ゼンソクへのNOx関与、国の疫学調査で初めて指摘

何故、ゼンソクのNOx関与を、はっきり認めないのか 思い切ったディーゼルエンジンの規制を阻むのは何故?

深刻さを増す 大都市のNOx汚染
原因は、 国の甘い環境基準と 自動車交通量の増大

 NOx(窒素酸化物)は、CO(一酸化炭素)やSOx(硫黄酸化物)とともに、代表的な大気汚染物質である。
 しかし、COやSO2(二酸化硫黄)が殆ど環境基準を満たしているのに対し、NO2(二酸化窒素)の環境基準達成率は60%台を低迷している。
 しかも、NO2の環境基準は78年7月に大幅に緩和され、環境庁はそれまでの「0・02ppm以下」を、1日平均値で「下限0・04ppm〜上限0・06ppmのゾーン内、またはそれ以下」とした。
 緩和にあたっては、目標「7年以内で基準達成」を掲げたが、10年以上経った今日も達成の目途はつかない。(図表1)
 国の甘い基準に対し、東京、大阪など首都圏の自治体では、81年以降、工場などに固定排出源からのNOx総量規制を自主的に実施している。それにもかかわらず、都市の大気汚染が一向に改善されない最大の原因は、自動車交通量の増大、特にディーゼル車の増大が最大原因とされる。
 現在、自動車からの排出量は深刻さを増すばかりで、排出量のうち、車が占めるウエートは東京67%、大阪47%、工場の多い神奈川でも37%となっている(環境庁推定)。
 80年代、景気は上昇したが、それに伴ってエネルギーの消費や、輸送量、交通量が増大したのが大きい。
 中でもディーゼル車の排出量は群を抜いている。燃費が安く、馬力の強いディーゼルエンジンは、トラックなどを中心にどんどん利用が増え、80年代末には、トラック全体の6割に達した。
 走行量は全車輌の20%に過ぎないが、NOxの排出量は50%を越す。
 ここ十年間での酸性雨、花粉症、ゼンソクの著しい急増ぶりは、NO2基準値の緩和と時期が重なる。
 新年早々発表された91年度「学校保健統計」では、子供(小、中、高校生)のゼンソクは、10年前の2倍以上、過去最高を記録した。
 経済効率優先で、人間や地球の健康をかえりみなかったツケが子供たちに回されている。
 だが環境庁は、今もって「NOとゼンソクの濃厚な因果関係」を、はっきりと認めようとしない。

環境庁による 『大気汚染健康 影響継続調査』 の背景
―小学生対象に5年間―

 環境庁は1978年に、NO2の環境基準緩和に踏み切ったが、その際、自治体や公害研究者から批判を受けた。
 今回発表された、『大気汚染健康影響継続調査|90年まで
の5年間、大阪、京都、埼玉の8つの小学校で、同一生徒約5、000人を対象|』は、
環境基準緩和の妥当性を検証する意味がこめられている。
 既に国は、79〜84年の30万人を対象した調査で、
|高濃度汚染地域ほどゼンソ
クが多い|という結果を得て
いる。
 それにもかかわらず、国は、88年、大気汚染公害に対して、SO排出量の低下などを主な理由に、高濃度汚染の「第一種地域」の公害患者の新規認定を取り止めた。
 これに対し、患者側は「NOxによる汚染の健康影響を重視して、公害患者の新規認定を行なうべきだ」と反発。
 今回の調査は、公害補償の在り方を検討するための作業の一環でもあった。
 今回、調査報告書は、
|ゼンソクへのNOx関与は否
定できない|と結論づけた。
だが、環境庁は、「ゼンソクは、大気汚染以外にもいろいろな要因(ほこり、ダニ、タバコ)が指摘されており、これだけで健康影響との関連があったとはいえない、今後も継続的に調査したい」(丸山晴夫・環境庁大気保全局規格課長談)と、依然、NOxとゼンソクの関係をはっきりとは認めない。

NO2(NOx) 高濃度汚染地域では、 ゼンソク発生率 最高6倍!!

