第50回日本癌学会総会から

ガンの予防は、ライフスタイルの改善しかない
食事・禁煙・睡眠から性生活まで

5年後生存率の向上と、 死亡者数の増加
―1次予防の重要性―

 1941年に「日本癌学会」が発足して、今年で50年。
 近年、ガンの研究は著しく進み、特にここ10年で長足に進歩した。
 ガン完治の指標とされる「5年後生存」は全体平均で50%を越え(全体55%、男44%、女65%)、ガン治療は着実に成績を上げている。(図表1)
 しかし「治療成績の向上」にかからず、「ガン患者、ガン死者の増加」は止まるところを知らない。
 昭和58年から死亡原因のトップはガン、今やガン死亡者は、全死亡者数の三分一に迫り、年間死亡者数は20万人を突破した。(図表2)
 このままでいくと、死亡者数は今後も増え続け、減少に転ずるのは40年後だと予想されている。(東北大医学部・濃沼信夫教授による国内ガン専門家2800人のアンケート調査)。
 ガン予防に関しては、今まで2次予防(早期発見)、3次予防(転移予防‖治療)が先行し、最も重要な1次予防(ガンにかからない)に決めてを欠いていた。
 しかし疫学的研究が深まるにつれ、「ガン予防」は生活習慣、特に食生活が重要な鍵を握っていることが次第に明らかになり、"生活改善に努めれば、70%はガンの危険を避けることが出来る"と言われるまでになった。
 今回の癌学会の周辺から、ガンを予防する生活習慣、食生活を取材した。

何故、人は、 ガンになるのか
―ライフスタイル の歪み―

 研究がかなり進んでいるとはいえ、発ガンの仕組は未だ不明の点も多く、ほぼ解明される迄には今後20年かかると予測されている。
 しかし、種々の原因が個別に取り沙汰されていたガンも、現在は「ガン遺伝子」の発見によって統一的に説明できるようになってきた。
 現在のところ「ガン遺伝子」については、
・もともと人は何等かの原因で、ガン遺伝子になる因の遺伝子を生まれつき持っている。
・正常遺伝子がイニシエーター(発ガンを仕掛ける原因物質)によって変質し、ガン遺伝子化すると考えられている。
 どちらにしても、ガンの発生は、ガン遺伝子がさまざまな原因によって目覚め、作動することによって起こる。
 その原因も、現在では、特定の発ガン物質やウイルスというより、様々な原因物質の組み合わせと、|食事・栄養、飲酒・
喫煙習慣、労働、ストレス、セックス、睡眠|などライフス
タイルの歪みが問題視されるようになってきた。
 20歳ともなると大抵の人がガン細胞の芽を持ち、それが小豆大までに成長して早期発見されるまでには、通常10〜30年かかるといわれる。
 その間、問われるのが生活様式で、ガン細胞の芽を持っていても、発病に至らないためには、今のところ、食生活を含めた生活習慣の改善しかない。

ガン化のメカニズムと 原因物質
ガン化へのステップ
第1段階―イニシエーション

■(発ガン開始)
 細胞のガン化はまず、イニシエーターが、正常細胞の遺伝子を変異させガン遺伝子を作る、またはもとからある活動を抑制されたガン遺伝子を目覚めさせることによって、開始する。
 イニシエーターとなるものは、放射線、紫外線、ウイルス、化学発ガン物質(代表的なものにタール中のベンツピレン)などがある。(図表3)
第2段階―プロモーション
(発ガン促進)
 イニシエーションを受けても、即、ガン細胞の完成とはならない。
 イニシエーションを受けた細胞の細胞膜に変化を起こし、異常化した細胞が分裂して、始めてガン細胞は完成する(プロモーション)。
 この発ガンを促進する原因物質をプロモーターといい、イニシエーションを受けた細胞は、長期間、プロモーターの刺激を受けてガン化が完成する。
 プロモーターはまだはっきりしないが、フリーラジカル、活性酸素、食塩、ある種のアミノ酸がその働きをしていると思われている。
第3段階―プログレッション
(増殖)
 しかも、プロモーションが起きても、即、ガンの発病とはならない。体の免疫細胞がガン細胞を殺していくからである。
 ガンは、増殖の過程(プログレッション)によって始めて、悪性化‖疾病化するのである。
 このように、ガン発生、ガン発病までにはステップ(図表4)がある。イニシエーター、プロモーターのどちらを欠いてもガンは発生しない。またガン細胞が発生しても、免疫機構がしっかり働いていれば、容易には発病に至らない。
 この発ガンのメカニズムから、第1次予防の最重要は、「発ガン因子(物質)を出来るだけ遠ざけること」と、「免疫を高めるライフスタイルを持つこと」であることが分る。

