすいと思います。交番に当る「リンパ節」には、警察官である「白血球」がいつも待機しています。捕まえた悪漢を連行する「脾臓」もありますし、胸にある「胸腺」は警察官である白血球を訓練する警察学校の役目を果しています。
この免疫システムの中で主役となって働くのが警察官である「白血球」で、白血球は頭のてっぺんから足の先まで体のすみずみをパトロールして悪者を見つけ、見つけたらすぐに捕えてやっつけます。
・・白血球にもいろいろな細胞がありますが…。
山崎 免疫システムとしての白血球は大別して「リンパ球(B細胞、T細胞など)」と、「貪食細胞(マクロファージ)」に分けられます。リンパ球はごく限られた高等動物だけが持っており、抗体や細胞性免疫を作って、外敵に対処します。一方、マクロファージは全ての動物が持っている原始的な細胞で、異物を食べて体に害になるものを除去します。
いずれにしても両細胞共、細菌やウイルス、或いはガン細胞などの異物を排除し、ある時は共同して異物に対する抗体を作って体を守っています。
食品成分と関係する マクロファージ
・・これらの白血球の中で、食品成分と関係している細胞は主にどれになりますか。
山崎 食品との関係では、私はマクロファージの活性が重要だと考えています。
リンパ球がごく限られた脊椎動物だけしか持たないのに対し、マクロファージは全ての動物が持っています。そして、動物は全て食べ物を食べて生きているわけですから、食べ物と白血球の関係で基本的に重要な部分は、マクロファージのような原始的な細胞と食品成分の相互作用となります。
ただし、リンパ球と食品成分は研究されていないので、研究されるようになれば、面白いデータがまた出て来ることはあるかと思います。
白血球の働きは
サイトカインによる
白血球が
分子レベルで分ると
山崎 それで、昔は感染症に重要だと考えられていた白血球は、時代が進むにつれて、ウイルスや細菌など外からの異物だけでなく、ガンなど自分の細胞が異常になったものもやっつけてくれることが分かってきました。特に最近10年間で免疫学は非常な勢いで進歩し、白血球は細胞レベルからもっと詳しく分子レベルで分かるようになり、多くの病気に深くかかわっていることが明らかになりつつあります(表1)。
・・白血球が分子レベルで分かって来たと言いますと?
山崎 白血球が分泌する「サイトカイン」という微量蛋白質が体のいろいろな機能に関係していることが分かってきました。
さらにサイトカインは、インターロイキン、インターフェロン、TNF(腫瘍壊死因子)など多くの種類があって、各々が体の健康に重要な役目を果しているだけでなく、多くの成人病に関係していることが分かりつつあります(表1)。
白血球の生体防御機構の中でもサイトカインを作る働きは非常に重要で、このサイトカインの働きこそ、免疫としての白血球の働きであったと言って良いと思います。
サイトカインと成人病
・・サイトカインとの相関性が分っている成人病はどのようなものがありますか。
〈ガン〉
山崎 まずガンですが、ガンで一番主力となって戦う白血球は実験的にはリンパ球であることが分かっています。
ところが人間の場合、ガンになる過程では数少ないガン細胞が日々たたかれている状況があるわけです。そして、その数少ないガン細胞を叩いているのはリンパ球ではなく、NK細胞やマクロファージなどの非特異的な作用を持つ白血球がやっつけると考えられます。
人間の一生の間には、莫大な数のガン細胞が発生すると言われますが、全ての人がガンになるわけではありません。それはNK細胞やマクロファージなどの白血球が、数少ないガン細胞を日々たたいているからだと考えられます(図1)。
〈動脈硬化〉
山崎 動脈硬化はコレステロールが動脈壁にたまって起きると考えられていました。しかし、コレステロールだけでは動脈硬化にはなりません。
最近、マクロファージには脂質の代謝と非常に深く係わり、変質した脂質(過酸化脂質)を食べて処理する働きがあることが分かって来ました。動脈硬化は実は、マクロファージが脂質を食べ過ぎて死に、その死骸が動脈壁にたまってしまったものだと考えられます。
ということは、適度にマクロファージの働きを高めれば、脂質を上手に処理して、動脈硬化になりにくくなることも可能になると思います。
〈傷の修復―胃炎・胃潰瘍など〉
山崎 白血球は傷の修復にも関係しています。白血球が強まるとサイトカインを出して周りの繊維芽細胞などを刺激して傷を修復していきます。ですから白血球の活性を高めれば、それだけ傷をすみやかに修復します。
