抗ガン剤の副作用緩和とガン転移阻止は、総合微量栄養素サプリメント中のセレニウムが作用か

大妻女子大学(理学博士)寺井稔先生に聞く

 半金属原子セレニウム(セレンとも呼ばれる)は、活性酸素の消去酵素の一つ「グルタチオンペルオキシダーゼ(GSHPx)」の主要な構成分子でその機能活性に中心的に働き、生体で抗酸化因子としてビタミンEとともに脂質の過酸化による細胞膜の障害を防止する重要な働きをしている。
 かつては有害ミネラルとされていたが、近年、低セレニウム状態がガンをはじめとするいくつかの疾病の発症に関与することが示され、また中国の風土病「克山病」などの原因もセレニウム不足にあることも分かり、生体にとって必須のミネラルであることが徐々に明らかになって来た。
 セレニウムは、酵素系に必須であるばかりでなく、金属イオン自身も酸化還元作用に関与し、生理活性としては抗炎症性、免疫促進効果、制ガン性、抗有毒金属作用などが認められている。
 寺井先生は、セレニウムの抗炎症性、制ガン性に着目し、抗ガン剤副作用と転移に悩む卵巣嚢腫患者にセレニウムを多く含むマルチミネラル・ビタミンのサプリメント(総合微量栄養補助食品)の摂取を試みたところ、抗ガン剤による副作用は軽減し、転移も阻止される結果を得た。
 今年5月、スウェーデンのストックホルムで開催された国際微量元素学会ではその成果が発表され、論議を呼んだという。
 今回、寺井先生にその報告を兼ねて、セレニウムについてお話を伺った。
※克山病
 1935年、中国黒竜江省克山県で最初に発見された。中国東北部から西南部チベットにかけてのベルト地帯に多くみられた風土病。心臓筋肉の変性である心筋症が主な症状で、心臓不全で死亡する率が高い。
 セレニウムを経口投与したところ発生が0に近くなったところから、セレニウム欠乏症とされている。
※マルチビタミン・ミネラルサプリメント(総合ビタミン・ミネラル栄養補助食品)

有毒ミネラルから 必須ミネラルへ
―セレニウムの生理活性―

──セレニウムが必須元素であるといわれ始めたのはごく最近と聞きますが。
寺井 土壌中のセレニウム(セレン)が高い地域の家畜に呼吸困難、麻痺、毛や蹄の脱落などの異常がみられること、人間でも過剰摂取すると中毒症状を発現することなどから、セレニウムは有毒な元素として知られていました。
 しかし1950年代あたりから、"土壌中のセレニウムが低い地域でのガン発症率が高い”という疫学調査が報告され、また克山病など原因不明の風土病がセレニウム欠乏症とほぼ判明されたこと、さらに1970年代に入って、グルタチオンペルオキシダーゼの重要な構成成分であることが証明されたことでその必須性が明らかになってきました。
 今、大変注目されている微量元素で、今回のスウェーデンの学会でもカドミウムとともに多く報告されました。
──最近では徐々に一般にも、ビタミンEとともに老化予防、ガン予防の栄養素として知られ始めてきたようですが…。
寺井 抗酸化因子としてのセレニウムは、ビタミンE欠乏症のラットにビタミンEとともにセレニウムが有効であったことから、ビタミンE同様の働きがあることが示唆されるようになったようです。決定的なのは活性酸素消去酵素のグルタチオンペルオキシダーゼの中核として働くことが分かったことによると思われます。
──水銀などの有害金属の毒性も軽減するそうですね。
寺井 遠洋漁業の漁師さん達は毛髪分析などから異常に高濃度の水銀が検出されていますが、中毒症状はみられません。これはどういうことかと検討された結果、天然のマグロには水銀も多いがセレニウムも多いので、それで水銀の毒性が軽減されているらしいと推測されています。
 また、いくつかの動物実験でも、セレニウムによる水銀毒性の軽減が認められています。