高塩分食

 食塩は胃粘膜をただれさせるため、多く摂ると胃ガンのプロモーターになると考えられている。味付けは薄味を鉄則にする。
 また、燻製、漬け物、乾物などの加工食品中の塩分は、非常に危険な発ガン物質となる亜硝酸塩、硝酸塩を生み出す。加工食品中の塩分は、特に注意を要する。
〈尿分析で実証された、胃ガンと塩分摂取量の相関関係〉
 体内の塩分量はほぼ一定しており、尿に排泄される食塩量が塩分摂取量を反映している。
 国立がんセンター研究所・津金昌一郎・疫学研究所所長はこれに注目し、全国5地域から40歳代の男性170人とその配偶者を対象に尿を調査した結果、胃ガン死亡率と尿中の食塩量は見事に比例した。(図表6)
 従来より、胃ガンの死亡率が高い地域は塩分摂取量が高いことが、動物実験や聞取り調査などで知られていた。今回の調査は、尿中食塩量という客観的な指標を用いて従来の説を実証したことが、高い評価を受けている。

ガン予防の決め手は、 免疫力

 免疫力が弱くなると、あらゆる病気にかかりやすくなるが、ガンも例外ではない。ガン予防のライフスタイルとは、とりもなおさず免疫力を高めるライフスタイルとなる。
 体内でガン細胞を排除する役目をしているのは、殆どが免疫担当の細胞で、特にキラーT細胞、NK細胞が強力に働いている。

NK細胞の活性

 免疫細胞の中でも、最も早いうちにガン細胞にアタックするのがリンパ球のNK(ナチュラル・キラー)細胞で、ガン細胞を初期段階で殺す重要な働きをしている。
 今回発表された埼玉県立がんセンター研究所の調査でも、NK細胞とガン抑止効果は、はっきり裏付けられた。
〈免疫力の高い生活習慣と、
ガン死亡率の相関関係の調査〉
 埼玉県立がんセンター研究所は、四十歳以上の男女約3000人を対象に、86年から三年間、|食事や労働などの
生活習慣と体の免疫力との関係|特にNK細胞の活性を調
査した。
 その結果、
・NK細胞の活性が高い人は、
a緑黄色野菜、大豆、乳製品を多く食べている。
b食事を規則正しく摂っている
c7時間以上の睡眠を規則正しく取っている。
d三時間以上の肉体労働をする。
e適度の飲酒者。
・NK細胞の活性が低い人は、
a肥満、または痩せ過ぎ。
b1日6時間以上の肉体労働者は、全く労働しない人と同程度に低下している。
・この結果に基づき、NK細胞を高めるライフスタイル――バランスの摂れた食事、規則正しい生活習慣、適度な運動――などを指導したところ、ガン死亡率は、調査を開始した86年に比べ、約30%も減少した。

キノコ類などに多く含まれる 多糖類の免疫賦活作用

 サルノコシカケ、シイタケ、エノキダケ、マツタケ、シメジなどキノコ類には抗ガン作用があることが分っている。これは、主にキノ類に含まれている多糖類が作用していると考えられている。
 多糖類には、「細胞交換促進作用―細胞間の伝達を活性化させ、傷ついた細胞を賦活させる働き」と、「免疫賦活作用―免疫に対する反応を強化させる働き」があると言われている。
 キノコ類の抗ガン作用は、免疫賦活効果が特に大きいと思われる。
 事実、キノコの成分には直接、ガン細胞を殺す働きはない。
〈ヤマビコホンシメジにおける高い抗ガン作用〉
 国立ガンセンター研究所・池川哲郎教授グループの20年来の研究で、キノコ類の中でも、ヤマビコホンシメジには、特に強い「制ガン効果」、「転移抑制作用」があることがマウス実験で明かにされた。
 成分抽出エキスの注射、経口投与ともに効果があったが、試験官にシメジエキスとガン細胞を一緒にした実験では効果はなく、シメジの有効成分は、血液中に取り込まれ、その結果、免疫効果が現れるということが分った。
 さらにシメジには、「ガン予防効果」も確認されている。
 しかもキノコの有効成分は、ビタミンなどと違い、一過性ではなく、穏やかな作用で、長く体の中で有効に働くということも分っている。(静岡県立大学薬学部・佐野満昭教授)。
 キノコ類は食物繊維も豊富で、急増している大腸ガン予防に、大いに役立と思える。
 国立ガンセンター・池川博士は「できるだけ沢山食べた方が有効だが、目安として4人家族で1日1パック(100g)食べるといい」と語っている。
 なお、ヤマビコホンシメジは一般に食用とされているホンシメジのうち、96%のシェアを持つ、長野県経済連が栽培、販売している商品名である。