胃炎や胃潰瘍など、組織がただれる病気が治る過程では、白血球の傷を修復する働きが関係していると思います。
〈糖尿病〉
山崎 糖尿病もマクロファージが出すサイトカイン(TNFやインターフェロン)で、実験動物の治療が出来ることが分かって来ました。理由ははっきりしていませんが、恐らく、代謝が狂った細胞を白血球が上手にコントロールしているのだろうと推測されます。
〈肝炎・骨粗鬆症etc.〉
山崎 インターフェロンは現在、ガンやC型肝炎の治療薬に使われていますが、肝臓病全般に有効と思われます。
さらに、骨粗鬆症にもサイトカインは関係しています。
このように多くの病気と白血球の相関関係が解明されつつあり、白血球の働きをバランス良く効率的に高めることができれば、"万病に効く”ということも可能になると思います。
野菜、果物、海藻は
白血球の働きを増強する
食品の白血球増強効果と
TNF(抗腫瘍因子)
・・食品が白血球の働きを高めるのは結局、サイトカインの生産を高めるからですか。
山崎 とも言えるかと思います。
食品成分が白血球を高めるかどうかを私達は、サイトカインの一つ「TNF(腫瘍壊死因子)」の量で測っています。
TNFの量を測ることでマクロファージがどれだけ活性化したかが分り、すなわち白血球の活性が分ります。
TNFはマクロファージが悪性腫瘍(ガン)を壊しにかかる時に分泌するもので、TNFを沢山つくることはガン細胞の死滅につながります。
さらにこのTNFは、正常な細胞を刺激する作用も持っているので、白血球の働きを適度に強めてTNFの産生を高めることはガンだけでなく、他の多くの病気にも応用できることになります(図2)。
TNFの産生を高める 野菜・果物・海藻
・・先生のご研究では、野菜類のTNF活性は、治療で使われているインターフェロン製剤と同等、またはそれ以上のものもあるそうですね。
山崎 動物(主にマウス)に野菜ジュースを経口や静脈注射で投与すると、体の中ではマクロファージが活性化し、さらに二次的刺激を与えると、血液中にはTNFが放出されます。
実験の結果、野菜は臨床で用いられているインターフェロン(IFN―γ)や細菌製剤(OK―432)に勝るとも劣らない高い活性を示したものもありました(図3)。
飲ませた場合も水に比べ、10〜50倍という高い活性が見られました(図4)。
・・図を見ると、活性が高い種類は淡色野菜が目立ちますが、成分はどのようなものなのでしょうか。
山崎 従来言われている緑黄色野菜より、淡色野菜に活性が高かったのは私達も面白い結果だと思っています。
しかし、その成分が何かは未だ殆ど分かっていません。少しずつ分かって来た物を見ると、ビタミンだとかの統一的に含まれている物質ではなく、個々のいろいろな物質が多種類含まれて、総合的に作用していることが推測されます。
今分かっているところでは、植物性食品に広く含まれている「フラボノイド」の数種にTNF誘導活性がみられました。フラボノイドは何千何百種類とありますが、そのうち約20種ほどを調べたところセロリに多い「アピン」、「ナリンギン」などのフラボノイド配糖体(フラボノイドに糖が結合したもの)が分かっています。
それから野菜では「フェルラ酸」、キャベツに多い「MMSC(メチルメチオニンスルホニウムクロライド)」にもTNF誘導能が認められました。
MMSCの製剤(キャベジンコーワ)は血流促進効果で潰瘍に用いられています。しかし潰瘍には先程申したように、白血球が持つ傷の修復作用も大きく作用していると考えられます。
・・フラボノイドやフェルラ酸は抗酸化物質(活性酸素消去物質)として知られていますが、抗酸化作用が免疫力を増強している面もあるのですか。
山崎 白血球の増強物質は必ずしも抗酸化作用が強いわけではありませんから、TNFの産生を高めるという意味では相関関係はないと思います。
ただ総体的には、抗酸化作用なども免疫力の増強に関係している可能性があるとは思います。
・・野菜だけでなく、果物や海藻も白血球の働きを高める作用があるそうですね。
山崎 バナナ、スイカ、パイナップルなどの果実は非常に活性が高く(図5)、昔から言われている「夏バテにスイカ、病後にバナナ」というのは、白血球を高める観点からみると、非常に理に適っていると言えます。
一方で、ビタミンCが多い柑橘類はそれほど高い活性はみられませんでした。
・・海藻では?
