植物中の抗酸化成分とガン・老化の予防

胡麻には、抗酸化抗酸化物質がいっぱい

名古屋大学農学部 応用生物学科(農学博士) 大澤俊彦先生

食品の機能性と、 ガン予防を食品レベルで設計する
「デザイナーフーズプログラム」

 日本で食品に関して「機能」という言葉が用いられたのは、1984年度から始まった文部省の特定研究「食品機能の系統的解析と展開」においてである。
 食品には3つの機能があり、第一は「生命を維持するのに必要不可欠な栄養素、エネルギーを供給する機能」、第二は「おいしく、心地よく食べられる機能」、そして第三に「生体調節機能」があげられる。
 第三の生体調節機能の研究はその後急速に高まり、免疫、疾病予防など食品中のさまざまな生理活性物質を解明し、それが生体内で十分発揮するように加工された「機能性食品」の開発に至った。この「機能性食品」は現在、厚生省による「特定保健食品」、農水省による「新食品」として発展をみようとしている。
 一方、米国では、植物性食品中のガン予防効果の研究が特に疫学レベルで進み、1990年には植物性成分によるガン予防研究「デザイナーフーズプログラム」が、米国立ガン研究所(NCI)によって5ヵ年計画でスタートした。植物素材から抗酸化物質をとり出して、ガンを食品レベルで抑制することを目的としたデザイナーフーズプロブラムは、最終的には、より機能性を高めたガン予防食品の創造を目指している。
 デザイナーフーズプログラムの一環として、昨年8月にはアメリカ化学会によるシンポジウム「ガン予防における植物性食品の役割」が開かれ、多くの植物(とその成分)のガン予防効果があげられた。
 オーガナイザーの一人としてシンポジウムにかかわった大澤俊彦先生は、植物性食品の機能性、特に食品中のフリーラジカル制御因子、抗酸化因子と疾病との関連性を研究している。中でも、胡麻の抗酸化物質の研究で名高い。
 今月は大澤先生に、胡麻の抗酸化成分を中心に、食品レベルでのガン予防の可能性についてお話を伺った。

生体の酸化障害と 抗酸化物質の摂取
高齢に伴って、 酸化防御反応は衰える

ゥゥ活性酸素やそれから生じる過酸化脂質が、老化、疾病をもたらすと言われています。先生は、食品レベルで体の酸化障害を予防する研究をなさっているということで、今日はお話を伺いに参りました。
大澤 我々は日常、活性酸素やフリーラジカルによる体の障害を少しづつ受けています。老化やガンなどの疾病は、この活性酸素によって遺伝子が傷つけられることによって起きると言われています(図1)。
 一方で、生体は活性酸素による酸化的障害を、防御・修復するシステムを備えています。しかし、年をとるにつれて、この防御作用は弱くなり、生体では不必要に活性酸素が出来てくると考えられています。
 名古屋大学医学部の小澤高蒋教授のグループによる、各年齢で亡くられた方の肝臓のミトコンドリアのDNAの障害を調べた研究では、40、50歳迄は殆ど酸化障害を受けていない、ところが、60歳を過ぎる辺りから急速に酸素による障害が高くなることが明らかになっています。
 また、私共と東大医学部の島昭紘教授との共同研究でも同じような結果を得ています。16歳位の若い人と、76歳位の人から取って来た繊維芽細胞に過酸化物を与えた実験では、若年細胞は約1、000の過酸化脂質が生成されるのに対し、老年細胞では約7、000と、7倍近く酸化されやすいことが分かりました。
 結局、若いうちは酸化障害を受けても防御機構がしっかりしているので、活性酸素の障害を受けてもそこを切り出して修復する働きがあるのだと思います。ところが、年をとるにつれて防御能力が落ち、不必要に活性酸素が出来て、生体は修復が間に合わなくなってくるのだ思われます。