セレニウムの摂取で、 抗ガン剤の副作用軽減と 転移阻止
―国際微量元素学会の報告―

──セレニウムを含むサプリメントの摂取が、卵巣嚢腫の患者さんに有効だったとのことですが。
寺井 実は悪性卵巣嚢腫の患者さんの家族から相談されましてね。その時の患者さんの状態というのは、嚢腫は手術で取った後できれいでしたが、左リンパ腺は鶏卵大、肝臓にも転移が認められ、そのままだと半年という状態でした。
 そこで私は、セレニウムのガンへの有効性をお医者さんから聞き及んでいましたので、病院の治療(抗ガン剤投与)と並行してセレニウムを含む総合ビタミン・ミネラルタイプのサプリメント、朝夕2錠づつの摂取をすすめたのです。6錠中200μg含まれていますので、1日の摂取量は約130μgとなります。
 その結果、まず抗ガン剤による吐き気や脱毛が非常に軽減しました。担当医はセレニウムの摂取を知らなかったので、体質に(抗ガン剤が)あっているのかなと首をかしげていました。
 それから1年半摂取し続けたところ、転移していたリンパ腺や肝臓の腫ヨウが消えてしまったのです。毛髪もその頃には用意したカツラが不要になりました。同時に抗ガン剤を投与されていた他の患者さん達は殆ど脱毛してしまいましたね。
 さらに白血球数も普通ですと1000以下になるのに、1、500位を保ち、これもセレニウムの作用ではないかと推測されます。
──セレニウムのどういう作用で、抗ガン剤の副作用が軽減されたのですか。
寺井 先程の話にも出たセレニウムの水銀毒性軽減作用ですが、そこから、セレニウムは白金を含む抗ガン剤シスプラチンの毒性(非常に強い)にも有効ではないかと動物実験され、ガンに対しての有効性が認められています。このことと関連するかもしれません。
 また、これは私の仮説なのですが、どうもセレニウムには"新陳代謝を高める成分の働きを増強させる働き”があるのではないか、副作用軽減は主にこの働きが作用しているのではないか、と患者さんを見ていて思われるのですね。動物実験もしていませんので、推測に過ぎませんが…。
──転移ガンが消えたのもセレニウムが関与しているのですか。
寺井 抗ガン剤の効果とともにやはりセレニウムの抗ガン的な働きが関与していると推測されます。相乗作用があったのではないでしょうか。
──サプリメントは総合タイプを用いられたとのことですが、主にサプリメント中のセレニウムが有効であったと考えてよろしいのですか。
寺井 実はストックホルムの学会でも、そこが論議されましてね。総合タイプのサプリメントなのでビタミンEなど他の抗酸化的に働く物質も含まれているので、その作用ではないかと指摘されました。
 セレニウム自体の投与は危険性もあり、総合タイプの栄養補助食品、特にセレニウムを多く含むものの摂取をすすめたのですが(動物実験では無機の亜セレン酸でも有効性が認められています)、確かに今回のケースはセレニウム自身の働きだけと断言することは出来ません。
 しかし、サプリメント中のセレニウム含有量がかなり多いこと、またセレニウムはビタミンEとの併用で働きが相乗されることが報告されているので、私達はセレニウムの作用が大ではないかと考えています。
 それからもう一人、やはり卵巣嚢腫でサプリメントを摂取した患者さんがいたのですが、その方はセレニウムには腎性毒性があるというので半年位で摂取を止めてしまって、今、調子があまりよくないと聞いています。
──ストックホルムで報告された患者さんは、今どうなされていますか。
寺井 発症から5年経ちまして転移もなく、完治に近いと思われます。
 時々点滴しているらしいのですが、今はサプリメントはその時だけ摂取しているようです。

セレニウムの摂取源と摂取量
セレニウムの摂取は、 不足、過剰ともに要注意

──セレニウムは日常の食生活で不足しがちのミネラルと聞きますが。
寺井 日本人の1日のセレニウム摂取量は100〜150μgと試算されており(関西医大、京大の共同研究)、1日の目標摂取量はまだ定められていませんが、おおよそ50〜100μgといわれています。米国では成人、1日50〜200μgが十分かつ安全な量と示されているそうです。
 セレニウムは飲料水からも摂取されますが、主な摂取源は食品で、内臓(特に腎臓)、魚介類、無精白穀類(特に小麦)、大豆などに多く、日本の土壌中セレニウム含有は比較的豊富で、伝統食では不足の心配はないといわれています。しかし外食や加工食品、輸入食品に偏りがちな現代では、不足の心配も予想されますね。
 また、セレニウムは不足も問題ですが、無機のセレニウムは少量で毒性を発揮するので、摂り過ぎにも十分、注意が必要なミネラルです。
 サプリメントなどで摂る場合、ビタミンEの併用がセレニウムの毒性を緩和することが分かっています。カドミウムの話でも申しましたが、何によらず栄養、特に微量栄養素は種類、量とも過不足なく摂取することが重要です。
――前回お話し戴いた「カドミウムと骨粗鬆症」は大変好評でした。今回も貴重なお話、ありがとうございました。
※魚介類
 ワカサギ、ニシン(燻製)、ハマグリ、帆立貝、伊勢エビ、小エビ、タラバ蟹、カキ、タラに多い。
※穀類
 小麦胚芽、小麦ふすま、小麦肉質部(精白小麦)、大麦、燕麦、玄米に多い。
※サプリメントによる摂取量
 サプリメントのセレニウムは食品(イースト、酵母など)から抽出されているが、治療目的でない限り1日100〜250μg前後に抑えるべきだといわれている。ガンになるリスクが低い人は、当然低値に抑えるべきである。
*文中の※説明は編集部による。
(インタビュー構成・本誌功刀)