紫外線の活性酸素毒性緩和に、亜鉛が関与か

―国立環境研究所と共立薬科大学による共同研究―

小林静子(医学博士)・共立薬科大学助教授に聞く

身の回りにあふれる 活性酸素生成の要因と、解毒に働く物質

 空気中の安定した酸素分子と比較すると、活性酸素は電子を余計に持っており、不安定で攻撃的に(フリーラジカル)に働く。チャンスがあれば、すぐに細胞の脂肪膜にとりついて、細胞膜などを過酸化脂質化させてしまう。その結果、遺伝子や血管を傷つけ、ガンや動脈硬化など起こし、成人病の大きな要因となる。
 この活性酸素は紫外線、有害金属(カドミウム、水銀etc)、有害食品添加物(過酸化水素、防カビ剤OPP、酸化防止剤BHA、小麦粉改良剤臭酸カリウムなどが代表的)、塩素、過酸化脂質化された食べ物、タバコ、また激しい運動、心理的ストレスなどでも生成され、このように、現代社会は活性酸素を生み出す要因にあふれている。
 活性酸素の毒性から身を守るために、生体内では活性酸素の働きを防御し、処理するための酵素活動が行われ、SOD、グルタチオンパーオキシダーゼ、カタラーゼなどの酵素が核に微量金属を抱いて、活性酸素を抑えるのに働く。核になる微量金属の代表的なものには、亜鉛、銅、マンガン、鉄、セレニウムがあげられる。
 酵素の他、ペプチド(アミノ酸の結合したもの)の一つグルタチオン、栄養素では抗酸化の働きをするビタミンのA(ベータカロチンを含む)、C、E、Bなども活性酸素の働きを抑制し、また、細胞内でつくられる蛋白質の一種メタロチオネインなども活性酸素を解毒する働きをする。

紫外線量の増大で心配される疾病
―二大疾患は、 皮膚ガンと白内障―

 フロンガスの使用にともなうオゾン層破壊で、紫外線量が増え、紫外線の害がにわかに問題になっているが、紫外線の毒性は、生体内で活性酸素を生成し、皮膚や水晶体などの細胞膜を破壊し、主に、皮膚ガンや白内障を起こすことで知られている。
 紫外線はメラニン色素によって防御されるので、皮膚ガンは日本人には比較的少ない疾病であったが、増大する紫外線量や、食生活を始めとするガン化を促進するもろもろの要因が重なる現代生活で、今後、日本人にも増えることが懸念されている。
 また、老化にともなう白内障は、活性酸素による細胞の病変が、長年、蓄積されることで起こる。水晶体は、新陳代謝が殆どないため、紫外線を浴び続けることで、白内障は徐々に進行していく。

