増える潜在性ビタミン欠乏症

糖尿病では、特に発現率が高い

帝京大学医学部教授 (医学博士) 橋詰直孝先生

エネルギー源過剰、微量栄養素不足の現代型食生活を反映する 食源病としての糖尿病

 飽食、偏食の時代といわれる今日、成人型の糖尿病(インスリン非依存型)は急増化の傾向を示し、今日、日本だけで約500万人もの患者がいると言われています。
 現代人はただでさえエネルギー源となる脂質や糖質が過剰で、微量栄養素が不足の傾向にあります。その上に、糖尿病になると病気が原因で微量栄養素の不足をもたらし、微量栄養素の不足が合併症を悪化させることがいわれています。
 今月は、糖尿病患者の体内のビタミンの状態を研究している橋詰直孝先生に、糖尿病を中心に「潜在性ビタミン欠乏症」についてお話を伺いました。
※糖尿病
 膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されるホルモン「インスリン」の作用不足によっても起こる糖の代謝異常の病気。
 インスリン作用不足のためにグルコースが筋肉細胞や脂肪細胞の中に入っていかず、そのため細胞の外のグルコースすなわち血糖値が上がって、血管障害、神経障害、感染症など様々な合併症を引き起こす。

増加する 潜在性ビタミン欠乏症
1.潜在性ビタミン欠乏症とは

||潜在性ビタミン欠乏症が増えているということですが、潜在性ビタミン欠乏症とはどういう症状を指すのですか。
橋詰 体内のビタミンの不足にはステップがあります。
 まず、組織(細胞)の中のビタミンが不足します。この段階では欠乏による症状はあらわれません。
 組織のビタミンの低下が続くと、次に血液の中のビタミンが不足し始めます。そして血中ではビタミンが段階を追って減ってきます。
 血中のビタミン濃度が低下し始めても、ある程度までは症状は出ません。ビタミンCでは1dl中0・7mg、ビタミンBでは1ml中50ng(ナノグラム)以下になると段々減って来たという目安になります(表1、2注参照)。この段階は典型的な欠乏症状が出る一歩手前で、細胞自体が弱くなって体の変調が起こりがちになります。この段階を「潜在性欠乏症」と言い、屡々さまざまな不定愁訴(めまい、頭重、疲れやすいなどの訴え)を起こします。
 この段階を越すと、欠乏症は顕在化し、ビタミンCは0・4mg/dl以下で壊血病に近い諸症状が出て来ます。ビタミンBでは大体40ng/ml以下が顕在的な欠乏症となり、脚気など代表的な欠乏症状があらわれます。
||組織内で不足する段階は、潜在性欠乏症とは言えないのですか。
橋詰 厳密には、組織内で減って来た段階が既に潜在性欠乏症です。しかし、組織で減って来る分は今の医学ではキャッチできず、ビタミン濃度の体内変化は血中の測定ではじめてキャッチ可能になります。今のところ、潜在性ビタミン欠乏状態は血中濃度から判断するしかないわけで、血中濃度の低下を基準としているわけです。

2.潜在性ビタミン欠乏症は、 増加率年々アップ

||先生のご研究によると、最近特に、潜在性ビタミン欠乏症の増加が顕著であるということですが。
橋詰 そうです。健康と思われる人でも潜在性ビタミン欠乏症は年を追って増えています。
 日本人では特にビタミンBとCが不足しやすい傾向がみられ、ビタミンCでは86年は14・7%、90年は16・7%、92年は21・9%と顕著に増加しています。ビタミンBでも大体これと似たような増加率を示し、約20%が潜在性欠乏症となっています。
||ビタミンBとCが特に不足傾向をみせるのは何故ですか。
橋詰 ビタミン不足はB、Cに限らず、まず食事からの摂取不足が考えられます。現代型の食事では、精製加工食品の過剰摂取、野菜の摂取不足等の傾向が強くなっています。こういう食生活では当然、ビタミン、ミネラルの微量栄養素は全体に不足気味になります。
 B、Cが特に不足の傾向を示すのは、ストレスによって多量に消費されるビタミンであること、また、日本人の食生活に原因があります。

