この人に聞く 29
地球環境汚染から、地球再生の道へ
地球環境財団調査研究理事 農学博士・立正大学経済学部長
福岡克也教授
福岡克也 1930年生。東京大学農学部卒。農学博士。現在、立正大学経済学部長。経済財団法人地球環境財団調査研究理事を始め、各環境団体に所属。著書 『人間環境経済論』(御茶ノ水書房)『森と水の思想』(世界書院)『森と水の経済学』(世界書院)『地球大汚染―黙しているのはもう限界だ』(青春出版)『環境破壊の構図を読む―地球再生への道』(時事通信社)。
「地球時代」を迎えて
地球時代(地球規模で思考し、地球規模で行動し、地球規模で新たな文明を創造しなくてはならない時代)を迎え、これに対処して行くべき人間のあり方が真に問い直されている
福岡先生の近著
『環境破壊の構図を読む』より
国境を越え、地球規模で広がった環境汚染は、もう、どうにもならないところに迄来ている。生命と不可分の―大気、水、土壌の汚染は止まるところを知らない。
フロンによるオゾン層破壊、COによる地球温暖化、化石燃料による酸性雨被害、農薬や化学肥料にまみれ死に瀕した農地…等等。
今や、地球生命体の存続の危機にまで至った環境汚染であるが、私達は、地球規模で広がった環境汚染の実態を、どれだけ知っているだろうか。
福島先生は「巨悪の根源は無知である」と自著で語る(『地球大汚染、黙しているのはもう限界だ』)。知らせないことから生ずる無知、知ろうとしないことから生ずる無知、いずれにしても人々の無知が環境汚染の拡大に拍車をかけた。この問題に関して、無知は無邪気には通じない。
福岡先生はしかし、徒に事態を嘆くのではなく、地球環境汚染を「人類が現代文明の存り方を問い直し、新たな文明を創造する」課題の提起だと捉える。そして私達人間は、今こそ、地球の叫びを真剣に聞き、その状態を知り、そこからなすべきアイディアを謙虚に学び取り、地球再生への道を歩もうではないかと提唱する。
生態系を破壊する地球環境問題の構図
産業革命後、人間の(科学に支えられた)産業と、経済(貨幣経済)の活動が、地球の生態系に強く影響するようになりました。以後、科学の発展と共に資源の収奪と環境への汚染は進み、特に二十世紀に入っての急速化、さらには近年の急ピッチな加速化で、地球規模の環境破壊に迄至ったのです。
地球規模での環境破壊は、
・オゾン層破壊 二十世紀初頭から使用されて来たフロンは、大気中では分解されず、長い時間をかけて成層圏に達し、強い紫外線を浴びて分解される。この際、放出される塩素がオゾン層を破壊し、オゾンに吸収されていた有害紫外線は、地表にこれまでの二倍以上の量で到達。この結果、皮膚ガンや白内症の増加、地球の生態系への打撃が予想される。先進国の産業界では全廃の方向に向かっているが、途上国の使用は増えつつある。
・地球温暖化 化石燃料の消費に伴うCOの増加と、地球の肺とも呼ばれる熱帯雨林の破壊消滅(主に焼畑農業と乱伐)が地球温暖化をもたらし、生態系に打撃を与える。
・酸性雨 化石燃料消費の結果生ずる酸化物で雨の酸性度が強まり(PH5.6以下)、森林の枯死、土壌中のアルミの溶出、水の汚染、死の湖、建造物の破壊などをもたらす。国境を越えた公害の代表的な一つ。
以上が、代表的なものとしてあげられます。
人間の物質的豊かさと利便性の追及が、地球を破壊し、自分自身をも破壊してしまう結果を生み出しました。加害者でありながら被害者にもなってしまう悲惨な構図が出来上がったのです。
自然とのアンバランスな物質循環
企業(最大の利潤をあげる目的を持つ)↓自然界からの大量収奪↓大量な非自然的生産物↓大量消費↓大量な非自然的廃棄物↓強引に自然界へ戻す|。
人間は今、自然の生態系から自然を破壊する方法で資源を奪って利用し、その廃棄物を自然界に再利用できない形で戻しています。
