アルミニウムは、正常な脳にも入り込み、蓄積されて、脳の神経細胞を破壊する
〈その2〉アルミニウムの毒性と体内摂取経路
東京大学医学部解剖学教室(医学博士) 湯本昌先生に聞く
アルミニウム、
三つの体内毒性
神経毒性・増血障害・
骨障害
アルツハイマー病との関連
で、主にアルミニウムの神経毒性についてお話し戴きましたが、他に毒性はありますか。
湯本 アルミニウムの毒性は、主に三つあげられます。
・神経毒性(神経細胞を障害したり、死滅させたりする)
アルミの毒性の中で、最も恐いのは神経毒性です。何故なら神経細胞は他の細胞と違って、特殊な性質を持つからです。
第1に、神経細胞は生後分裂しない(生れてからは増えることがない)ため、一旦、神経細胞に障害を受けると、例えば皮膚や肝臓の細胞のように細胞分裂で新しい細胞を補充する
ことが不可能だからです。
第2に、神経細胞は分裂増殖しないどころか、生後はずっと減少し続けていく細胞だからです。大脳皮質では1日あたり10万個の神経細胞が死滅するとされていますが、この計算からすると1年で3、650万個、60年では約22億個の神経細胞が死滅します。これは大脳皮質全体の140億個の神経細胞の約15%に相当し、それもあくまで正常な人を対象にした場合です。
従って、以上のような性質を持つ神経細胞を障害する物質は、脳に取り込まない注意が必須で、特に高齢者は注意が必要です。
・増血障害
アルミニウムが血中に入ると増血障害を起こし、貧血などをもたらすことがわかっています。
・骨障害
アルミニウムイオンはカルシウムイオンと性質が似ているため、細胞内に取り込まれるとカルシウムイオンを必要とするいろいろな酵素反応や細胞内の調節機構を阻害します。
そのため、骨軟化症や骨粗鬆症の原因になったり、症状を促進したりします。
アルミニウムの
体内摂取経路
溶け出した
アルミニウムの危険性と、
調理器、酸性雨の問題点
〈アルミニウム食器からの溶出〉
それではアルミはどういう
ルートで人体に入るのですか。
湯本 主に食品、食品添加物(みょうばん)、飲料水、鍋ややかん、アルミ缶、アルミホイルなどの調理食器、制酸剤、制汗剤などを通じて口から入り込みます(経口摂取)。
この中で日常、特に問題になるのは、調理器を含めてアルミニウム食器でしょう。
我が家でも活躍しています。
湯本 我が家では研究を始めてから使用をやめました(笑)。
先程から何回も申している通り、アルミニウムは溶け出すことで毒性を発揮します。アルミニウムは主に酸によって溶け出しますが、アルカリ(塩分)でも溶け、また加熱の条件が加わるとさらに溶出率が高まります。
調理食器からのアルミニウムの溶出は、以前から報告されています。最近の鳥取女子短期大学の松島先生、鳥取大学医学部の飯塚先生、船川先生、能勢先生らの研究(図1)では、加熱使用でアルミの溶出が非常に高くなることが確認されています。
例えば、アルミの厚手鍋にお酢を入れて水を沸騰させると、30分間で100ppm以上ものアルミニウムが鍋の中に溶け出してきます。(図1のB、左)。食塩を加えると200ppmもアルミが溶けてしまうのです。これは酸性雨で木が枯れた森の土のアルミの濃度や、アルツハイマー病を多発した地方の飲料水の濃度(後述)と照らすと、驚くほど高い濃度であることがわかります。
ですから、アルミ製の調理器は非常に問題が多いのです。酸を含む食品は野菜を始め肉や魚などと非常に多くあり、その上調味に食塩や食酢が使われ、さらに加熱という溶出しやす
い条件が揃うからです。
そういえば昔、塩と酸の塊
といっていい梅干が、アルミの弁当箱に穴を開けましたね。
湯本 容器では今は、アルミ缶が問題でしょう。清涼飲料水の殆どは酸をかなり多く含んでいますから。ビールも然りです。
コカコーラ社ではアルミニウムの溶出を防ぐために缶にプラスティックをコーティングしているのですが、これとて完全に溶出を防ぐわけではなく、まだ多くのアルミ缶は無防備です。
〈酸性雨とアルミの溶出〉