山崎 海藻サラダとして食べられているアオマフノリ、アカスギノリ、アカノリは非常に強い活性がみられました。
普段良く食べられているヒジキ、コンブも十分活性があります。ワカメは少し落ちますが、量的に多く食べる海藻なので、効果は期待できると思います。(図6)
白血球増強活性は 加熱でも生でも変らない
・・先生は実験にジュースを用いられていますね。熊本大学の前田浩教授のご研究では(自然食ニュース246号)、植物中の抗酸化物質は煮汁に多く溶け出すとのことですが、白血球を高めるTNF産生能成分は生でも効果があるのですか。
野菜(植物)の細胞膜は細胞壁と呼ばれる位強いと聞きますが…。
山崎 結論的には、野菜類の白血球増強効果は熱に対しても安定で、加熱しても生で摂っても変りません。
ただ生で摂る場合、確かに植物の細胞膜は一般的に固いですから、ジュースなどにするなりして機械的に破壊した方が、歯で噛んで食べるより効率良く摂れると思います。
また、細胞壁は加熱すると壊れるので、細胞中の物質は一般的に出やすくなることもあると思います。煮汁では繊維も可溶性の繊維だけになりますから、消化器への負担もかからないだろうと思います。
ただ、煮汁はあくまで水に溶ける可溶性の物質だけが出て来るのだと思います。ジュースなど生で細胞壁を壊す場合は、本来水に溶けにくい物質も出て来ると思われるので、野菜などはいろいろな食べ方をすれば良いと思います。
過剰免疫に対しても 効果を発揮
・・先生のご研究では紫蘇や生姜がアレルギーに効くとのことですが、この場合は白血球の働きを抑えるのですか。
山崎 そうです。紫蘇や生姜に白血球を強める作用はなく、逆に、過剰な活性化し過ぎた白血球の働きを下げる働きがあります。抗炎症作用を持っているわけですね。
・・白血球の働きに活性酸素の生産があり、活性酸素は炎症を起こします。そうしますと、白血球を高める野菜は活性酸素の産生も高め、炎症をひどくする可能性もありますか。
山崎 白血球を強める作用を我々サイトカインで見ていますから、活性酸素を高めているかどうかは良く分かりません。しかし、一般的には白血球を活性化すると活性酸素の産生も高まると考えて良いと思います。
ただ、例えばフラボノイドはそれ自身が活性酸素を消去もするし、白血球を強めることもしている。その場合、両方の作用がバランスを取り合って、丁度良く作用する可能性もあると思います。
実は最近のいくつかのデータから、白血球の働きを高めてもアトピーなどのアレルギー反応が改善することが分かって来ました。過剰免疫反応で起きるアレルギーが、免疫力をアップすることで治るのは奇妙な感じですが、結局、アレルギー反応は免疫力が総合的に高まって起きるのではなく、病的にアンバランスな形で高まっているのだと思われます。
そういった免疫のアンバランスが起きている時に、白血球全体を活性化すれば、アンバランスが是正されてアレルギーが治ることが推測されます。
万能薬となり得る野菜類
野菜類は、免疫システムを
バランスよく強化する
・・野菜などは、白血球の働きをバランス良く効率良く、高めるということですね。
山崎 白血球は働き過ぎても、アレルギーや活性酸素の過剰産生などやっかいな問題を起こします。
ところが野菜類は、白血球を強める作用を持つ一方で、活性酸素の働きを抑える抗酸化作用も持っているわけです。野菜類はこうしたいろいろな働きをする微量物質がうまく働きあって、いろいろな病気に効いているのだと思われます。
実際、野菜を多く摂っても特に問題はなく、日々食する野菜などが果す役割は、生体防御機構の面からも従来知られている以上に重要だと思います。
予防と治療
・・白血球はいろいろな病気と関係しているので、白血球の健康を保つ野菜を多く食べることは、いろんな病気の予防につながるのですね。
山崎 そう考えて良いと思います。私自身10年前は「万病に効く薬」などインチキだと思っていました。しかし最近は白血球の働きを中心に考えれば、野菜などが「万病の薬」となるのは、合理的に解釈できることだと思っています。
・・食品のこういった成分は病気に対して、"予防効果”は言われますが"治療効果”は言われません。治療効果は期待できないのでしょうか。
山崎 治療効果はあると私は思います。それは原則的に数の差だと思います。
例えばガンの場合、BRMという免疫療法剤があって、BRMは予防にも治療にも効きます。そしてその予防と治療の原理は結局、同じなのですね。予防は臨床的に目で見て分からないような状態の時に与えているわけです。そうすると目に見えないガン細胞は消してしまう。ところが治療は組織的にガンになった細胞を叩いているわけで、病的細胞の数が多く、治療効果として十分みられない可能性はあります。予防の場合は数が少ないですから、その効果が出やすいわけです。
野菜も原理的にはBRMと同じだと思います。見かけ上、予防には大きな効果を発揮しても、治療には大きな効果を発揮しにくいかもしれない。しかし、効く原理は同じだと考えています。
・・そうしますと野菜は普通の食事から摂るよりも、ジュースや煮汁など、濃縮した形で摂った方が効果が強まりますか。
山崎 多目に摂る事が出来るのは確かですね。
野菜は白血球を強めるだけではなくて、ビタミンなどの微量栄養素の要素も、抗酸化物質による抗酸化作用の要素も非常に重要です。こうしたいろんな働きをする物質群が、野菜、果物、海藻などの植物性食品にはあるので、野菜類は多種類、多量に摂ることが、健康を確保する上で大きな鍵を握ることになると思います。
(インタビュー構成 本誌功刀)