食品中の抗酸化物質は、 本陣を守る歩兵隊

ゥゥその場合、抗酸化物質を摂取することで、酸化的障害がかなり抑えられるのですが。
大澤 先程のヒトの若年細胞と老年細胞の実験で、細胞に、セサミノールという胡麻からとった抗酸化物質を与えてから酸化障害を与えた場合、過酸化脂質の生成は、若い細胞では殆ど変化がありませんでしたが、老年細胞では7、000が4、000に落ちました。
 この結果は、一旦障害を受けやすくなった細胞では、食品中の抗酸化物質を与えると、障害を軽減する作用が非常に大きくなることが示唆されます。
 食品による抗酸化物質は、歩兵に当ると考えると分かりやすいと思います。若いうちは本陣(生体の酸化防御機構)がしっかりしているので歩兵はあまり必要としない、一方、本陣が弱くなる程多勢の歩兵が必要になって来ます。その歩兵には敵陣に突っ込んでいく突撃隊もいれば、本陣のすぐ手前でブロックする役割の歩兵もいるわけです。
 抗酸化物質の効き方のメカニズムもそれぞれ違うわけで、高齢になるにつれて、また、各疾病に応じて、いろいろな役割をする歩兵‖抗酸化物質が必要となるわけです。

胡麻は、 優れた抗酸化物質を 多種類含んでいる
胡麻油の優れた安定性は

ゥゥその抗酸化物質が、胡麻には非常に多く含まれているのですね。
大澤 胡麻は、酸化しやすい不飽和脂肪酸を多く含んでいる(リノール酸46%)にもかかわらず、昔から酸化しにくい油として知られています。他の食用油と比較すると、圧倒的に酸化劣化に対して安定性が高いことが分かります(図2)。
 この胡麻の酸化に対する安定性は、従来、脂溶性の抗酸化物質として一般によく知られているビタミンE(γ―トコフェロール)と、セサモールという微量成分によると言われて来ました。しかし、胡麻にはこの他、脂溶性や水溶性の、様々な抗酸化物質が含まれていることが分かって来ました。
 胡麻種子には他の植物には存在しない「セサモリン」という特有の物質が存在しています。胡麻油で特に重要なのは脂溶性の抗酸化物質ですが、このセサモリンが前駆物質となって、胡麻油を作る過程で、以前から知られていた「セサモール」や、私共で新たに発見した「セサミノール」という抗酸化物質に変化・生成します。中でもセサミノールは、非常に優れた抗酸化性を持つことが分かりました。

1.胡麻サラダ油の セサミノール

大澤 胡麻油には、胡麻を煎ってから搾った焙煎油と、煎らずに搾った(生搾り)後、脱色・脱臭の精製工程を経たサラダ油があります。一般に胡麻白絞油と呼ばれている精製油ですね。
 セサミノールは、このゴマサラダ油に含まれている物質で、胡麻種子を圧搾した後、酸性白土を使って脱色する工程で生成します。この物質は、γ―トコフェロールの4〜5倍も含まれ、熱にも強く、180℃で4〜5時間加熱し続けても半分しか壊れません。
ゥゥ抗酸化性は強いのですか。
大澤 はい。ラットの肝臓に、四塩化炭素(肝臓ガンを起こすことで有名な物質)を与えますと、肝臓や血漿に障害が起きて来ます。そこにセサミノールを与えると、過酸化脂質の生成が明らかに抑えられました(図3)。

2.胡麻焙煎油に含まれている セサモール・ 褐色色素メラノイジン

ゥゥセサミノールはサラダ油だけに含まれるということですが、焙煎油も非常に酸化しにくいですね。
大澤 一方で、セサモリンは加熱する工程で「セサモール」という抗酸化物質を生成します。
 焙煎油にはこのセサモールの他に、やはり焙煎の過程で出来る「メラノイジン」という褐色色素が存在し、焙煎油ではこの物質が最も強い抗酸化性を発揮すると私達は考えています。
 焙煎油では、γ―トコフェロールも含めて、これらの物質による複合的効果で酸化を抑えていると考えられます。
ゥゥ複合的効果と言うことは、セサモールの抗酸化効果はセサミノールより大分劣るのですか。
大澤 いえ、抗酸性はどちらも同じ位優れており、いずれもγ―トコフェロールに比べると、はるかに高い活性を示します(図4)。
 しかし、焙煎油に含まれているセサモールの量は少なく(100g中5〜10mg)、セサモールだけでは焙煎油の高い抗酸化性を説明することは出来ません。また、セサモールはセサミノールに比べて熱に弱く、加熱するにつれて分解されて行くので、焙煎油では特に、他の物質との相乗効果が大きいと推測されます。