アルミニウムの溶出という
ことでは、先生は酸性雨の問題を強く言及なさっていますね。
湯本 酸性雨は、多くの環境問題の中でも健康障害に重要な関係があります。
それは、酸性雨で土壌中のアルミニウムが溶出するからです。
透析液の例でも分かりますが、水に溶け込んだアルミニウムは、強い毒性を発揮します。
土壌から1〜5ppmのアルミニウムが溶け出すと、根の細胞を侵して木が枯れ、ドイツのシュヴァルツヴァルドなど森林破壊が起きているところでは、10〜15ppmものアルミニウムが溶け出しています。
湖沼ではpHが正常でも、0・2ppmのアルミニウム濃度で魚が死滅し、飲料水中のアルミニウム濃度0・11ppm以上で、アルツハイマー病の発症率が1・5倍も高くなるなどのことを考えると、酸性雨の問題は非常に深刻です。
飲料水では、土壌中の溶出からばかりでなく、水道水の浄化に使用されている大量の硫酸アルミニウムの溶出も問題となります。
日本でも現在、下流域では大量の硫酸アルミが投入されていますが、酸性雨の影響がまだ少ないために、ごくわずかな量の溶出で済んでいます(pHが中性であれば、硫酸アルミは浮遊物質を抱えて沈殿してしまう)。
しかし、pHの1〜2の変化で、アルミニウムは一挙に数10〜数100倍も溶け出すのです(図2)。酸性雨によって水の酸性度が高くなれば、大量のアルミニウムが水道水に溶け出し、飲料水を汚染することが心配されます。
さらに、飲料水から侵入するだけでなく、食品中のアルミニウムの含有量が高まる危険性があります。食品中には微量ながらアルミニウムが含まれていますが、土壌中のアルミニウムが溶け出すと、食物連鎖による生物濃縮でアルミニウムは次第に濃度を上げながら、最後に人間の食物となって人体にとり込まれます。
アルミニウムは地中に、無限といっていい程存在する元素であることを考えれば、酸性雨は悲惨な健康障害を引き起こす危険性を大きくはらんでいるといっていいでしょう。
特に日本は隣国に、ハイスピードで工業化を進め、しかも公害規制が遅れている中国を持つことで、今後、旧西ドイツで起きているのと同様、酸性雨の影響が強く現われることが予想されます。
アルツハイマー病の予防と、
アルミを蓄積しやすい
要因
高齢、カルシウム代謝異常は、
アルミニウムを蓄積しやすい
今のところは、アルミニウ
ムを摂取する機会を日常から遠ざけることで、アルツハイマー病の予防につながるのですね。
湯本 アルツハイマー病の原因はアルミニウムだけではないと思います。
しかし仮に、アルツハイマー病の原因の1割だけがアルミニウムによって起るとしても、その人達はアルミニウムをとり込まない工夫によって、発病が予防出来るのです。
特にアルミニウムを蓄積し
やすい条件はありますか。
湯本 アルツハイマー病は遺伝による若年型(アルツハイマー病の10〜20%を占め、40〜50代で発病)を別にすると、やはり高齢が引き金になります。アルツハイマー型老年期痴呆症は65歳頃から増加し、80歳以上は5〜10人に1人の割合で発病する、高齢化社会では最も懸念される病気です。高齢になるにつれ、脳を始め体の各機能が衰えて、有害物質の排出も衰えがちになるからです。
高齢者の方は特に、アルミ食器やアルミニウムを含んだ薬の使用はやめるべきでしょう。
高齢の他には?
湯本 ミネラルバランスの異常、ホルモン(内分泌系)の異常などですね。
アルミニウムはカルシウムと似た性質を持つので、カルシウムの代謝異常があると、カルシウムの代りにアルミニウムが骨の中に入り込んで、骨軟化症や骨粗鬆症の原因となったり、症状を促進したりします。
また副甲状腺ホルモンが活発になると、骨の脱灰(骨からカルシウムがぬける)をもたらし、アルミニウムがカルシウムにとって変りやすくなります。
骨粗鬆症もまた、高齢化社会で増加が懸念されている病気ですが、骨折が原因で寝たきりとなって痴呆が引き起こされるケースも多いので、このことからも高齢の方は、アルミニウムの摂取にことさら注意して欲しいのです。
排泄経路は?
