アルミニウムは、正常な脳にも入り込み、蓄積して、脳神経を破壊する

その1 アルツハイマー病のアルミ原因説に有力な証拠

東京大学医学部解剖学教室(医学博士)湯本昌先生に聞く

アルツハイマー病と アルミ原因説

 未だ、アルツハイマー病は原因不明、治療法不明とされているが、アルツハイマー病患者の脳に高濃度のアルミニウムが蓄積しているのが証明されて以来、アルミニウムはアルツハイマー病の一因ではないかという報告が各国、複数の研究者によって提示されている。
 しかし一方で、患者の脳内アルミニウム蓄積はアルツハイマー病の原因ではなく、アルツハイマー病の結果に過ぎない、という否定説も根強く主張されており、アルミニウム原因説は確定していなかった。
 1990年以来、東京大学医学部の湯本昌助手、東大原子力研究所総合センターの小林紘一助教授、東大宇宙線研究所の大橋英雄助手、東北大学サイクロトロンセンター石井慶造助教授らによって、"アルミニウムのアルツハイマー病及び筋萎縮側索硬化症への関与”に関するプロジェクト研究が続けられ、動物実験によって体内のアルミニウムは正常な脳にも取り込まれ、蓄積し、脳の神経細胞に障害を起こすことを証明した。
 この研究から、湯本先生は、「アルミニウムは、アルツハイマー病の一つの原因と考えられ、アルミニウムを体内に取り込まない工夫はアルツハイマー病の予防につながる」と結論した。
 この研究結果は今年7月、バイオPIXE国際学会で発表されたが、報道と同時に反響は大きく、アルミ業界では早速、反論のパンフレットを配布するなど打ち消しに躍起となっている。
 この渦中にある湯本先生に、今回の研究についてお伺いした。
※アルツハイマー病
 広範囲に大脳の神経細胞が破壊され(図1)、記憶喪失に始まり最後には人格崩壊に至る。加齢と共に増え、高齢化社会でこれから増加が懸念される。
※アルミニウム(AI)
 周期率表第B族に属する金属元素。原子番号13、原子量26・98。
 粘土など複雑な化合物となって地球に広く多量に存在し、地殻中の金属では重量比8%と第1位。地殻中の元素では酸素、ケイ素に次いで第3位を占める。
 主な原鉱石は水酸化アルミニウムを主体とするボーキサイトで、鉄、ケイ素、チタンなどを含有する。このように地殻中のアルミニウムは他の元素と結びついた化合物の状態にあり、溶解は困難で、溶解していないアルミニウムは毒性を発揮しない。しかし酸には溶けやすく、酸性雨で、地中のアルミニウム溶解による環境汚染が心配されている。
 アルミニウムは、分離・抽出が困難であったが、19世紀末、電解精練法の発明により実用が可能になった。
 以来、軽量、加工性、耐蝕性、熱伝導率、美観など多くの長所により、現代生活のあらゆる分野(航空機材、自動車材、船舶材、建築材、食器材、薬材など)に応用され、現在、生産量、使用量は、鉄鋼に次いで第2位である。
※筋萎縮性側索硬化症(ALS)
江戸時代から「足萎え病」と呼ばれ、1960年代頃まで、紀伊半島南部古座川沿いに集団的に発生した風土病。
 運動神経細胞の死滅により、筋肉の萎縮と運動失調を起こす。
 透析痴呆の原因が明らかになった1970〜80年代、研究が進められ、患者の脊髄や脳に正常の2〜10倍という高濃度のアルミニウム蓄積が証明され、それと同時にやはり地域の飲料水(湧き水、井戸水)中から高濃度のアルミニウムが検出され、上水道の整備によって急激に減少した。
 グァム島などにも飲料水中のAl濃度が高い地域に、似た風土病がみられ、これは痴呆症が併発する。