3.胡麻の種子に含まれている リグナン配糖体

ゥゥ種子に含まれるセサモリンそのものには、抗酸化性はないのですか。
大澤 セサモリンはリグナン化合物の一種で、胡麻の主成分の一つですが、それ自身には抗酸化性はありません。
 私たちは、胡麻種子に含まれている抗酸化物質では、このリグナンに糖が結合した「リグナン配糖体」が多く存在すると考えています。
 また、胡麻は普通炒って食べますが、そうすれば胡麻種子にもセサモールやメラノイジンが含まれるようになりますね。
ゥゥリグナン配糖体も、高い抗酸化作用を示すのですか。
大澤 はい。配糖体というのは腸内細菌によって切れるのですが、リグナン配糖体は切れた後で抗酸化活性を示すので、抗酸化性はかなり優れていると思われます。
 椙山女学園と東京農大と私共が共同で行った老化促進マウスの比較実験では、胡麻を混ぜた餌を与えたマウス群は非投与マウス群に比べ、外観、活動性、繁殖率、過酸化脂質量、リポフスチン量共、いずれも良い結果が出まして、老化が抑えられていると判断されました。

老化・ガン抑制に関与する 多種類の植物成分 抗酸化物質も、 バランスよく 摂取するのが重要

ゥゥ胡麻は、種子でも油でも、優れた抗酸化物質がいろいろ摂れるというわけですね。
大澤 胡麻には今のところ変異原も見つかっていませんし、ミネラル、ビタミンも豊富で、日常、胡麻を努めて摂ることは結構なことだと思います。
 とは言っても、日常の食生活で胡麻を多量に摂ることは不可能ですし、また、油にしても、摂り過ぎれば、当然リノール酸過剰摂取の害が出て来ます。
 胡麻一つとっても、セサミノールは脂溶性で細胞膜の中でラジカルを抑える一方、配糖体は水溶性で細胞質で働いています。このように、抗酸化物質の働きも様々あります。
 ですから、こういった抗酸化物質の摂取についても、多くの食品からバランスよく摂ることが非常に重要だと思います。
 現在、胡麻に限らず、非常に多くの植物から、様々なタイプの抗酸化物質が見つかっています。胡麻もその一つということです。

ガン予防効果のある 植物性食品とその成分

ゥゥ昨年、先生が参加された米国の「フードフィトケミカルゥゥガン予防における植物性食品の役割」では、ガン予防効果があるとされる植物がピラミッドで示されましたね(図5)。大変多くの植物が上げられていますが、有効成分は全て分かっているのですか。
大澤 成分の研究は大分進んで来たとは言え、まだまだこれからの段階です。
 今分かっている段階では、ガーリック、キャベツではアリルイソシアナートという硫黄を含んだ成分、甘草ではグリチルリチン酸、生姜はテルペノイドと言われています。
 また、植物に大変多く存在する多種類のポリフェノール物質。野菜や穀物に含まれるフラボノイド、お茶に多いタンニンやカテキン、リンゴやイチゴに多いアントシアニン、またトコフェロールや先程胡麻でお話ししたリグナンも、ポリフェノール物質群です。
 それと、ガン予防ではすっかり有名になったカロチノイドですね。
 これらは全て抗酸化作用があり、ガン予防効果を発揮すると考えられています。
ゥゥ成分の研究はこれからとのことですが、重要度はどういう評価で?
大澤 はっきりとは分かりませんが、疫学調査の結果なども踏んでいると思われます(表1)。
 多民族・多宗派のアメリカでは、菜食など特殊な食習慣による疫学データが、大きなグループで取りやすいのですね。また、広大な国土で、土壌や水質のミネラル成分の違いも大きい。例えば、土壌中のセレニウムが少ない地域では、白血病が多いというデータもあります。こうした背景で、アメリカではガンの疫学的研究が進んでいます。
 一方、日本では成分の研究が進んでおり、デザイナーフーズプログラムでは一緒に研究を進めていこうということで、私達もかかわることになったのです。
ゥゥピラミッドでは例えばセリ科植物が重要度が高いとされていますが、これはカロチノイドの抗酸化性が?
大澤 成分ではカロチノイドだけでなく、表2にあるように、多種多様な抗酸化物質が含まれています。表には入っていませんが、ビタミンCなども当然含まれていますしね。
ゥゥそれにしても、植物には、驚くほど多種類の抗酸化物質が含まれているのですね。
大澤 植物は、光や酸素の害から身を守るために、自衛手段としてさまざまな抗酸化物質を備える必要があるのです。
 例えば、紫外線の強いオーストラリアに自生するユーカリの葉には油が大量に含まれていますが、元気に茂っています。
 私は葉の表面のワックスに、酸素や光の障害を防ぐ物質があるのではないかと推測し、リーフワックスを検討したところ、強い抗酸化活性を持つβ―ジケントン類が見出されました。この物質は、名古屋市立大学の研究で肝臓とすい臓の発ガン促進の過程で抑制効果を発揮し、副作用は全くなかったことが明らかになっています。
 また例えば、お米では、玄米貯蔵よりもみ殻貯蔵の方が保存性が高いのですね。もみ殻からはイソビテキシンというフラボノイドの配糖体が見つかり、α―トコフェロールにほぼ匹敵する抗酸化性が見出されました。

