牛乳の摂取は日本人の健康に果たして寄与するか?

日本人の通常の食事による牛乳カルシウムの吸収性の比較と生体への影響

国立公衆衛生院 栄養生化学部公衆栄養室長 梶本雅俊先生

40年ぶりに人体テストされた、 牛乳のカルシウム吸収率
乳・乳製品の消費拡大の一方で、骨粗鬆症は急増、子供の骨密度は低下

 全国500万、予備軍を含めると1、000万人(91年浜松医科大調査)は潜在するといわれる骨粗鬆症。高齢化も加わって、急速に患者数が増大している。
 骨粗鬆症はカルシウムの不足が大きな要因となるが、カルシウムは「国民栄養調査」では所要量を唯一、下回る栄養素として知られている。
 そこでカルシウムの摂取が盛んに言われるわけだが、食品としては必ずといっていい程、牛乳及び乳製品が推奨される。
 しかし、戦後、乳・乳製品の消費量は著しく、現在もなお伸び続けているのにもかかわらず(図1)、骨粗鬆症が増加している。高齢者増加が一因であることには違いないが、最近では、骨粗鬆症の若年化、子供の骨密度低下傾向も問題になっている。乳・乳製品の消費拡大と骨粗鬆症の増大、特に若年層の骨密度低下を考えると、乳・乳製品の摂取が、必ずしも、カルシウム不足及び骨粗鬆症予防に役立っているとは思われない。
 一方で、乳・乳製品の消費拡大はアレルギー疾患の増大にも関与している(日本人の食品アレルゲンは牛乳がトップ)。
 こうなると、牛乳の摂取が果たして日本人の健康に寄与するものなのか疑問がもたれる。
 しかも、食生活が急激に変化したこの40年間、牛乳のカルシウム吸収率の人体実験は行われていなかったのが実情だという。
 そのような事情も背景になって、92年、牛乳を軸に「カルシウム吸収比較試験」が国立公衆衛生院の梶本雅俊先生を中心に行われ、今年5月に開かれた第47回栄養・食糧学会でその成果が発表された。
 今月は、梶本先生に牛乳のカルシウム吸収率を中心に牛乳摂取の問題点を伺った。

カルシウム摂取源に 牛乳がいいという根拠は、 被験者わずか4人の 40年前のデータから

||カルシウムの補充、骨粗鬆症の予防というと、必ずと言っていい程牛乳が勧められます。
 しかし、乳・乳製品の消費が増えているのにもかかわらず、日本人のカルシウム不足は改善されず、骨粗鬆症は急増し若年化しています。
 牛乳のカルシウムの吸収がいいというのは、何を根拠に言われているのですか。
梶本 おっしゃる通り、カルシウムは日本人の栄養所要量を唯一満たしていない元素(ミネラル)で、現時点での日本人の栄養の中心課題となっています。
 そこで、牛乳のカルシウム吸収率がいいと言われているのですが、実際のところ、カルシウム吸収率を人体実験で丁寧に調べたものは殆どないのです。
 "日本人のカルシウム吸収に牛乳が良い"という根拠は、実は40年も前の(昭和27年)、しかも成人男子4人を対象に、僅か4日間の実測による兼松データに基づいています(図2)。
||40年前というと、戦後のまだ貧栄養が問題にされていた時代ですね。その時代の貧弱な調査に拠って、未だに牛乳摂取が勧められているのですか。
梶本 はい、日本人についてはそれを重要な根拠にしています。
 ですから、食生活が極端にガラッと変わった現在、現代の日本人の、実際の食生活におけるカルシウム吸収率のデータの必要性が求められています。
 また、多くの動物実験による実測調査からも、真のカルシウム吸収率に未解明の問題があることが指摘されています。
 このようなことがきっかけで、今回、カルシウム吸収率の実測調査を行ったわけです。