無用・無害の金属から 有害金属へ
毒性解明のきっかけとなった 透析脳症

調理器、食器に盛んに用い
られているアルミニウムは、安全な金属といわれていましたが…。
湯本 まずアルミニウムは、人体には無用な元素であるという話しから始めましょう。
 原始、生命(原始細胞)は海から生れ、海の元素で生物は構成されました。その原始の海にはアルミが全く溶解していなかった(現在も殆ど溶けていない)ため、アルミニウムは生物の生理作用に関与せず、人体にとっても役に立つ働きはないと考えられています。
 一方でアルミニウムは、人体に、無用である共に無害ともされて来ました。安全な上に、丈夫で軽く、錆びにくいなどの特性から、体内摂取の可能性のある調理食器、医療機器などにも多用されるようになったわけです。
 有害性がはっきりしたのは、ごく最近のことです。1970年代、人工透析による腎不全の療法が開始された頃に、特定の病院で、透析を続けた患者さんに痴呆症が現われことがきっかけになっています。
いわゆる「透析脳症」ですね。
湯本 透析痴呆症とも呼ばれ、アルツハイマー型痴呆とよく似た痴呆症状を呈します。最期には痙攣発作などを起こして死に至るのですが、死体解剖で、患者の脳には大量のアルミニウムが蓄積されていることがわかりました。
 さらに、痴呆症が発生した病院の透析液に多量のアルミが検出され、透析液へのアルミの使用をやめたところ、発病はストップしました。
 透析液中のアルミニウムは、主に透析液に使われる水の浄化に硫酸アルミニウムが使用されていたためですが、他に、電解質のバランスをとるため(特にリン酸に対して)にアルミニウムイオンが用いられた、装置の一部分にアルミ金属が使用されていた等の理由によります。
 この透析痴呆症がきっかけで、溶出したアルミニウムの神経毒性が判明したのですが、透析痴呆は腎臓機能低下で尿中にアルミニウムがスムースに排泄されない病人に、多量のアルミニウムを長期間与えた特殊なケースと解釈されました。

アルツハイマー病の アルミニウム関与は、 原因か、結果か
鍵となる脳血液関門

それでも透析痴呆症がきっ
かけとなって、アルツハイマー病患者の脳内アルミ蓄積が調べらたのですね。
湯本 各国の研究者によって、アルツハイマー病患者の脳中アルミ濃度が調べられた結果、健康者に比べ、アルツハイマー病患者の脳には高濃度のアルミニウムが蓄積されていることがわかったのです。
 また、アルミニウムを脳に注射された動物の脳には、アルツハイマー病の病理所見によく似た「神経原線維変化」がみられました。
 さらにヨーロッパでは、英国、フランス、ノルウェーで、水道水中のアルミニウム濃度が高い地域に、アルツハイマー病が多発するという疫学調査結果が報告されています。英国では低い地域(0・01ppm)に対し、高い地域(0・11ppm)の発病率は1・5倍と報告されました。
それにもかかわらず、アル
ミ原因説が確定しないのは、何故ですか。
湯本 アルミ否定論では、アルツハイマー病のアルミ蓄積は原因ではなく、病気によってもたらされた結果だと主張されています。
 脳には「脳血液関門」という脳に、必要なものは取り込み、不必要、有害なものは排除する関所のような仕組みがあります。
 広範囲に脳細胞が死滅していくアルツハイマー病では、このチェック機能が破壊され、その結果、アルミニウムが大量に脳に取り込まれたというのが否定論の主な論拠です。

