高年齢の骨粗鬆症患者の骨中に、高濃度のカドミウム!!

骨粗鬆症へのカドミウム関与

寺井稔(理学博士)・大妻女子大学教授に聞く

カドミウム汚染と骨障害

 カドミウム汚染による骨障害というと、日本では、富山県神通川流域の「イタイイタイ病」が知られている。
 「イタイイタイ病」は、富山県神岡鉱山から神通川に流出したカドミウムが、米などの農作物、魚、井戸水を汚染。それらの摂取により、体内にカドミウムが吸収、蓄積されたことが原因とされている。更年期の女性に多くあらわれ、腰、股関節、脚の骨から痛み始め、全身に広がり、触っただけでも簡単に骨折する程、骨がもろくなる。昭和43(1968)年、厚生省は「イタイイタイ病の本態は、カドミウムの慢性中毒によりまず肝臓障害を生じ、ついで骨軟化症をきたし、これに妊娠、内分泌の変調、老化、および栄養としてのカルシウムなどの
不足などが誘因となって、イタイイタイ病という疾患を形成したものである」と発表した。
 寺井稔先生は水俣病の研究に携わったのがきっかけで、以来、広範囲に「微量元素と健康との関連」の研究に取り組むことになる。
 「骨粗鬆症とカドミウムの関連」については、骨粗鬆症患者の骨中微量元素について調べる過程で、高年齢患者の骨中カドミウム含有量が異常に高いことを発見、それに着目したことから研究が始まった。
 合成ハイドロオキシアパタイト(水酸化燐灰石―骨の基本的成分)を使った実験では、"カドミウムが比較的簡単に骨中に入る”ともに、"骨中の高濃度カドミウムも骨粗鬆症の原因になる”可能性が提示された。
 大規模な公害は姿を消したが、大気や土壌は工場煤煙、車の排気ガス、タバコの煙に含まれるカドミウム、また工場廃水、廃棄された電池や家電などから溶け出したカドミウムで、なお、汚染されている。
 近年、高齢化社会にともなう骨粗鬆症の増加と共に、栄養のアンバランスによる若年性の骨粗鬆症及び骨粗鬆症予備軍も増えているが、"骨がスカスカになるとカドミウムが入りやすくなる”という寺井先生の研究は、カドミウム汚染による骨粗鬆症へのダブルパンチも示唆する。
 取材を終えて、現代人の毛髪分析の必要性を改めて感じた。

骨粗鬆症患者の骨に、 高濃度のカドミウム

――一般の骨粗鬆症患者の骨に、カドミウム(以下Cd)が多く検出されたとのことですが…。
寺井 公害被害でなく、普通の人の骨にもCdがたくさん存在する。
 このことは、或る病院との共同研究で、骨粗鬆症患者の骨中微量元素を調べたことがきっかけで分かりました。
 私の分析した骨粗鬆症患者の骨中Cd濃度は100ppm前後、少ない人でも30ppmと、そうでない人に比べて異常に高いものだったのです。これは公害病、職業病ではないかと、職歴などを調べてみると、その関連性はない。
 では、なぜ骨粗鬆症の骨にCdが多量に入るのか、まずは骨の中へCdが入る仕組みを調べようということになったのです。

骨中へカドミウムが 入る仕組み
―類似するカルシウムと カドミウム―

寺井 カルシウム(以下Ca)とCdは、イオン半径の大きさがCaは0・099ナノメーター(nm)、Cdは0・097ナノメーター(nm)、原子価は両者とも+2荷と非常に似ています。(表1)
 となると、その行動も似ているのではないか。
 骨中のCaは絶えず新陳代謝して、正常な状態であれば、古いCaが抜け、そこに新しいCaが入って数ヵ月で入れ替わるようになっています。
 ところが骨粗鬆症では老化やCa摂取不足などで、Caがどんどん抜けていく一方、新しいCaは入って来ない。
 このようにCaが不足して来ると、Caの欠損部分に、体内に少量存在し、イオン半径や原子価がCaとほぼ同じCdが、Caの代りに骨に入りこんでしまうのではないか。こうなると、Cdは骨のCa代謝には乗れないために骨にどんどん入りこみ、その結果、高濃度に蓄積されるのではないか――という仮説を考えたのです。
――合成ハイドロオキシアパタイトを使った実験で、その仮説を立証なさったのですね。
寺井 ハイドロオキシアパタイトは骨の主成分で、構造はCa10(PCO4)OHとなっています。実験ではこのハイドロオキシアパタイトを合成し、その中へCdなどの重金属が入るかどうかを検討しました。
 実験は、
aまず、常温で原料物質以外の微量元素、Cd、Cu(銅)、Mn(マンガン)、Zn(亜鉛)などを共存させて、ハイドロオキシアパタイト(以下アパタイトまたはHA)を合成します。
b次に、合成されたアパタイトの中に、共存させた元素が入っているかを調べました。
 その結果、表2に見られるように、他の微量元素に比べ、Cdは圧倒的に多く合成アパタイトに入ることが分かったのです。