現在の標準的日本人の 通常の食生活における 各カルシウム(Ca) の吸収率

牛乳Ca/野菜Ca/小魚Ca/炭酸Ca
1.方法
||現在の、「標準的日本人の食生活における、実際のカルシウム吸収はどの程度か」ということを調べられたのですね。
 具体的には、どういう方法でカルシウム吸収率を測ったのですか。
梶本 ごく普通の食生活をしている20歳代の男女合せて16名(各8名)を対象に、栄養所要量を満たした平均的な日本人の食生活を基本に、カルシウム源をa牛乳群、b野菜群、c小魚群、d炭酸カルシウム(無機カルシウム)群の4群、期間を各5日間3期に分けて各項目を検討しました(表1)。
 吸収率は、食事中のカルシウム量と排泄物(大小便)中のカルシウム量で出入り(出納)を測り算定しました。
1.調整期(最初の5日間)には高カルシウム(800g)食と低カルシウム(400g)とに分けて検討しました。その上で、牛乳は全員毎日1本摂ってもらいました。
2.第1試験期(中5日間)は、
食事中のカルシウムを等量に調節した上で、カルシウム源を、a牛乳、b野菜、c小魚、d炭酸カルシウム(無機カルシウム)とに分け、さらに、それぞれを高カルシウム、低カルシウムとに分けて検討しました。
3.第2試験期(後半5日間)は、4群とも全員、カルシウム源を牛乳を主体にする食事で検討しました。
2.結果
||結果は如何でしたか。
梶本 a体重、血圧、フリッカーテストでは殆ど差はみられませんでした。
b血清カルシウムは、第1試験期の野菜群が最も低く、牛乳食群と差がみられましたが、回復期では消滅しました。
b尿中カルシウムは、第1試験期の牛乳群が最も高く、野菜食群が最も低い結果になりました。
c糞中カルシウムは、便泌を起こす被験者も出たりするなど排便に個人差があって、明確な区切りが測定出来ませんでした。
3.結論
||尿中カルシウムは牛乳食群が最も高く、野菜食群が最も低いという結果は、牛乳のカルシウムは排泄されやすいと言えますか。
梶本 そうとも言えないんですね。尿には一旦吸収されたカルシウムが出て来ますから、尿中排泄が高いというのは吸収が良いとも言えるんです。第1試験期はカルシウム摂取源の切り換え直後で、この期にカルシウムの排泄量が多いということは、それだけカルシウムが吸収された結果と推測されます。
||結論として、牛乳のカルシウムの吸収は良かったのですか。
梶本 まあ一番良いだろうということですが、今回、糞中カルシウムの測定が出来なかったことで、結局、出納法による吸収率は算定は出来なかったわけです。本年、実施方法などを再検討し、改めてカルシウム吸収率の測定を試みます。
 血液生化学検査では牛乳群のカルシトニン(骨へのCa沈着を促進するホルモン)が高く、パラソルモン(Caを骨から血中に放出するホルモン)が低い結果が得られたものの、その他は明確な差がみられませんでした。
 結局、動物実験の結果も加えてはっきり言えることは、栄養欠乏状態の時、これはどんな種類のカルシウムでも吸収が良くなります。栄養欠乏状態では体は何が何でも栄養を吸収しようとします。カルシウムの場合では、例えば無機でイオン化しにくく吸収の悪い炭酸カルシウムでもどんどん吸収してしまいます。
 問題は、現代のように栄養が足りている時はどうかということですが、結論としては、いくらカルシウム源を替えても吸収率はあまり変わらないかな、というのが本音のところです。
 それよりも、骨を強化するのには運動(活動)の方がずっとプラスになる、これははっきり言えますね。但し、運動も過剰になれば脱灰(骨からCaが脱ける)が起こって骨がボロボロになります。このあいだ、引退したマラソンの小鴨選手はその例だといわれています。運動は、短時間激しく運動するスポーツよりも、日常生活に組込まれた肉体労働、肉体活動が最もいいと言えます。