正常な脳でも、 アルミニウムは 脳血液関門を通過して 脳に蓄積する
アルミニウム蓄積を実証した 加速器質量分析法

湯本 しかし水俣病でも、水銀は脳の関所を通り抜け、患者の脳には高濃度の水銀が蓄積されました。
 私達は1990年、プロジェクトを組み、アルミニウムは健康な個体でも、a脳血液関門を通過して脳に入りこむか、b入り込んだアルミは脳に蓄積するか、cさらにそれは神経細胞を障害するかということを確認する目的で実験を始めました。
加速器質量分析法による実
験で、健康な脳へのアルミニウム蓄積が始めて証明されたのですね。
湯本 水俣病では、放射性同位元素を巧みに応用した放射能のトレーサー(指標、目印)実験(放射線を測定する方法でトレーサーを追跡する)で、メチル水銀に関する動物実験が行われ、これによって最終的に因果関係が決定づけられました。
 しかしアルミの場合は、放射能を測定するトレーサーとして適当な放射性同位元素がないため、通常の放射能測定法ではトレーサーの追跡が不可能で、それまで、アルミのトレーサー実験は成功しておらず、研究の発展は著しく妨げられていたのです。
湯本 私達は、動物実験の目印(トレーサー)を、放射性同位元素Al26(アルミニウム26、記号は Al)に定めました。天然に存在するアルミニウムの殆どは安定同位元素のAl27であるのに対し、Al26は天然には存在せず、また生物にも含まれていないため、Al26を目印にすれば、脳に新たに、アルミニウムが取り込まれたかがわかるからです。
 しかし、Al26は半減期72万年という長い寿命のため(残りのアルミニウム放射性同位元素、Al24、Al25、Al28、Al29、Al30は、半減期が秒、分単位で短か過ぎるため)放射能測定は困難であり、通常の測定方法ではトレーサーとしてAl26を使用できません。
 これをクリアしたのが、加速器質量分析法の開発です。この分析法によって、Al26の長寿命を生かし、質量の差を利用して、放射性同位元素の量そのものを計ることが出来たのです。
実験の結果は?     
湯本 実験は、ラットの腹腔にごく微量のAl26を加えた塩化アルミニウム2・75mgの水溶液を注射してから、5日目ごとに、脳中のアルミニウム量を測定しました。
 その結果、5日目にはアルミがかなり取り込まれており、その後35日まで蓄積量は増加傾向を示し(図2)、全体として脳に入ったアルミの量は、注射した量の10万分の2に当る0・05μgが測定されました。
 通常、正常なラットの脳には平均0・3μgのアルミが含まれているので、1回の注射で約16%の量が増加したことになります。
正常な脳でも、アルミは脳
血液関門を通過して、脳に入り込み、蓄えられたわけですね。
湯本 大脳におけるアルミ濃度が、注射によって5〜35日のゆるやかな増加を示した事実は、「腹腔内に注入されたアルミニウムが脳に蓄積されたこと」を示し、「アルツハイマー病及び筋萎縮側索硬化症が、中枢神経におけるアルミニウムの不可逆的蓄積よって引き起こされる」という理論を支持します。
 その後の研究でアルミニウム蓄積は、さらに75日まで認められました。注射後75日でさえ持続するので、一旦、脳に蓄えられたアルミニウムは減ることはなく、蓄えられる一方であることがわかります(不可逆的蓄積)。(図3)
※放射性同位元素(ラジオアイソトープ)
 放射能を持つ同位元素で、不安定な粒子である。
※同位元素
 同じ元素番号を持つが、原子質量が異なる元素。化学的性質は殆ど同じであるが、物理的性質は異なる。
 原子核反応によって、人工的に種々の同位元素を作り出すことが出来る。これら人工の同位元素は主に、放射能を持つ放射性同位元素である。
※半減期
 放射性元素が放射線を放射して、より安定的な原子核へ変化する際に、崩壊していく親の核の数が半分になるまでに要する時間。
※加速器質量分析法
 イオン化した原子が磁場の中を通る場合、その原子の重さ、電荷の違いによって違うカーブを描く。この原理を応用して、原子の種類やその量を調べるのが質量分析である。
 イオン化した原子を高速にしてやると、ごく微量の試料でも分析できるため、東大の研究チームは、質量分析器と加速器(タンデム加速器)を組合せることで、Al26を10(1マイクログラムの100億分の1)まで測定するのに成功した。

アルミニウムの蓄積で、 神経細胞が破壊、損傷
バイオPIXE(ピクシー) 国際学会での報告

さらに、アルミニウムの蓄
積によって神経障害がもたらされたことが、今回のバイオPIXE国際学会で発表されましたね。
湯本 アルミニウムの蓄積がアルツハイマー病の原因になることを調査するために、注射2ヵ月後に、
a脳と脳細胞の核への取り込みをPIXE法―イオン照射X線分析法を応用して、
b脳細胞の形態的変化は、電子顕微鏡、光学顕微鏡を用いて調べました。
 その結果、脳へのアルミニウム蓄積が、神経細胞にアルツハイマー病の患者の脳にみられるのと同じような重大な病理学的ダメージを引き起こすことが示されたのです。
aの実験では、アルミ投与ラットは投与していないラットに比べ、神経細胞の樹状突起や樹状突起についているシナプス(他の脳細胞と信号のやりとりをする重要な部分。これが失われると細胞は生きていても思考などの機能が損われる)の数が著しく減少しているのが確認されました。
bの実験では、アルツハイマー病特有の神経原線維変化によく似た細胞が、光学顕微鏡で観察され、さらに神経細胞を電子顕微鏡で観察すると、細胞質に異常な繊維構造が認められたのです。(図4)
アルミニウムの、脳への蓄
積及び神経障害は、何によってもたらされるのですか。
湯本 90年に私達が行った実験から半年後、アメリカでは、ボランティアによる経口摂取の人体実験が行われました。
 その結果、口から入ったアルミニウムはかなりの量(約1%)が消化管から吸収され、血中に入りました。そして血液中では、アルミニウムの大部分がトランスフェリンという鉄を運ぶタンパクと結合しているのがわかりました。
 脳というのは、細胞の呼吸機能を維持するために、大量の鉄を必要としています。また、脳の毛細血管には、トランスフェリンを選択的に取り込むためのリセプター(受容体)が多数存在しています。しかもこのリセプターは、アルツハイマー病の病変が多発する大脳の、側頭葉や海馬の毛細血管に多いのです。
 このことから、アルミニウムはトランスフェリンと結びついて、脳に入り込み、タンパク質などの合成を妨げる等の有害な作用をするのではないかと推測されます。
(来月号につづく)

編集部より

 溶出アルミニウムの毒性一般、アルミニウムの体内摂取経路、アルミ食器及び酸性雨などによるアルミニウム溶出の問題点、アルツハイマー病の予防、アルミ業界の反論については、来月号に掲載。
(インタビュー構成 本誌記者功刀)