この人に聞く 34

旬の魚と野菜で、血栓症を防ごう!!
数多くの野菜に発見された抗血栓効果

東邦大学医学部 五十嵐紀子先生(生 化 学)
山口了三先生(第一内科助手)

魚から野菜にまで広げられた 抗血栓食の研究

 健康な生活を送るためには、病気になってから薬で治すのではなく、日常生活から、特に健康と密接な関係を持つ食事から病気を予防していくことが、最も大切であると私達は考えています。
 それでは抗血栓食を考えた場合、血栓を予防する食物成分が魚に含まれるEPAやDHAだけにしかないとすると、魚にEPAが少ない時期は、魚を相当な量食べなければならず、また魚が嫌いな人達もいます。食事は栄養のバランスをとることが重要ですし、また、おいしいということも欠かせない要素です。
 そんなことから、私達の研究は魚だけでなく、他の食品にも広がっていったのです。
 昔からユリ科・アリウム属の野菜―ニンニク、玉葱、ネギ、にら、エシャロットなどに血栓予防効果があることはわかっていました。
 また研究の過程で、漢方薬「冠心A号方」の構成生薬―川●せんきゅう)の成分「ピラジン」に血栓予防効果があることを知りました。
 それなら、もっと多くの野菜にも血栓予防効果があるのではないかと、ニンニク、玉葱を含む四八種類の野菜、五六種類の果物を取り上げて、一つ一つを調べ出したのです。
 アリウム属以外の実験はまず試験管で行われ、野菜の可食部分をジューサーにかけその上澄みをこしたものを一〇倍に薄めて、静脈血での血小板の凝集抑制効果を調べました。その結果、活性の強いもの、弱いもの、全くないものまで、いろいろあることがわかりました。(図1)
活性が強いグループでは、五〇%以上の抑制効果がみられました。
 試験管内での効果を確かめた上で、今度は実際に食べてみての効果を調べました。
 四人の健康な女性にホウレンソウ二〇〇グラムを茹でたものを食べて貰い、食前、食後の血液を調べてみました。すると四人のうち三人に明確な血小板凝集能抑制効果がみられ、実際の食生活の中でも、野菜の抗血栓効果は有効だと確信したわけです。
 ただし、野菜の持続効果は魚(四日位)より低く、五〜六時間で消えてしまいます。野菜は毎日毎食摂ることが必要です。

有効成分の解明

 ある種の野菜や薬草に抗血栓効果があることはわかっていても、成分の研究は、つい最近になってからのことです。
 一九七〇年代頃から国内外でニンニク、玉葱などについて分子レベルの成分が発表され出し、私達も同じ頃に研究を始めました。玉葱については、今では二十種類以上もの有効成分がみつかっています。
 冠心A号方の一成分「ピラジン」については、ピラジン類を含む全ての食品に抗血栓効果がみられました。ピラジンは香気成分の一つで、コーヒーやパンの焼ける時の香りにも含まれています。味噌に含まれている有効成分も、ピラジン(メチルピラジン)です。
 図1を見ても分かるように、血栓を予防する野菜には、香味野菜が多いのです。各民族は、固有の香辛料を持っています。生活の知恵で、食卓に欠かせないものとして香辛料がとり入れられたのでしょう。冬は寒さ(血管が収縮されやすい)で、夏は暑さ(血液が濃くなりやすい)で血栓症が発症しやすくなりますが、寒冷の地では海獣や魚、暑い国ではスパイスが使用されている事実は興味深いことです。「香気成分」は、これからの私達の研究テーマの一つになります。
 血小板凝集能抑制の有効成分は、魚はEPA、DHAとはっきり分かっていますが、野菜については成分の多くがまだ突き止められていない現状です。
 抗血栓食メニューが科学的に認められ、病院食などにも採用されるには成分の解明が必要とされます。抗血栓食メニューが公に認められるためにも、成分のさらなる解明と、血栓発生の過程でどの段階で阻害されるかを突き止めることなどがこれからの課題です。
 なお、野菜や果物が血小板の凝集を抑制するのは、玉葱などの場合は、血小板を凝集する物質「トロンボキサンA2」の活性に必要な酵素の働きを阻害する成分が、多量に含まれているからです。

