健康作りとしての運動

 近年、車や電化製品の普及によって運動不足による弊害が目立ちはじめ、運動の重要性、有効性が叫ばれるようになった。
 国をあげて「健康づくりとしての運動」が奨励され、「生涯スポーツ」の言葉も生れた。
 その結果、スポーツクラブは隆盛をきわめ、水泳、ジョギング、マラソン、テニス、エアロビクスダンス、ゴルフ、ゲートボールと、若者から年寄りまで日本のスポーツ人口の裾野は大いに広がった。
 しかしスポーツ人口の広がりとともに「運動中の突然死」も多発しだし、また、死に至らないまでも運動によって思わぬ病気を招くケースや、スポーツ障害も目立って増えて来た。
 健康のために始めたスポーツで健康を害しては、本末転倒である。
 スポーツの季節、健康に役立つ運動を探ってみた。

多発、増加傾向の 運動中の突然死
ランニング中の心臓疾患 が最も多い

 運動中、運動直後の突然死が急増している。
 「東京都鑑札医務院」による最近5年間(84〜88年)の調査では、全国(東京多摩地区を除く)で624件。その数は、年を追って増える傾向をみせる。死因の80%は不整脈死、虚血性心疾患、大動脈瘤破裂などの心臓疾患。年齢層は9〜79歳の広い層に及び10代、50代、60代の順。働き盛りの40〜64歳では201件、全体の32%に及ぶ。運動別ではランニング中が最も多く、ゴルフ、水泳が次いだ。(図表1参照)
 症状が現れてから24時間以内に死亡するのを「突然死」というが、実際、死者の半数以上が既往症がなく、日頃健康を確信していたという。
 しかし死後に解剖をしてみると、本人も気がつかなかったうちに心筋炎にかかっていた、生れつき冠動脈が細かった、冠動脈硬化を起こしていた|など、何等かの欠陥
が心臓に潜んでいた者が殆どで、心臓系突然死の予防には、運動を始める前に心電図検査を始めとする事前のメディカルチェックが大きく左右する。
 直接の原因は自律神経の乱れ。運動によって交換神経の働きが急に高まり、血圧や心拍数が急に上がることによる。
 誘因としては過労、睡眠不足、徹夜、飲酒直後などが上げられる。

健康作りに エアロビクス運動
歩行のすすめ

〈エアロビクスとは〉
 健康に良い運動として「エアロビクス―有酸素運動」が提唱されている。
 エアロビクスとは、酸素を十分に摂り入れながら持続的に行なう運動で、一定時間に身体が取込む酸素の量を増大させることを目的とする。
 運動生理学の池上晴夫医博はそのための条件として、
・動的な全身運動であること
・自分の体力に照して、強過ぎない運動であること
・数分以上続く運動であること
をあげている。
〈有酸素運動の身体的効果〉
(図表2)
 このような有酸素運動を行なうことによって、次の身体的効果がもたらされる。
・血管系を強化し肺活量を上げる|
動脈の若さが保たれるので、心臓病、糖尿病、腎臓病、高血圧脳の老化など成人病の予防になる。(図表3)
・体力・筋肉の強化|筋肉、体力
が衰えるとカリウム、クレアチン、カルシウムなどが尿に排泄され、その結果、骨粗鬆症、結石(腎臓、膀胱)を引き起こしやすくなる。
また、腰痛、肩こりなどを予防する。
・肥満の予防|食べ過ぎと運動不
足が肥満の最大の原因であることはいうまでもない。
・消化運動を助ける|大腸ガン、
便秘の予防になる。
〈エアロビクスのいろいろ〉
(図4参照)
 エアロビクスは酸素を十分に取入れ、持続的に行なうため、必然的に穏やかな運動となり、安全性も高いと思われている。
 エアロビクスに適した運動としては、水泳、ランニング、サイクリング、エアロビクス体操(ジャズダンスを含む)、歩行などがあげられる。しかし、突然死を最も招く運動はランニング(ジョギングを含む)である。
 私達は健康に適した運動としてウォーキングをあげたい。
〈ウォーキングのメリット〉
・身体的効果としては有酸素運動効果の他、足裏の刺激が自律神経のバランスを保つのに役立つ。さらに下半身に集中している「緊張筋」が鍛えられることで、脳の活性化につながる。
・安全性が極めて高く、ペース配分如何で誰にでも適した運動となる。
・比較的服装を問わない。(靴だけは選ぶようにする)
・何処でもできる。
・特別の時間を作らずとも、日常生活の中で行うことが出来る。(通勤、通学、買物時などを利用する)
・季節、景色を楽しめる。
・旅行、俳句、絵画など他の趣味につながりやすく、自分の世界が広がって来る。
・クヨクヨ、イライラがなくなる。
・費用がかからない。