糖尿病と 潜在性ビタミン欠乏症
1.糖尿病においては、 特に発現率が高い

||特に、糖尿病の患者さんに潜在性ビタミン欠乏症が多いのはどうしてですか。
橋詰 糖尿病では、aビタミンの需要量が増すことと、bビタミンの利用障害が推定されます。cまた、食事制限から来る微量栄養素不足が考えられます。
 以上の理由から糖尿病の患者さんでは、さらにより多くの人が潜在性ビタミン欠乏状態に陥っていることが推測され、当病院の糖尿病患者さんの血中ビタミン濃度を検討してみました。
 表1は、健常者と糖尿病者の血中ビタミン濃度(表1|@)と、潜在性ビタミン欠乏状態の発現率(表1|A)を示したものです。潜在性ビタミン欠乏症の発現率をみると、各種のビタミンにおいて、健常者に比べ糖尿病者は高い率で潜在性欠乏状態が発現しているのが認められます。特に、ビタミンBは54・5%(103人中56人)、ビタミンCは32・2%(149人中48人)と高い発現率を示しました。
 さらに、糖尿病の患者さんを血糖値の高いグループと低いグループに分けて比較検討してみたところ(表2、空腹時血糖値140以上を血糖不良群とする)、血糖不良群においてはビタミンEを除いて全ての血中ビタミン濃度が低い値を示し(表2|@)、潜在性欠乏状態の発現率が高い傾向にあることが分かりました(表2|A)。
||潜在性ビタミン欠乏症は、血糖値が高い程、発現率が高くなると理解していいのでしょうか。
橋詰 その傾向がみられると言っていいでしょう。