湯本 腎臓、肝臓が重要な役割を果していると思われ、尿や汗に排泄されます。ですから腎障害や肝障害も、アルミニウムを蓄積しやすくします。
湯本 アルツハイマー病の予防は今のところ、・アルミニウムの摂取に注意する、・体内のミネラルバランスを整える、・老化、成人病を防ぐライフスタイルを築くということになる
でしょう。
アルミ業界が出した
アルミニウム安全宣言
根拠のない
アルミ業界の毒性否定
今回、バイオPIXE学会
での発表が報道されたことで、アルミ業界の反応は素速く、早速、アルミニウムは安全である旨のパンフレットを出すなど、反駁におおわらわのようですが。
湯本 う〜ん、純粋に学問的研究に従事している者にとっては、有り難くない事態ですね。
だからといってここまで、人体におけるアルミニウム毒性、アルミニウム関与がはっきりした現在、それを黙殺するわけにはいきません。
業界が出した「アルミニウ
ムとアルツハイマー病の報道に関する見解」(表)は、殆どが論拠薄弱で何ら反論にもなっていませんが、ただ表中2、3の「高濃度の注射による動物実験で、現実性がない」という反論に対しては如何でしょうか。
湯本 軽金属協会では、アルミニウムを正常な人間の摂取量の2、000〜4、000倍も注射したといっていますが、これは全く根拠がありません。このように事実でないことを主張してアルミニウムの毒性を否定しています。
人間の一日当たりのアルミニウム摂取量は5〜10mgとされています。その平均をとれば7・5mgです。しかし、軽金属協会ではこの数字を低く見積もり、1日の摂取量を4・5mgとしています(表中3)。仮に4・5mgとしても、2000〜4000倍という話には到底なりません。
何故こんなデタラメな数値を出すのか、故意なのか、単に計算違いなのか全く、理解に苦しみます。
数式を書いて説明してみましょう。
今回の実験で、ラットに注射したアルミは、体重1kg当たり1日につき10mgです。
人間の体重を60kgとすると、10mgの60倍で600mgのアルミを注射したことになります。これは通常のアルミ摂取量1日当たり7・5mgの80倍(600mg÷7.5mg=80倍)であり、4・5mgとしても133・3倍(600mg÷4.5mg=133.3倍)の数字となります。
また、この注射を10日間毎日注射し、注射後50日後に実験をしたケースで考えると、ラットは合計60日間で100mgのアルミを注射したことになります。
これを体重60kgの人間に換算すると100mgの60倍で6、000mgの摂取量になります。この摂取量を、1日平均摂取量7・5mgとした時の60日間の総摂取量450mg(7.5mg×60日=450mg)と比べると、13・3倍(6000mg÷450mg=13.3倍)になります。同様の計算で、通常の1日摂取量を軽金属協会のあげている4・5mgとしても22・2倍に過ぎません。
それを2、000倍以上の膨大な量になるとか事実誤認の情報を流すのは、どう責任を取るつもりでしょう。
本誌は91年2月号(206
号)でも、90年末に発表なされた加速器質量分析での研究成果を報告しましたが、確かその時点でも、先生方の研究は、「少量のアルミニウムでも、短期間で脳に蓄積されることを証明した」との評価を受けておられましたね。
湯本 他にも、注射による動物実験という反論に対しては、アメリカでは人体実験で経口摂取されたアルミニウムが消化管から吸収され、血液に取り込まれたことが証明されています。(詳細は前号226号に掲載)
また、アルツハイマー病だけではなく、飲料水中のアルミニウム含有が高い地域に筋萎縮側索硬化症(紀伊半島、グァム島)、パーキンソン型痴呆症(グァム島)が有意に多いことからも、アルミニウムの人体関与、人体毒性はほぼ確実とされるのです。
水俣病を繰り返すな
湯本 アルミニウムは人体にこそ無用であれ、多くの長所により広範囲に利用されている金属です。業界は死活問題といっているようですが、食器への使用はわずか1割程度なのですから、アルミ業界も百年の計の視点で、人間の健康への危険性の認識を十分持って対処して欲しいと思います。
水俣病は、原因が工場廃液中の有機水銀にあることが濃厚に疑われていたにもかかわらず、決定的証拠がないということで被害を大きくしました。
状況証拠が十分あったにもかかわらず、原因を取り沙汰するうちに大きな被害を招いてしまった水俣病を、再び、繰り返してはならないのです。
高齢化社会を迎えて、また酸性雨の進行が懸念される今日、アルミ業界だけでなく、一般の方にもアルミニウムの毒性を十分に認識して欲しいと思います。
(インタビュー構成 本誌記者功刀)
★お詫びと訂正
前月号、加速器質量分析の説明中、10−16グラムのグラムが脱落していました。お詫びして訂正致します。