抗酸化物質の摂取と、 ガン予防の可能性

ゥゥこれらの成分を摂ることが、ガンの予防につながるわけですか。
大澤 殆どの成分がまだ基礎的な段階で、本当にこれらがガンを予防するかは分からないのです。例えば柑橘類だけでも主な抗酸化成分だけでも200以上あるわけです。このうちどれがガン予防に効果を持つかは、試験管、動物レベルでの実験が始まったばかりで、確実なことは言えません。
 調理法にしても、加熱することで毒性を示す物質もありますし、機能性を示す物質もあるわけです。ですから、現在はまだそういう総体として捉えられている段階だと思います。今後はいろいろデータを整理して、最終的には臨床実験での結果を得る必要があります。
ゥゥそれでも、こういった成分を多く含んだ物をバランスよく食べていれば、ガンの予防につながりますか。
大澤 発ガンのマイナス要因を避けた上で、こういった物質をバランス良く摂取することは、予防に確実につながると思います(表3)。
 ただですね、例えばβカロチンがいくら良くてもβカロチンばかり摂っても意味がない。ビタミンC大量療法がいいと言われますが、ビタミンCも金属が存在すると酸化を促進しますから、危険性もあるわけです。また、ビタミンEも過剰に摂取すれば、却って酸化を促進することにもなります。
 ですから、「これとこれを摂ればガンが防げますよ」ということは言えないと思います。しかし、「こういう一群のもの、こういう一群のもの、これらをそれぞれバランス良く組み合わせて摂るといいでしょう」といったことは言えると思います。
 特に、50歳、60歳になると急速にガン化の速度が早まりますので、高齢者では、悪い物を除くだけでなく、より積極的にいい組み合わせで食べていくことは大変重要になると思います。

ガン予防食品の創造

ゥゥデザイナーフーズプログラムは、こういった抗酸化物質を植物から取り出して、最終的にガン予防食品を開発するとのことですが、この食品は具体的には、どういう方を対象にしているのですか。
大澤 例えば、家系的にガンになる人、また、ガンを全部摘出した場合、転移だけでなく、また原発でガンが現われる確率が高いわけです。こういった言わばガンになりやすい体質の方が、ガン予防食品を摂ってガン化を起こさせるような原因を、なるべく早い時期に抑えることは可能だと思います。
 それ以外にも、抗ガン物質は一方で発ガン物質ですから、抗ガン物質を与えると非常に強い副作用が出ます。それとまた同時に、新たなガンを起こす原因にもなります。その場合、ガン予防食品で、抗ガン剤の副作用や体の障害を防ぐなどの可能性があります。
ゥゥ開発が待たれますね。貴重なお話ありがとうございました。
(インタビュー構成 本誌記者 功刀)