2.血中ビタミン濃度は、 B、Cが特に低く、 Eは高い

||健常者の潜在性ビタミン欠乏症でもビタミンBとCの値が特に低いということでしたが、糖尿病の患者さんもやはり同じ傾向を示し、またその割合が高くなっていますね。
橋詰 先程言ったように、ビタミン不足は食事がまず誘因と考えられるので、病院の食事を検討してみました。
 その結果、計算量と実測量に差がみられ、ビタミンBは計算量1・05mgに対し実測量は0・46mg(46・8%低下)、ビタミンCは計算量122mgに対し実測量44・3mg(36・4%低下)となり、計算上は十分な量でも、実際の摂取量はかなり低いことがわかりました。水溶性ビタミンは調理による損失率が高いので、それを考慮に調理することが肝心です。
 また、高齢者糖尿病の多尿時には水溶性ビタミンを多量に尿に排泄するという報告があるので、それも原因の一つと考えられます。
||反対に、ビタミンEだけは血糖不良群が高くなっていますね。健常者と比べても、糖尿病の患者さんが高い値を示していますが。
橋詰 糖尿病の患者さんは血中脂質濃度も高い傾向を示します。そのために、見掛け上ビタミンEの値が高くなっていると考えられます。
||ただし、HDL|コレステロール(高比重コレステロール。一般に善玉コレステロールとされる)中のビタミンEは、血糖が高い程、低い傾向にありますね。糖尿病の患者さんはHDLが少ないのですか。
橋詰 その通りで、糖尿病の患者さんはHDL|コレステロールの値が低いのです。
||PLP効果は健常者が1・28%に対し糖尿病者は1・64%とあります。PLP効果というのは?
橋詰 PLP効果とは、ビタミンBの代謝障害があると高くなるのです。糖尿病ではビタミンBの代謝障害があると思われます。
3.潜在性ビタミン欠乏状態は
合併症を悪化させる
||糖尿病患者さんに潜在性ビタミン欠乏状態が多いということから、微量栄養素の不足が糖尿病を引き起こすケースも考えられますか。
橋詰 ビタミンやミネラルなどの微量栄養素は、代謝の活性に必須の栄養素です。糖尿病は代謝異常の病気ですので、これら微量栄養素の不足が症状の悪化を促進し、また、症状の悪化が微量栄養素の不足を促進することが考えられます。
 しかし、発症の段階では、微量栄養素の不足が糖尿病を引き起こすなどということはありません。糖尿病の発症のきっかけはあくまで糖質、脂質などエネルギー源の過剰摂取です。エネルギー源過剰でしかも微量栄養素不足であるとすると、微量栄養素の不足が糖尿病発症のきっかけに相乗作用を及ぼしているとは言えるでしょう。
||症状を悪化させる誘因にもなるのですね。
橋詰 微量栄養素の潜在的な不足に加えて何等かの負荷が加わると、いろいろな病気を引き起こします。
 糖尿病では合併症が怖いとされていますが、合併症の人を調べてみると、潜在欠乏状態が高い率で発生しています。そして、やはりビタミンB、Cの欠乏が多いんですね。
 糖尿病の合併症は、血管障害と神経障害の2つに大別され、それぞれ検討を加えました。
〈血管障害とビタミンC〉
橋詰 糖尿病性血管障害に関しては、血中ビタミンC濃度の低下傾向と、潜在性ビタミンC欠乏状態が高い率で認められました(表3)。
 ビタミンCが足りないと、コレステロールの値が高くなります。血漿ビタミンC濃度0・7mg/dl以下では、血清総コレステロールと、低比重で悪玉コレステロールといわれるLDL|コレステロールが上昇傾向を示し、善玉コレステロールといわれる高比重のHDL|コレステロールは低下傾向を示しました(図1)。
 また、高脂血症(血清総コレステロール220mg/dl以上)の発現率は、血漿ビタミンC濃度0・4mg/dl以下で62・2%、0・4〜0・7mg/dlで55%、0・7mg/dl以上では36・4%と、ビタミンC濃度が低い程高い結果になりました(図1)。
 以上の結果から、糖尿病性血管障害を持っている人に潜在性ビタミンC欠乏状態が多く、また、潜在性ビタミンC欠乏状態が糖尿病性血管障害及び高脂血症を来たす可能性が考えられます。
〈神経障害とビタミンB、B〉
橋詰 ビタミンB群というのは糖質や脂肪、蛋白質の代謝に働くと共に、神経の働きを正常に保つ働きをしています。特に、B、B、B12は神経依存性ビタミンといって、不足すると痺れや麻痺、痙攣などの神経障害を来たします。神経障害ではB、Bを検討しました。
 糖尿病性神経症を持った患者さんでは血中ビタミンB濃度が低く、潜在性ビタミンBの欠乏が69%もの高率で見出されました(表4)。さらにTPP効果(B欠乏の指標。値が高い程B欠乏であることを示す)も高く、Bの欠乏が神経障害を促進している可能性が示唆されました。
 Bの検討では血中B濃度は高く、PLP効果も低い結果で、Bのような傾向は認められませんでした(表4)。しかしB欠乏が神経障害に関与している報告もあり、今後さらに検討を加えていきたいと思っています。
〈フリーラジカルとビタミンC〉
||糖尿病にはフリーラジカルの関与も聞きます。ビタミンCはフリーラジカル消去物質ですが、ビタミンC欠乏傾向はフリーラジカルにも関係していますか。
橋詰 糖尿病では、ビタミンC不足でフリーラジカルが増えるのではなく、糖尿病そのものがフリーラジカルを増やすと考えられています。その結果、ビタミンCの消費量がそれだけ多くなることが考えられます。
 ビタミンCだけでなくビタミンA(カロチンを含む)やEなどフリーラジカル消去物質が足りないと、フリーラジカルによる障害はそれだけ増えるので、ここでも、糖尿病とビタミン欠乏状態の悪循環が生れます。
 但し、フリーラジカルに対抗するには、ビタミンCは1日lg前後必要とされています。
||糖尿病では感染症も起こしやすいといわれますが、フリーラジカルの影響はありますか。
橋詰 影響しますね。フリーラジカルは免疫細胞を障害しますから。
 しかし、感染症は高血糖でも引き起こされ、糖尿病の免疫力低下のメインはあくまで高血糖です。何故かと言うと、糖はいろいろなものに結びつきやすいのですね。赤血球のヘモグロビンに結合するとヘモグロビンAcが高くなる。免疫細胞にも結合して例えば貧食細胞に結びついてその働きを阻害する。血糖を是正すると免疫力は回復します。
 糖尿病においては、高血糖状態でさらにフリーラジカルが関与すると、免疫力の低下が昂進されるわけです。そこにビタミンCの不足が加わると、免疫力低下に拍車をかけます。
 糖尿病のケースでは、高血糖を是正しないでいくらビタミンCを大量に摂取しても免疫力は回復しません。