自然から多様な利益を引き出すために自然から取り出した物を高温・高圧等で化学変化させ、自然界には存在しない物質に変え、これを自然界に戻す…。自然はとても適応対処できるものではありません。この物質循環のアンバランスが今日の地球環境汚染をもたらした大きな要因です。
このアンバランスな物質循環は、短期小規模的には受容可能ですが、長期大規模的には破滅につながってしまう。
消費者の環境アセスメント への努力―特に女性の役割は大きい
企業の活動は、資本主義、社会主義を問わず、貨幣制なくしては成り立ちません。そして今や、貨幣経済を変え、元に戻すということは不可能な状態(不可逆的状態)となっており、このことが危機を招いています。しかし、多くの人はこの状態に陥っていることにすら気づいていない。ただ、生命と直結する大気、水、土壌が汚染されてきたので、知らず知らずの不安感は、今、ジワジワ広がってきていますね。環境破壊の解決は非常に困難でありますが、とにかくやらねばなりません。
まず、環境アセスメント(実情の調査と客観的評価)を誰がやるか。私は、消費者の努力が非常に重要だと考えています。
消費者は、生産から廃棄の過程まで知悉し、今までの告発型の運動を予防運動にかえる必要があります。一人一人の消費者がいろいろな部分で、今まで受けた教育を商品検査に還元して商品情報をつかむ。さらに個人の持っている商品扱いのノウハウ―など、これらの情報を一つに結集する。そしてそこから企業に影響力を持ち、企業に働きかけ、環境にやさしい商品を作らせる。
ドイツで生まれ英国で育った「緑商品」は、消費者団体が商品テストを行い、環境にやさしい商品を仕分け(選定)して選ばれた商品です。選ばれた商品のメーカーは、団体から緑商品のシールを買って商品に貼りつけます。そのシールの代金は団体の活動資金に還元されます。
消費者も企業も一つになって「自然と人間の共生」を実現していくことが、これからの地球時代に必要な生き方になってきます。
そういう点で、僕は女性に期待しています。女性は、生命、生活、商品と密着していますから、女性の立場からの環境問題へのアプローチはとても力を持つものと思います。共働きの期待される成果の一つに、女性のノウハウを産業界に反映させることがあげられます。これを働く目的意識の一つにして欲しい。また女性の役割として、家庭での環境教育の重要性も見過ごせません。
僕はヤンチャで派手な性格に生まれついた(笑い)と思ってますが、質実剛健の家庭に育ったことで物を大事にするということが身についています。見せびらかしをしない、質素倹約、肉を食べない、自然食、人の話を素直に聞く、おおらかというのが僕の生活信条。農学を専攻したのも、日本画家の母親に育てられて自然への愛に目覚めたことが多分に影響しています。教育、特に家庭での教育は非常に影響力のある大事なものです。
地球時代は、自然培養型文明へ
―農業の再生が地球の再生に―
GNPでは豊かさは計れません。大量供給―大量消費の結果被る損失は、図り知れない。
エコロジー(環境保全)を経済のコンセプトにし、自然培養型文明を創造しなければ地球再生は不可能です。
その中でも特に農業は、自然本来の物質循環の砦としてあるべきです。
僕は、米の自由化には大反対です。水田は炭酸ガスを吸収しかつ酸素の供給源であり、貯水槽であり、浄化槽であり、洪水調節ダムでもあります。水田こそ、日本の誇るべき資源なのです。減反化し水田を潰すデメリットは、安い輸入米の供給のメリットをはるかに越えます。
米国型化学工業的大規模農業で、土地が砂漠化し、健康被害(ガン化、アレルギー化)が出ている教訓を学び取らなければなりません。
農業は人口を養うと共に地球の生命を養っているのです。
エコロジーの本質に立ち返った農業―自然農法は、地球再生への道ともなるのです。
(取材構成 功刀)