紫外線の フリーラジカル活動を 抑える 蛋白質・ メタロチオネインと 亜鉛
国立環境研究所と 共立薬科大学の共同研究

 今年二月、国立環境研究所は「栄養素としての亜鉛に、紫外線の害を緩和する働きがあることが動物実験でわかった」という報告を環境庁に提出した。国立環境研究所のこの実験結果は、微量栄養素としての「亜鉛」の効果的な使用で、紫外線による健康被害を防げる可能性を提示している。
 紫外線UVB(中波長紫外線。短時間で急性反応し、表皮の細胞を殺してしまう)への生体防御としては、ビタミンC、E(Cより効果が高い)、SOD、カタラーゼの他に、グルタチオン、及びその関連酵素、ならびに、細胞内で誘導合成される蛋白質の一種メタロチオネインが関与していることが、予想されていた。
 メタロチオネインは、生体内でカドミウムや水銀など有害金属と結合して生体に悪影響を出させないようにする働き、及び、活性酸素を除去する働きで知られている。このメタロチオネインは、遺伝子情報に基づき、必要に応じて生体内で作られるのだが、亜鉛によって誘導合成されることも分かっている。
 国立環境研究所(遠山千春・環境保健部主任研究員)、及び共立薬科大学(小林静子・共立薬科大学助教授)などによる共同研究グループは、ヘアレスマウスに紫外線を照射し、グルタチオンの低下、細胞に含まれる脂質の過酸化、炎症による皮膚重量の増加などを調べた。
 1平方メートル当り12キロジュールの紫外線をマウス背部皮膚に照射した場合、亜鉛を腹腔に注射投与したマウスの細胞内では、過酸化脂質は通常の50%未満しか増えず、メタロチオネインは殆ど減少せず、グルタチオンの低下、皮膚重量の増加も阻止された。反対に、亜鉛未投与のマウスでは、過酸化脂質が通常の3倍も増えていた。
 遠山千春研究員は「亜鉛がメタロチオネインの減少を食い止め、その結果、紫外線の有毒性が緩和された」と推測している。
 一方、共同研究者の小林静子・共立薬科大学助教授は、さらに亜鉛を飲用させたマウスに紫外線照射したところ、亜鉛は肝臓内に留まり、皮下には蓄えられなかった。また、紫外線の強度を弱めて長期に観察する必要もあり、「亜鉛の栄養的効果については、今の段階でははっきりしていない。今後は、亜鉛をマウスの皮膚に塗布して紫外線照射の実験を試みたい」と語っている。
※人間が地上で受ける量の約150〜225倍
※体重1キロに対し10mg。栄養素としての亜鉛摂取量は、目標値1日10g(厚生省の定める日本人の栄養所要量より)
*以上、小林助教授の取材に基づい
 て内容を構成しました。
(取材構成 本誌記者・功刀)
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栄養素としての 亜鉛の必須性

 生体内での過酸化脂質化は、ガン、白内障、動脈硬化など多くの成人病の重大な要因となっている。
 亜鉛は生体内で細胞の過酸化脂質化を抑制するメタロチオネインの合成、抗酸化酵素SOD(酵素)の活性、免疫システム(不足すると胸腺が萎縮し、Tリンパ球不足をもたらす)に必須のミネラルであり、最近、最も注目されているミネラルの一つである。
 亜鉛の目標摂取量は、米国では15mg、日本の厚生省では10mgとされているが、現代型の食生活では、潜在的亜鉛欠乏症が心配されている。亜鉛は穀類、種子類、大豆、魚介類、海草類に多く、日常の食卓からこれらは駆逐されつつあることと、また蔓延する食品添加物(ポリ燐酸、フィチン酸)によって生体内での利用が妨げられるからだ。
 皮膚ガンの亜鉛効果は研究が続行中で、まだはっきりとしたことはいえない。
 しかし、亜鉛の欠乏が、体内で活性酸素の暴発を許す一つの要因となり、ガンを始めとする免疫系の疾患その他の成人病の発症要因になることは確かである。
 この他、亜鉛は蛋白質や糖代謝に密接な関係を持っており、不足すれば、成長阻害、皮膚炎、脱毛、精子形成不全、味覚嗅覚異常等を引き起こす。
 急増している味覚嗅覚異常は、日本人の亜鉛不足の実態を如実に物語っている。
 ガン、エイズが不気味な勢いで増えている今、栄養素としての亜鉛の必須性が、一般に広く認識されることを望みたい。
※亜鉛を多く含む食品
穀類(米、小麦、蕎麦粉、オートミール)、大豆・大豆製品(特に赤味噌)、種実(ゴマ、くるみ、ピーナッツ、アーモンド)、魚介類(数の子、たら子、かき、ふぐ、いわし、筋子等)、海草類(ひじき、わかめ、こんぶ、のり)、緑色野菜(大根葉、春菊、ほうれん草、パセリ等)、抹茶。
※亜鉛の吸収を阻害するもの
フィチン酸、ポリ燐酸、カルシウム、銅、アルコール。
※吸収を助けるもの
ビタミンB