 継続調査の結果によると、NO2濃度と1年あたりのゼンソク発生率の関係は、
a高濃度地域―大阪市西区の小学校0・076ppmで0・94%、同城東区0・068ppmで0・72%。
b低濃度地域―京都市左京区0・033ppmで0・16%、大阪市羽曳野市0・032ppmで0・35%という
結果が出た。
 NO2の環境基準「0・04―0・06ppm」より汚染度が高い地域は、低い地域の最高6倍もゼンソ発症率が高くなることが分った。(図表2)
 さらに、新規症状発症については、NO2の濃度が0・03ppmを超過する地区で、その発症率が高くなる傾向がみられた。この傾向は、特に男子に顕著であった。
 調査検討班座長をつとめた常俊義三・宮崎医科大教授(公衆衛生学)は、「ゼンソク様症状の新規発症が、大気汚染と何等かの関係がある可能性が指摘できる。NO2年平均値を0・03%以下に維持することが望ましい」と総括し、報告書は「大気汚染とゼンソクが何等かの関係を有している可能性は否定できない」と結論づけた。
 今回の調査に関し、吉田亮・千葉大学長(公衆衛生学)は、「調査は、5、000人の同一の子供を5年間かけて追跡調査した世界にも例のない徹底したもので評価できる。しかし、焦点が、環境基準上限0・06ppmを越えるとどうなるかだけに置かれているのは残念だ。むしろ、下限0・04ppmに焦点を当てて解析し直した方がいい。環境庁は他にも同様の研究を行っており、早く公開するとともに、複合大気汚染対策を早急に立てるべきだ」と指摘している。
 0・03ppmを越えたあたりで新規の患者が出てくることからいって、吉田教授のコメントはまことに当を得ている。そして、複合大気汚染対策では、ディーゼル車の規制を、厳重、かつ速やかにすることを避けては通れない。

NOxの削減は、 厳格なディーゼル車規制 しかない
ディーゼルエンジンの NOx対策改善を 阻むものは…

 ガソリン車のNOx規制の時は、「こんなに厳しい規制では、どの自動車メーカーもクリア出来ないかも知れない。しかし、このように規制しなければ車の使用を大幅に禁止せざるを得ない」という強固な世論をバックに、まずアメリカが、数年間の余裕をおいての、大胆な規制を公表した。(マスキー法案)
 マスキー法案が提出された当時、大方の予想は、「期限内に達成できる見込なしということで、規制はズルズルと延期されていくだろう」というものであった。
 しかし、ホンダ、スバル等日本車が、アメリカに先駆けて続々と規制のクリアに成功したのを突破口に、ガソリン車による汚染は、全体として許容できる範囲内におさまった。
 しかし、NOx排出量の多いディーゼル車への規制は、今、目先の自己の利益を重視する産業界からの反発もあって、「日本だけがそのように規制を厳しくしたら、他国との競争に負けてしまう」という錦の御旗を持ち出して、大局的な見地からの厳し過ぎる規制をしようとしないのが現状である。
 実は、日本の技術は、既にディーゼルエンジンのセラミック化にも成功している。NOxの厳しい規制のクリアにも目途が立ち始めているのだ。
 それを阻むものは、各国間の経済的思惑である。
 しかし、「NOxがゼンソクなど大気汚染公害の元凶の一つであるのは否定できない」という調査結果が出されたこの際、規制のアプローチを、地球規模からみてどうしてもこれだけはしなければならないという方向からの思い切ったものにしなければ有効策にはなり得ない。
 各国のエゴ、経済的思惑を優先している時はとうに過ぎている。
 思い切った手を日本は打てるのだ。
 このようにしない限り、規制強化とは名ばかりで、汚染の追認につぐ追認になってしまう。
 子供を始めとする多くの犠牲者を、その間に出し続けていくのは明白である。