何故、欧米人に
骨粗鬆症が多いか
高リン食‖高蛋白食は、 カルシウムを尿に排泄する

||牛乳群に尿中Ca排泄量が多い結果から牛乳Caの吸収がいいと推測されるとのことですが、では、牛乳をはるかに多く摂っている白人に骨粗鬆症が多いのは何故か。これは、摂取量がいくら多くても排泄量がそれに勝るからだと考えられますが。
梶本 おっしゃる通りで、これは高リン食が問題でしょうね。
 高リン食、つまり肉多食が骨の脱灰を起こして、尿にカルシウムを多量に排泄してしまうのです。
 体内では、カルシウム×リンの血液濃度は一定の値をとるという関係があります。ですから、血中のリンが多くなれば、体内のカルシウムはそれだけ減らないといけないのですね。
 それと、リンは腎臓での活性型のビタミンDの合成も邪魔します。(活性型ビタミンDはカルシウムの吸収に必要です)。
||高蛋白食も、骨の脱灰を促進し、尿中カルシウム排泄を促進すると言われていますが。
梶本 蛋白質の中にはリンが非常に多く含まれており、結局、高蛋白食‖高リン食なのです。ですから肉食中心の食事では、リンの摂取が非常に多くなって、カルシウムの排泄が増え、また骨への定着を阻害します。
 牛乳は、カルシウムとリンの比が多少リンが多目なものの、大体1対1で適正と考えられています。しかし、肉や乳・乳製品をバカスカ摂る欧米人では、総体的にタンパク質の摂取量が非常に多くなって、リン過剰に陥いりやすくなります。
 このように、骨粗鬆症が欧米人に多いのは高リン食(高蛋白食)が最大の理由と思われ、あとはやはり、生活の合理化で肉体活動が少なくなっていることが原因でしょう。
||加工食品にはリン酸が多量に含まれています。子供の骨密度低下傾向は、やはりその辺が原因でしょうか。
梶本 一因として考えられますね。清涼飲料水などにもリン酸が多く含まれていますしね。
 ちなみに、カット野菜のもちがいいのはポリリン酸液に野菜を漬けているからなんです。日本の土壌は酸性土壌で、もともと作物はリンが多くカルシウムが少ない傾向の上、今は肥料にリン、食品添加物にリン酸と多用され、以前に増して食品中のリンの割合は高くなっています。
 外食、加工食品の利用も増え、こういった食生活の変化が子供達の体にもいろいろ影響を及ぼしていると思われます。
||欧米型の食生活では高脂肪も特徴的ですが、脂肪は関係ないですか。
梶本 いや、やはり高脂肪もカルシウムの吸収を阻害する場合があります。脂肪の消化が悪いと、消化管で脂肪が分解される時に、カルボキシル基にカルシウムがくっついて固まって溶けにくくなるのですね。但し、白人の脂肪を消化する力は大したものですから、彼等の場合、高脂肪食と骨粗鬆症に特に因果関係はないと思います。
 一方、欧米型の食事に少なく日本型の食事に多い食物繊維、これもカルシウムの吸収を阻害します。
||先生は所要量策定のお仕事もなさっていますね。日本人のカルシウムの所要量600mgは、欧米の800〜1.000mgと比べて少な過ぎるということはありませんか。
梶本 カルシウムの所要量は戦後の食量難時代、これだけは最低摂らなければというギリギリのところで決めた経緯があるのです。体格も大型化した現在、いろいろ実情に合わなくなっている可能性があり、今、いろいろ検討中のところです。
 カルシウムは吸収しにくい栄養素で、計算上十分でも実際の吸収量は少ないということがあります。また、摂取量が過剰だと排泄量が多くなるということもあって、所要量の決定というのはなかなか難しい問題があります。