品種、部位、食べ方に よって異なる 野菜の効果
―新品種より在来種―

 同じ野菜でも、品種によって効果が違ってきます。
 ホウレンソウは、葉の緑が濃くて、葉先がとがり、根元が赤い在来種のものに活性が強い。昔ながらの「えぐみ」のあるものです。また茎より葉の方に強く活性効果があらわれました。
 玉葱も、切るとたちまち涙が出てくる辛い品種に多く、最近の刺激が少なくマイルドな新品種ほど、効果が薄くなります。
 野菜の改良は食べやすい方向へと進んでいますが、改良されたものは血栓予防効果が薄く、野菜の成分全体が希薄になっているとも考えられます。

―調理法―

 魚と同様に、野菜も調理法によって抗血小板凝集活性の効果が大分違ってきます。
 玉葱は、電子レンジで加熱したものでは効果が現れず、生のスライスや、すりつぶしたものに活性効果が現れました。そこで、催涙成分に関係しているのではないかと、すりつぶしたものを一晩置き(玉葱をすりつぶして放置すると、C―Sリナーゼという酵素が働き、いろいろな成分が出てくる。催涙成分もその一つ)、それをこして凍結乾燥させたものを飲んでみたら、見事に高い効果が現れたのです。どうも玉葱は、涙の出る成分を出さないと効果がないようです。ニンニクも生のまますりつぶしたものに高い効果が現れています。
 成分とともに、有効な食べ方に研究の主眼を置いてる共同研究者の並木和子さん(椙山大学家政学部教授)達によると、紅茶は濃い色のスリランカ産、ケニア産に活性が強く、浸出時間は三分がピークだそうです。また、緑茶は煎茶がよく、二番煎じ、三番煎じでは効果が激減するそうです。

効果的な抗血栓食メニュー
―魚五〇〇点と野菜五〇〇点 の組合わせで―

 野菜だけで血小板凝集阻害効果を生むには、有効野菜で一日約一キログラム、効果の強いホウレンソウでも一日約六〇〇グラム食べる必要があります。
 また、魚、野菜、果物、味噌など、食物に含まれる各有効成分は、働く場所もそれぞれ違うと思われます。
 そこで、これらの食品を組合わせることによってより効果を高め、他の栄養素とのバランスもよい「抗血栓食メニュー」を考えてみました。多くの食品を組合わせることで、料理のレパートリーも広がり、食事もより一層楽しいものになります。
 活性度に応じて点数をつけ(図1)、野菜から五〇〇点以上、魚から五〇〇点以上で合計一〇〇〇点以上になる栄養的にもバランスのとれた「抗血栓食メニュー」の誕生です。(図2)
 トータル一〇〇〇点以上で、血液が固まりにくく、血栓症の発症を防ぐ状態になりました。

薬でなく、食事を大切に
―抗血栓食を 一般の家庭に広めたい―

 心臓病(死亡原因第二位)、脳卒中(同三位)と、血管の病気はこれからますます増えていくと思われます。
 予防の第一はまず食事です。
 私達は、この抗血栓食の研究が広く一般に知られ、家庭のメニューに応用され、増え続ける血栓症の予防の一助となれたらと研究を続けてきました。
 魚からEPAを取り出して、薬剤化することも行われています。しかし、薬は長期に飲まないと効目が現れません。吸収が悪いのです。実際、食事中に食物を食べながら飲まないと、殆ど吸収されません。薬を飲むことよりも、毎日の食事から病気を予防していくことがどれほど大事なことか。
 食品は、抗血栓効果だけでなく、生体調節のさまざまな機能を持っていることがわかってきています。
 食事を心して取って欲しい、
これが私達の願いです。
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出版の予定
 東邦大学医学部を中心とする共同研究グループは、研究の成果が広く知られるために、近く本を出版する予定にある。
 抗血栓食の普及にかける両先生の情熱は並々ならぬものであった。インタビューでは毎日の食事の大切さが繰り返し強調され、特に、病をおして地道な研究を長年続けてこられた五十嵐先生の抗血栓食に向ける情熱には胸を打たれた。
 本の発刊が待たれる。
(インタビュー構成功刀)