自然食ニュースが勧める ガン予防の ライフスタイル

〈食事〉
a無精白穀類を摂る
抗過酸化効果に優れるビタミンB類、E、ミネラルなどの微量栄養素を多く含む。大腸ガン予防に不可欠な食物繊維も豊富。
b野菜は、種類、量とも多量に
・緑黄色野菜―強力な抗酸化力を持つベータ・カロチンを豊富に含み、ビタミンCも多い。特にニンジンを多く摂る。
・アブラナ科の野菜―大根、かぶ、白菜、キャベツ、ブロッコリーなどアブラナ科の野菜には抗ガン作用が認められている。
・根菜類―ミネラル、食物繊維が豊富。
・キノコ類―抗ガン効果があるので、毎日一回は摂る。
・芋―炭水化物、食物繊維、ビタミンC、B類、ミネラル類に富む。
・豆―蛋白質、ビタミンA、B類、ミネラルも豊富。大豆には抗ガン物質も含まれている。
・旬の果物|朝に摂る。
c魚貝類を一日一回程度摂る
抗酸化ミネラルのセレンが多い。また魚の脂肪は、血管をきれいにする作用があるので、結果的にガンを予防する。ただし、海洋汚染にはくれぐれも注意する。
d海草は必ず摂取する
ミネラルと食物繊維の宝庫である。
e脂肪は1日20g以下に
コレステロールの多い動物性脂肪、酸化しやすい植物性脂肪、ともに控える。特に大腸ガン、乳ガン、前立腺ガンは高脂肪食との因果関係が強い。
f高タンパク食に注意
高タンパクを摂り続けるのも、発ガンの危険を高める。特に、肉や乳製品など動物性食品は、高脂肪、高タンパクなので摂らないにこしたことはない。
g塩分は1日10g以下程度に。
h突然変異誘発物質、発ガン物質を含む食品を避ける(図表7)
化学添加物の多い加工食品、燻製、漬け物、乾物などは最小限度の摂取にとどめる。
i節酒・禁煙
特に、酒とタバコの両方を嗜む人は、発ガンの危険ぐんとが高くなる。
j適正量のビタミン、ミネラルの総合サプリメント、ビタミンCのサプリメントを毎日、できれば毎食摂る。
k水道水は浄化してから飲む。浄化しない水は、トリハロメタンなど発ガン物質を含んでいる可能性が高い。クラスターの小さい水は発ガン予防効果がある。
〈適度な運動〉
 体力、特に免疫力を高める。ただし、過度の運動量、激しいスポーツはかえって免疫力を弱めることが分っている。毎日の運動としては、ウォーキング、ヨガ、気功、ストレッチングなどが最適。
〈十分な睡眠と休養〉
 睡眠、食事ともに、体内リズムにあわせて規則正しく取ることが望ましい。過労は免疫力を弱める最たるものである。
〈バランスのあるセックスライフ〉
 初性交が早い(20歳未満)、若い時の体験が豊富、早い時(60歳以下)期にやめてしまうなどの男
性に前立腺ガンのハイリスク傾向がみられる。(京都府立医科大学泌尿器科学教室チーム調査)
 また、性交経験が極端に少ない女性、多い女性には、それぞれ特徴的な乳ガンや子宮ガンが多発する傾向がみられる。
〈生きがいを持つ〉
 退屈、不満、怒りに満ちた時間を多く過す人は、たとえ他の条件は満たされても、精神的ストレスで、免疫力を極度に低下させてしまう。
 反対に、生きがい、やりがいのある時間を多く持つ人は、他の条件が多少満たされずとも、免疫活性は高い。
(取材構成 功刀)
参考文献 『第50回日本癌学会総会資料』、『癌は予防できるか』共立出版、O・アラバスター著、『がん化のメカニズム』読売科学選書、児玉昌彦著、『ガンが怖くなくなる日』明治製菓発行、編、『ナチュラル・メディスン』春秋社、アンドルー・ワイル著『ウータン|今「食」が危ない』学研驚異の科学シリーズ