運動をする上での 日常生活の注意

・定期的にメディカルチェックを受ける。特に心臓系統のチェックは欠かせない。
・体内での抗酸化力を常時維持する
・酸素を取り込むとそれだけ体内での活性酸素量を増やすことが分っている。活性酸素は細胞の生体膜を過酸脂質化させ、動脈硬化の引き金役となり、ひいては突然死の重要な要因となる。運動のし過ぎは禁物である。
・体内で抗酸化酵素の働きを助ける亜鉛、銅、マンガン、セレン、鉄のミネラル、抗酸化ビタミンのA、B、C、Eを不足させない。
・そのためには、微量栄養素を多く含む自然食と、必要なビタミン・ミネラル等のサプリメントの摂取に努める。
・毛髪分析は、不足ミネラルのチェックに有効な手段となる。
・喫煙は運動の最大の敵
・血液の酸素運搬能力を甚だしく低下させるため、組織に酸素を運搬する能力の低下、運動能力の低下を引起こす。
・また、呼吸機能も低下させるので、疲れやすくなり、運動能力も低下させる。喫煙者の運動では肺機能の向上が望めないデータが出ている。
・交感神経が高まるので、心臓への負担は図り知れない。
・休養、睡眠を十分とって予備体力を備えておく。

実際に、 運動をする上での注意

・ウォーミングアップ、クリークダウンを必ず行なう
・柔軟運動を、始める前と終わった時に必ず行なう。
・特に急激に運動を止めるのは体に悪い。一時間の歩行で10分間の整理体操を。
・脈拍が正常に戻ってから、微温シャワーを浴びる。
・体の異常な時は運動を休む
・空腹時、満腹時は避ける
・空腹時は遊離脂肪酸の濃度が高くなっているので、不整脈や心筋毒の原因になることがある。
・満腹時の運動は体の負担になり、消化活動を阻害する。食後最低1時間後に。
・寒暑の激しい日の戸外での運動はなるべく避ける
・特に高齢者、高血圧、心臓に異常のある人、呼吸系の弱い人は絶対避けるべきである。
・早朝はごく軽い運動を選ぶ
・「早朝ジョギングは突然死につながりやすい」、「突然死は午前10時前後多い」というデータが出されている。
・起床直後の運動は交感神経が急激に高まるため、心拍数や血圧が異常に高くなりやすいためである。
・早朝の運動は、体調に合わせ散歩、速歩、柔軟体操(ヨガや気功を含む)など、ごく軽い運動に留める。
・起床時も、寝床で伸びやあくびなど十分に行い、交感神経を徐々に目覚めさせることが重要。
・過激な運動は不可
・過激な運動は免疫活性を弱め、スポーツ障害、事故などを起こしやすく、健康作りには全く不向きである。
・エアロビクスの中でも種目によっては、人により過激となりうるので、自分に適したものを選ぶのが重要である。(図4参照)
・無理は絶対禁物
・無理な運動でストレスを受けると、ホルモンの分泌が低下し、そのため筋力が衰えたり、骨がもろくなる。
・ツライと感じて来たら運動を中止し、気持ち良く感じる程度のペースをあくまで守る。たとえウォーキングでも、歩き疲れたら喫茶店に入る、ベンチで休む、帰路は乗物を利用するなど、これは特に高齢者には大事な注意点である。
・脱水症状に気をつける
・汗をかく運動では、ナトリウムや糖分を含んだ水分補給が欠かさない。本誌の提唱する日本人の食事指針のクラスターの小さい水を適宜補給する。
・水分を補給しないで汗を沢山かくと「熱疲労」――体温は上がらず、顔色が青くなり、皮膚温が下がり、ベタついた汗をかく――を起こす。
・めまい、吐き気、頭痛などの症状に加え、ふくらはぎや太ももの筋肉攣縮を起こし、ひどくなると意識不明や死亡に至る。
・筋肉疲労が残る運動は中を空けて週2〜3回、筋肉疲労が残らない運動は毎日が適当。