骨粗鬆症へのCd関与

――骨粗鬆症になるとCdが骨に入りやすいことは分かりましたが、Cdが骨に蓄積されることで骨粗鬆症の原因になったり、症状が促進されたりもするのですか。
寺井 合成アパタイトの見本からも分かる通り、見かけは同じようでも、正常な合成アパタイトは粘性、弾力性があって柔らかく、Cdが入った合成アパタイトは固くて脆いのです。Cdが高濃度に入った骨が脆くなることは確かですね。こういう骨では、簡単に骨折しやすくなる危険性があります。またCdは、自然の食物からも少しづつ摂取されるので、数十年という長期に亘っては、健康な人の骨にもCdが蓄積されることが予想され、Cdの蓄積が骨粗鬆症の誘因の一つとなる可能性もあります。
――Cdは、普通の環境でも、結構、体内に摂取、蓄積されるのですか?
寺井 特に汚染されていなくとも、作物や魚介類などにはCdが微量ながら含まれています。
 食べ物からごく少量入るものは、健康な人では大小便などに排泄されるのでそんなに心配しなくてもいいのですが、体内のミネラルバランス、特にカルシウム代謝に異常のある人は要注意ですね。
 体外排出にはキーレイト療法などがありますが、まずは食生活でミネラルのバランスをとることが重要です。
――Cdは必須微量元素の可能性もあると聞きますが…。
寺井 ドイツのマンフレート・アンケ博士は「Cdも全くないと筋無力症に似た症状をきたす」と報告しています。この場合、原因は神経障害ではなく、骨障害ということです。
 私の実験でも、Cdの共存量によって合成されたアパタイトの硬度に違いがみられること、また、共存量の割合で収率に差が見られるなど、その可能性は無きにしも有らずというところですね。

骨粗鬆症の予防と 微量栄養素の重要性

――Cdの他にも、骨粗鬆症と関係する微量元素はありますか?
寺井 骨の主元素はアパタイトの構造式Ca(PO)OHから分かるように、カルシウムとリン(P)ですが、微量元素ではマンガン、亜鉛なども必須とされています。
 私が関係した腸摘出児の症例では、マンガンの投与で骨の形成が著しく促進されました。
 また、リンに関しては面白い仮説を持っています。無重力状態の宇宙飛行士に骨量減少が起こることはよく知られていますが、主な原因は無重力と運動不足と言われています。しかし、私は精神的ストレスも大きく関係しているのではないかと睨んでいるんですよ。
 ストレスがかかると尿中にはCaと共にPも多量に排泄されます。そして、骨からCaやPが奪われると、尿中にはCaやPが多量に排泄されることが分かっています。
 ストレスがかかると大量のエネルギーが消費されるのでエネルギーの代謝は活発になります。この時、大量のリン酸が消費されるためにP不足が起き、骨からPが奪われる。この脱リン現象が骨量減少の一因となるのではないかと考えられるのです。
――そうすると、骨粗鬆症の予防には、精神を鍛えることも重要ですね。
寺井 そう思いますね。年を取るとやたら怒りっぽくなりますが、骨粗鬆症と無関係ではないと思います。カルシウムが不足することで精神的ストレスが強くなりますし、怒りっぽくなることで骨粗鬆症を促進するという悪循環に陥ることが予想されますね。
――最後に、先生は微量元素と健康との関連を長い間研究されているとのことですが、栄養素としての微量元素についてコメントを。
寺井 微量元素は、過剰でも不足でも健康に大きな影響を与えます。特に現代では加工食品や外食など食生活が乱れがちで、微量栄養素の不足が心配されています。(表3)
 栄養素のバランスをとることは、健康維持に非常に重要です。厚生省のすすめているように、1日30種以上の食品を摂り、特に微量栄養素が豊富な野菜、海藻を必ず食事に加えることが必要と思います。
――貴重なお話、有難うございました。
(インタビュー構成・本誌記者功刀)