基本的には、 種特有の乳を牛乳とアレルギー

||私達が牛乳を勧めないのは、アレルギーの問題もあります。母乳で育った子の方が、牛乳で育てられた子よりアレルギーにかかりにくいと聞きます。
梶本 それはありますね。
 お乳と言うのは、早く成長する種ほど濃いのです。一般に、肉食獣の乳は草食獣に比べて濃く(蛋白質濃度)、一番濃いのはアザラシやオットセイなど海獣です。そして、恐らく一番薄いのは人間のお乳でしょう(表2)。
 人間は、他の哺乳類と比べれば未熟児で生れたと言ってもいい位、種としての成長が遅い。ですから、赤ちゃんの時期が長い人間のお乳は体構成素としての栄養素よりは、生きていくためのエネルギーとしての栄養素が求められるわけで、そのため、乳糖が総体的に多くなっています。ですから、牛乳をストレートに赤ちゃんに飲ませたりすると、蛋白質が濃過ぎて下痢したり熱を出したりするわけですね。そこで、人工乳では乳を調整する必要があるわけです。
 一方、ライオンの赤ちゃんには牛のお乳では薄過ぎて、そのままでは皆死んでしまいます。ライオン乳は牛乳に比べ、蛋白質濃度は約2倍位濃いわけですから、牛乳では水を飲ませるようなものなのです。同じ肉食の犬のお乳では成長するんです。
 この様に、乳は非常に厳重に種特有の乳の濃さというものがあり、本来的には、種独自の乳を飲まなくてはいけないということになります。ま〜、きれいに順調に育つということですね。
||乳が濃いのは蛋白質の含有量で決るのですか。乳脂肪は?
梶本 乳脂肪は母親の食べる餌によって随分違って来るんです。ところが蛋白質はあまり変わらない(長期には影響する)。但し、蛋白質は初乳が最も濃く段々薄くなっていきます。
 これは乳中の白血球でも同じです。赤ちゃんの腸管の分子的なメッシュは非常に粗く、母乳では直接お母さんの免疫グロブリンなどが入って、感染症にかかりにくくなるわけです。だから、母乳の子は強いのですね。
 蛋白質も人タンパクですから、腸管を通して直接血液に入って来てもアレルギーなど起こしにくい。
 ところが、牛乳を飲ませた場合、異タンパクですから腸のメッシュが粗い赤ちゃんでは、アミノ酸段階にまで十分蛋白質が消化せずに血中に入り、アレルギーが起きやすくなります。
||そうしますと、今、離乳も早くなって3ヵ月位で始めますが、それも問題ですね。
梶本 早期離乳は考えものです。
 ついでながら、日本を含めてアジアには、長い間の食性から、ガラクトース消化酵素欠損の乳糖不耐症の人が多いのです。こういう人は牛乳を摂っても下痢してしまい、摂取しても栄養になりません。

多種類の食品を チマチマ摂って 栄養のバランスを図る
このままの食生活では 骨粗鬆症も欧米並に

梶本 牛乳は、蛋白質、脂質、ミネラル、ビタミンと栄養素的にバランスのいい食品であることには間違いありません。
 10の栄養の充足率だけを考えてコンピューターで打ち出せば、極端に言えば三つの食品だけでこと足れりという答えも出て来ます。しかし、これは理論的に可能でも現実には全くフイットしない。
 私は特に牛乳がいけないという考えはしていないのですが、牛乳だけに頼ってカルシウムを摂ろうとする考えは非常に問題です。
 歯の構成からいっても、人間は穀類・菜食に適しているとも言え(穀類3、野菜2、肉1)、現代のような動物性食品、精製食品偏重の食事は、骨粗鬆症だけではなく、多くの成人病の増加をもたらす原因になります。
 カルシウム源も、牛乳だけではなく、昔から日本人が摂取したところの大豆、野菜、海藻、小魚も重要です。
 結局、月並みですが、食生活はカルシウム源に限らず、多種類の食品を摂って栄養のバランスを図るのが最善という結論に達します。
 なるべく精製・加工していない自然な素材で、いろいろなものをチマチマ摂るということですね。伝統的日本食の良さはここにあります。
 安全性からいっても、農薬、重金属、食品添加物と食品汚染が拡っている現代では、栄養的にいくらバランスいい食品であったとしても、それだけを多量に摂るのは特定の汚染物質を多量にとり込む可能性もあり、非常に危険なことです。
 日本人はカルシウムが足りない、骨粗鬆症が増えたと言っても、不思議なことにカルシウムを牛乳からはるかに多く摂っている西欧人に比べても、骨粗鬆症の疾病率はまだ低い。
 しかし、いいにつけ悪いにつけ、全てにおいて欧米の後を追いかけている日本は、今のまま放っておけば、食生活はさらに欧米化し、骨粗鬆症のさらなる増加も避けられないでしょう。
(インタビュー構成 本誌 功刀)