成人病の予防と 微量栄養素の重要性
一つ一つの生命体を大事に

||ビタミンの潜在性欠乏症が多いということは、ミネラルの潜在性欠乏症も多いことが推測されます。ミネラルに関しては、亜鉛、クロム、マンガンなどの不足が糖尿病に関与していると言われていますが。
橋詰 亜鉛はインスリンの分泌に必須です。クロムは糖耐性因子グルコーストレランスファクターが働くのに必須のミネラルとして知られています。
 ビタミンの不足と同様、糖尿病ではこれらのミネラルが不足がちになり、一方で、これらのミネラルの不足が糖尿病の症状の悪化を促進している可能性は十分あると思います。
||糖尿病を含めて成人病の予防にフリーラジカルの制御は重要と思われます。それには微量栄養素の摂取が大きく関与しますが、厚生省が定める1日の所要量は成人病予防には少な過ぎませんか。
橋詰 厚生省が定めている必須微量栄養素の所要量は、欠乏症を来たさないためのもので、成人病予防とは全く視点が違います。1日の所要量が成人病予防の量になると誤解されている向きがあるのかも知れませんが、それは厚生省の説明不足かマスコミの勉強不足かは知りませんが、ごっちゃにしてはいけませんね。所要量は所要量でとっても大切な概念で、これはこれで定めるべきものです。
 成人病予防、特にフリーラジカルの防御にはビタミンCに関して述べたように、所要量の定める量ではとても足りません。
 成人病予防としての目標量は別に設けるべきものですが、まだ全部がよく分かっていない、人によってかなり違って来る、微量栄養素は微量の範囲で欠乏症や過剰症を来たす――などの理由から、所要量のように公にするのは難しいと思います。
||先生は微量栄養素に深い関心をお持ちですが、お医者さんでは少ないのではないですか。
橋詰 微量栄養素への関心は高まってはいますが、まだまだ無関心の人が多いですね。糖尿病の潜在性ビタミン欠乏状態増加の理由の一つはそこにあります。
 糖尿病の患者さんでは食事指導が重要ですが、患者さんは勿論、医者も関心が薄い。微量栄養素はエネルギー代謝に必須な栄養素ですから、もっと関心を持って欲しいと思います。
||微量栄養素のサプリメントについては、どう考えられていますか。
橋詰 栄養は、全て食べ物から摂るのが原理原則です。
 しかし、やむを得ず外食の機会が多い人などが微量栄養素の潜在性欠乏症に陥らない、またアンバランスを来さないために、マルチタイプのサプリメントを摂取するのは致し方ないことだと思います。
――先生は肌が生き生きと綺麗でとてもお若く拝見しますが、食事には十分気を使っていらっしゃる。
橋詰 食品は1日最低30品は摂っています。これは自分自身の努力と言うより家内のお陰ですね(笑)。そうは言っても私自身外食の機会も多いので、ミネラルを含む総合ビタミン剤を毎日1錠摂り、栄養のアンバランスを来さないよう注意しています。
||最後に糖尿病を含めて成人病の予防についてお聞かせ下さい。
橋詰 若さ健康を保つ上では、如何に細胞を生き生きさせて上げるかが大事になります。
 生命は、小さな小さな生命体(細胞)の集りで出来ているわけですね。細胞の一つ一つを大事にすることが病気の予防につながって行くわけです。それを人間はついつい忘れて、喫煙や深酒、夜更かしなど、細胞を傷めつけることを平気でします。
 細胞というのは中心に核がありそれをミトコンドリアが取り囲みそこに微量元素がかかわり合いを持つという様に、人間でも猫でも犬でも、或いは植物でも皆同じように出来ています。自分自身の生命体を大事にすることは、同じ様に作られている他の生命体も大事にすることにつながって行きます。自分、他人、動物、植物と大事にする生命達の輪が広がり、全ては同じ生命体であるという認識も湧いて来ます。
 そういう視点で栄養を捉えると、栄養というのはとても面白いんですね。適正な栄養摂取が如何に重要であるかも分かって来ます。
 現代社会はストレスに取り囲まれているのが特徴的ですが、ストレスというのは細胞の歪みをもたらします。現代人では、ストレスによる細胞の歪みを最小限、跳ね返すためにも栄養が重要になり、中でも必要なのは何かというと微量栄養素なのです。
(インタビュー構成 本誌功刀)
※資料出典
『糖尿病記録号1990
||糖尿病とビタミン||』橋詰直孝著